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未恋(みれん)  作者: ゴマ団子
3/3

甘くて不味い。

夏の花火が上がり、周りが賑やかになる頃、眠り姫とは違う別の場所で、愛の告白がされていた。


「私、あなたのことが好きです」


彼女は一緒に来ていた彼に勇気を出して告白した。

ただ、彼女は眠り姫の様に動揺はしていない。

ただ、自分の気持ちを伝えただけ、そう考えていた。


「僕もあなたのことが好きです」


また、彼はこの花火大会で告白しようとしていたのを彼女に先取られた。

いつもお淑やかな彼女が両想いである事に喜び、彼女は彼を抱きついた。

彼はその綺麗な彼女にそっと抱きしめ返した。

ここにまた一つのカップルが誕生した。

これは二人の大学生の甘い恋愛の物語。

この時の二人の恋はほどよく甘かった。

これがさらに甘くなり、それが不味くなるとも知らず。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ごめん!待った?」


「大丈夫ですよ。さっき着いたばかりですから」


まだ残暑が続く中、二人の初デートが始まった。

十分に太陽が照りつけ、秋が来るのか心配になる。


「じゃあ、どこに行きましょうか?」


「んー、そうだなぁ。映画とかどうかな?」


「いいですね。じゃあ近くの映画館に行きましょうか」


「そうだね」


映画館に向かう道中も彼女と彼の楽しいお喋りは途絶える事はなかった。

そして映画館に着いた二人は恋愛映画を見た。

その後、カフェでたくさん話をし、一緒にお買い物に行った。

ただ、二人は楽しかった。

互いに付き合えて本当によかったと心から思った。

そして夕暮れ。


「あのさ」


彼は彼女を呼んだ。


「これ、よかったらもらってくれないかな?」


彼が渡してくれたのは綺麗な装飾の施されたネックレスだった。


「いいの?」


「ああ、絶対に似合うと思ったから、買ったんだ。つけてみてよ」


彼女は嬉しそうにネックレスを受け取り、つけた。


「どう、かな?似合ってるかな?」


「うん。似合ってる」


こうして、二人の初デートは終わった。

そして、その時は刻一刻と近づき、二人は付き合って半年を迎えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


彼はある日の大学の授業後、一人の女性に声をかけられた。


「あのさ、ここわからないんだけど教えてくれない?」


「えっ、あ、いいよ」


彼はそこそこ成績はいい方である。

だから、男友達にも頼られることが多い。

人気もあり、女子友達もそこそこいる。

彼はそこそこの時間をかけて、わかりやすく、それでいてしっかりとした説明をしてあげた。


「ありがとー!」


教えてもらったその人はお礼を言って出て行った。


「ねぇ」


また、声をかけられる。

そこに立っていたのは彼女だった。


「さっきの子、誰?」


彼女は光を失った様な顔をして、淡々と彼に聞いた。


「えっ、と、友達だけど」


彼は普通に答えたつもりだったのだが。


「嘘だ嘘だ、ねぇなんで?なんでなの?私のこと好きじゃないの?私のこと愛してくれてないの?」


「本当だって!僕は君一筋だ!」


彼女は表情一つ変えないで。


「そうなんだ」


しかし、彼はこのままではいけないと思った。


「そうだ、明日は休みだし、今晩は家に来ない?」


「わかった、じゃあ夜、行くね」


即答だった。

彼は感じた。

僕はとても愛されているのだと。

彼女の前では少し遠慮するかと、そう考えるのだった。

これが彼女の狂い始めだったろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「んっ…んっ…」


夜、二人は彼の家でベッドに座って唇を交わしていた。

舌と舌が絡み合い、なんともいえない雰囲気になる。

彼の唾液が彼女の中へと流れていき、彼女の唾液が彼の中へと流れてくる。

互いの柔らかい舌が優しい刺激をしてどんどん気持ちよくなっていく。

ぐちゃぐちゃで、ぬるぬるで、むにゃむにゃで、ずるずるで、べちゃべちゃで。

それが気持ちいい。

二人の体がだんだん熱くなる。

彼は彼女をベッドに押し倒した。

それでなお、唇を離さず続けている。

彼は彼女の服に手をかけた。

この夜、二人は互いの体を明け方まで求め続けた。

いや、違った。

彼女はずっと起きていたかもしれない。

彼が眠ってから彼女はその裸体を起こし、彼のスマホを取り出した。

そして、そっと愛おしい彼の指を当て、携帯を開く。

彼の携帯の中にある自分以外のメアド、電話番号、写真、検索履歴を全て確認し、邪魔なものは全て消した。

そして彼女は愛おしい彼の顔を見続けた。

この、頭、髪、眼球、鼻、耳、唇、歯、舌、体、腕、指、肩、胸、腹、足、骨、心臓までもが全て私の物。

彼女はそう考えた。

さらに私の体は彼の物。

彼になら殺されてもいいと。


「うんー」


彼の意識が覚醒しようとする。


「目が覚めた?」


彼女が本当に狂い始めたのはここからだ。

彼女は笑顔でそう言った。


「おはよう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


彼女は朝食を作ってくれた後、すぐに帰ってしまった。

彼は携帯を手にとってその中を見ると絶句した。

何もかもが消されている。

彼女以外の女性のメアドや電話番号が消されていた。

また、写真も女性が写っている物が消されていた。

そして、検索履歴まで。

すべて、彼女に見られたのだ。

どうしたのか見当がつく。

そして、彼は気づいた。

自分が彼女に異常過ぎるほどに愛されていることを。

彼は悩んだ。

彼女の事は大好きだ。

そう断言できる。

しかし、このままでは愛以外の大切なものを失ってしまう。

友も、家族も、自分の人生さえも。

彼は中身が変わり果てた携帯を開き、ある所に電話をした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


彼女は彼に呼び出され、指定された場所へと訪れた。

そこは、お洒落な高級レストランだった。


「こちらへ」


彼女がそこの女性スタッフに案内されたのはたくさんのドレスが並んだ着替え室。


「こちらで、好きなものをお選び下さい」


彼女はこの時、ある期待に胸を膨らませた。

今日、プロポーズされるのではないかと。


「すみません。私に一番似合うものをお選びいただけないでしょうか?」


「かしこまりました」


そう言って、一つのドレスを選び、彼女に着せている。

彼女は考えるうちに今日はプロポーズされると99.99%確信した。

そして、綺麗なドレスに身を包んだ彼女は夜景が一望できる隅の席で座っている彼の元へと胸を高鳴らせ向かった。

しかし、彼は全く逆のことを考えていた。

最後に楽しいひと時を過ごし、彼女に別れを告げようとしていた。

彼のアルバイトの稼いだお金では一ヶ月ほど何年か貯金しないと行けないほどの高級レストランである。

彼の友人にこのレストランの時期店主がいた。

彼との約束に「いつかプロポーズするなら俺の店でしろ。その時だけタダにしてやるから」という約束。

彼は前に、彼に頼んで了承を得た。

そして現在に至る。

彼は赤いドレスに身を包んだ美女を見ていた。

彼の心が思わず揺らいでしまいそうになる。

だが、彼は気持ちを固める。

彼女が向かいに座る。


「来てくれてありがとう。似合ってるよそのドレス」


「こちらこそありがとう、こんな素敵な所に連れて来てくれて」


前菜が運ばれてくる。

やはり、この時は二人にとって忘れられない時間となっていく。

この日、初めて二人の気持ちが重なりあった。

『この時間が永遠に続いたらいいのに。』

話は絶えず続き、二人の笑みは途絶えない。

メインディッシュが終わるとデザートが運ばれてくる。

甘い甘いケーキだった。

彼は思った。

彼女の愛はきっとこのケーキより甘いのだろう。

二人はケーキを食べ終えた。


「あのさ、大切な話があるんだ」


彼女はやはり、と心臓の音が速くなるのがわかった。

答えはどうしよう、彼女がそう考えた時だった。





「僕と別れてくれないか」




彼女は耳を疑った。

今、彼は自分に別れたいと言ったのだ。


「なん、で?」


「ごめん、正直に言うと、君の愛が重いんだ。この前も携帯いじったでしょそれが、僕には耐えられない」


その時、頰に熱い何かが流れる。

涙、ではない。

血だ。

彼女は手元にあったナイフで、彼を切りつけたのだ。


「わかった。別れてあげる。だけど、一生私の心の中にいてね」


淡々と告げられたその言葉に彼は命の危険を感じる。


「た、助けてくれ!」


彼女が襲いかかって来て、その手を必死に止める。

すると、周りの人が騒つきだし、スタッフが彼女を取り押さえる。


「私はあなたを愛してるの!なぜ別れなきゃならないの!なんで!なんで!」


泣き喚きながら彼女が言う。


「ごめん」


彼にはそう言うしかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あの後、彼女は殺人未遂で逮捕された。

彼女はもう、彼を殺す事しか頭には無かったらしい。

あれから十数年。

彼は妻子を持ち家族で仲良く暮らしていた。

彼女のことを忘れられるぐらいに。

そんなある日。

家族で地元のスーパーで買い物をして帰ってきた時だった。


「ねぇ、パパ。あのひとだあれ?」


彼の一戸建ての家の前に一人の女性が立っていた。

痩せ細り、髪は荒れている。

されど、その儚さは彼女の美しさを引き立たせていた。

彼女の手には買ったばかりだと思われる包丁が。

彼女はこちらを見ると喜びの感情で溢れていた。






「おかえりなさい」






日常が壊れた瞬間だった。

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