僕はクズだがそれでもいいかい?
「お前はクズだ」と他人から言われ続け、早5年。社会人なんて5年も続かなかった。27歳にもなっていい加減また働かないとなーなんて思っては居ても働く気なんて全く起きない。なんて思ってたんだけどその機会は突然来た。
それは僕の仲の良い女の子からの紹介。仲の良いと言っても正直身体の関係上、仲の良いってだけ。僕の外見は外国人だけど見た目は自分で言っちゃあなんだけど結構良いし。ちなみにスペイン人。でも僕の生まれも育ちもコテコテの日本育ちなので日本語が流暢に話せる。ちなみにスペイン語も。両親は家で僕にも日本語を覚えさせようと日本語ばかりだった。喧嘩の時は思いっきりスペイン語だったけど。まぁ、2カ国語話せるのは両親のお陰かもね。そして名前はルシア・アスナール・セレソ。名前の後に父方の性と母方の性が入るからややこしい。セカンドネームがなくて良かったよ。
そして話は戻るけど僕のお仕事はお手伝いさん。まぁ、話の経緯は彼女の知り合いが掃除、洗濯、子供のお世話と出来るお手伝いさんを探してたらしいという事だった。
彼女的には僕は金さえ貰えれば何でも出来るクズだからピッタリだと思ったらしい。……クズは余計だけど。
なんて事があったから僕の仕事はお手伝いさんだ。今まで他人に貢がせるのが当たり前。僕は働かないってのがスタンスみたいになってたんだけどねぇ。まぁ仕方ない。いつかは働かないとなとは本能的に思ってたしさ。
「葉山たまきです」
僕の仕事場は彼女の部屋だ。彼女……たまきちゃんは最近1人暮らしを始めたらしいから両親は心配でお手伝いさんを勝手に雇ったらしい。……だから名前だけは言ってくれたが僕に対する視線が痛い訳だ。
「僕の名前はルシア・アスナール・セレソ。スペイン人だけど両親の仕事関係で生まれも育ち日本だから日本語は余裕で通じるよ」
「そうですか」
素っ気ないなぁ。普通はなんでスペイン人なのに両親は日本でお仕事してるの? とか色々質問攻めされるのに。なんだか寂しい。
「アスナールさん? セレソさん? ……とにかく両親が勝手に雇ったらしいですが、お手伝いさんなんて要りませんので」
……やっぱりか。なんとなく察していたが仕事しに来て数分で要らないと言われるとは……。
「ルシアで良いよ。君は掃除洗濯料理、全部出来るのかい?」
と聞いてみると彼女は渋々「……出来ると思います」と言う。多分彼女は温室育ちでお金持ちの過保護な両親に嫌になって来たんだろうな。歳は17歳で高校3年生。なんでこのタイミングで1人暮らしなんだろうかとは思うが事情もちゃんと両親から聞いてきた。
両親が言うには人嫌いでたまきちゃんは友達とかも居らず孤立してて、よくドジをやらかすらしい。でも勉強と美術は出来たので勉強では良い順位、美術では大学推薦の話も来てて3年生でも大学の事は安泰の一言だ。だけど両親的にはこのまま人嫌いな感じで育つのも不味い。勉強だけ出来ても生きてく上で他の事も出来ないと困ると思った両親は1人暮らしをたまきちゃんに提案。たまきちゃんも過保護な両親の家を出たかったので快諾……でこの流れだそうだ。
「それに……男の人と2人っきりなんて無理ですよ。よく両親が許しましたね」
たまきちゃんは私に対しての警戒心を強めたまま、こちらを見つめる。
「……男の人? 僕が?」
僕は外国人の血のお陰か身長が185cm有るが、胸には恵まれなかったせいで胸はぺったんこだ。よく父親似だと言われるのもそのせいだろう。それによく男女の区別がつかないと言われるので男に間違われるのにも慣れている。
「……くくくっ。僕は確かに父親似だと言われるけど、れっきとした女だよ。胸が無いんだ。……というか貧乳とも言うか。それに身長は外国人だし日本人より発育が良いのさ。まぁ、とにかく僕は女だよ」
僕の言葉に驚いた顔をするたまきちゃん。……というより僕が女な事にそんなに衝撃的だったのか開いた口が塞がらない状態だ。
「えっ……と。ごめんなさい。勘違いしていました……ルシア……さん」
本当に悪いと思っているのか僕の眼を真剣に見て謝っている。……歳が10も離れているからかなんだか可愛いく感じる。
ああ……僕ももう少し若ければたまきちゃんを口説くのに。いや、仕事の関係だから口説かないけど。
「でも……自分の事を僕なんて言ってるから余計にそうだと勝手に思ってしまって」
「ああ……これはよく父が僕って言ってたからそれを真似してたらこうなっただけさ。紛らわしくてごめんね」
そうそう。母の方が激務らしくてあまり家に居なかったりするからよく定時で帰れる仕事をしてた父の方が僕の面倒をよく見てくれてた。そのせいか父の言い方が似てしまった。ちなみに小さい頃何故、日本で仕事しているのか聞いたら父は「興味ある仕事がスペインより日本の方が出来そうだったから」と言ってたなぁ。
「そうですか……。と……とにかく。私は1人でなんでも出来ます!! 本当ですから!!」
そう言ってたまきちゃんは僕に「試しに料理を作ってあげます!!」と僕に高らかに宣言して台所に行ってしまった。
うーむ。仕事しに来てるのにジッとしてるってのもなんだか申し訳ないなぁ……なんて普通の人は思うだろうが僕は全くそうは思わない。とにかく楽したいからそれはそれで有難い。だって何もしなくてお金が貰えるならそれの方が良いし。
なーんて思ってると台所から「あれ? ……火ってどうやって付けるのかなぁ」なんて不穏な事を言ってるたまきちゃんの声が聞こえてきたので重い腰をあげてたまきちゃんの元へ行くとたまきちゃんはIHが使えない様だった。そして包丁で手を切ったのか血が出てる指に絆創膏を貼っている。それを見た僕はたまきちゃんに「見栄なんて張らなくてもいいんだよ」と一言だけ言ってからまともに料理を教える。教える料理はたまきちゃんのご両親から聞いていたオムライスだ。
オムライスが好きだなんて実に可愛らしい子だ。僕なんてこの歳の頃は肉が食べたいとしか言わなかったのに。
料理が出来上がるとたまきちゃんは嬉しそうな顔をした後ハッとして不機嫌そうな表情をする。多分、1人で出来ると言ったのに僕が手伝った事に不服なのだろう。
「オムライスくらいなら1人でも出来たのに……」
1人出来るならその手の絆創膏はなんだい? なんて野暮な事を言ってしまいそうだったがたまきちゃんが可愛いのでわざわざ言わなかった。
「でも出来て良かっただろ?」
「うっ…………はい」
くくくっ。やっぱりこの歳頃の子は可愛い。素直だし僕みたいに大人になって穢れてない。だから……まぁ、クズな僕がこんなに優しい事思うなんてね。
……でもこの関係も仕事。お金が挟まないと僕はたまきちゃんのお手伝いなんてやる気なんてないからさ。所詮ビジネスライクなのなもしれないな。僕は。
「ルシアさん」
ご飯も食べ終わってひと段落した後にたまきちゃんは気まずそうに僕を見つめる。くくくっ……やっぱりたまきちゃんは可愛い。17歳の女の子で気が強そうな瞳に僕とは髪質の違う綺麗な黒髪。本当に可愛い。
「お手伝いさん。……よろしくお願いします」
くくくっ……律儀にそんなこと言うなんて本当に素直だな。そうだね……僕は少なくともたまきちゃんの事気に入った。
「僕はクズだがそれでもいいかい?」
「なっ……!! ダメですよ!!!!」
たまきちゃんは僕のその一言を聞いて驚愕した表情を見せた後、即座に僕にツッコミを入れた。やっぱり、たまきちゃんは可愛いなぁ。僕がもう少し若ければ恋愛対象に入れたのに。
「ふふっ……これからよろしく。たまきちゃん」
たまきちゃんの言葉を無視しつつもそう言うとたまきちゃんは「……はい」と不服そうな顔をしていた。
若ければ恋愛対象……だなんて言ってる僕は結局、たまきちゃんの事を恋愛対象としてちゃんと見てるのかも知れない。久しぶりに身体だけの関係とは違う事を出来るかもね。
……たまきちゃんは良い金ヅルの子供だし、一生養ってくれる事を期待してるだけかも知れないけど。だなんてクズな事を思いながらむくれてるたまきちゃんを微笑ましく眺めていた。