アンドロメダは遠い
バタン。トランクの扉が閉まった。続いてエンジンがかかる。外が雨だからライトもつく。運転席にはNPOのお姉さん。震災で家族を失った子供を引き取ってくれるらしい。助手席に僕が座る。
「それじゃ、いくよ。鉄郎くん」
「うん」
元気ないな、とお姉さんは微笑む。名前は照井芽衣だと聞いた。
3月11日。僕の中学校は卒業式だった。放課後、グラウンドにいたら地震が起きた。すぐ先生が来て、高台に避難した。両親はそこにいなかった。町が飲み込まれていくのを、僕は見ているしかなかった。しばらくして自衛隊の人から、両親の遺体が見つかったと聞いた。1人になるくらいなら、いっそ僕も。NPOのお姉さんに会わなければ、そう思っていたかもしれない。
「今のうちによく見ておくといいわ、じきに新しい町になるんだから」
お姉さんが言う。もうすぐ町から出る。
「いいよ、見なくても。もう悲しい思い出ばかりしかないから……」
「そう……」
お姉さんは悲しそうな横顔を見せた。
何もかも消えてしまった場所で死ぬより、何でもある都会で生きてやる。お姉さんの運転で東京に向かう間、ずっとそんなことを考えていた。夜になって、眩しい摩天楼が見えてきた。真っ暗なあの町とは全然違う。お姉さんの長い髪が微かに揺れる。車は東京に向かって走っていく。