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コミカライズ5巻発売記念SS「突撃★リリララ探検隊!③」



 ――そして、ついに。


「り、リリ様、ララ様。この場所は、少しばかり遠慮した方がよいのではないでしょうか」


 元気よく先導する双子の姫を、シャーロットはなんとか説得しようとする。


 けれども、女官や料理人たちなど、この城で働く様々なひとびとの話を聞けてすっかりやる気に満ち満ちた二人に、シャーロットの制止など無意味である。


「大丈夫よ、シャーロット。ララたち、とっても大事なことを調べてるんだもの」


「そうよ、シャーロット。母さまのお話を聞かないと、エアルダールのことを話すことはできないもの」


「そ、それはそうですが、陛下はおそらくこの時間はお忙しく……リリ様、ララ様!?」


「「たのもー!」」


 制止むなしく、双子の姫がエリザベスの――この国の皇帝の執務室の扉を、いきおいよく跳ね開ける。女帝エリザベスの厳しい叱責が飛んでくることを覚悟して、シャーロットはぎゅっと目を瞑った。


 だが。


「遅かったな。少しばかり待ちくたびれたぞ」


 思いのほか棘のない声に、シャーロットは恐る恐る顔をあげる。そして、びっくりして頓狂な声をあげた。


「ベアトリクス様! なぜここへ?」


「ふふふ。先回りして、陛下とこちらで待たせていただいてたのよ」


 にこやかに微笑んだのは、双子の姫が庭園で別れたはずのベアトリクス。女帝エリザベスと共に、執務机の手前にあるローテーブルを挟み、優雅なお茶会を開いている。


 美しい絵付けの施されたティーカップに口を付けてから、ベアトリクスはにこりと小首を傾げた。


「我が国を語るとき、皇帝エリザベスなくしては語れません。お二方が最後はこちらにいらっしゃることは、簡単に予想が出来ましたもの」


「だからといって、伯母上。余の執務室に茶会の道具を躊躇なく運び込むのは、エアルダールではあなたぐらいだぞ」


「お邪魔なようでしたら、私も控えました。ですが、そうではなかったから陛下も私を受け入れてくださいましたでしょう?」


 悪戯っぽく微笑むベアトリクスを、エリザベスはちらりと見る。それから、くつくつと愉快そうに笑みを漏らした。


「まあ、いい。して、ローレンシアとリリアンナ。そなたたち、余に何か問いたいらしいな」


「はい、母さま!」


「わたしたち、母さまのエアルダールを好きなところを知りたいです!」


 期待と尊敬を大きな瞳一杯に込めて、ふたりの姫がエリザベスを見上げる。するとエアルダールに君臨する女帝は、赤い唇を緩やかにつりあげた。


「愚問だな。今更、余にこの国について問うなど」


「して、陛下のお答えはいかがです?」


 艶然と微笑む皇帝に、ベアトリクスは少女のように問いかける。するとエリザベスは、しどけなく椅子に背をもたれてひらりと手をやった。


「エアルダールのすべては、すべからく皇帝である我が手中にある。己がものに、いいも悪いもない」


「つまり、陛下は皇帝である限り、この国のすべてを愛すると」


「少し違うな。気に入らぬところがあれば、気に入るように変えるまで。そうして、常に最良と思う形にし続けるという意味だ」


 迷いなく言い切った女帝に、シャーロットは思わず呑まれた。


 あまりに傲慢。あまりに不遜。だけど。


「か、かっこいい……!」


「母さま、魔王さまみたいです……!」


「だれが魔王だ」


 きらきらと目を輝かせる娘たちに、エリザベス帝が肩を竦める。


 魔王のよう……というのは否定しないが、エリザベスの言葉はまさしく皇帝としての発言だった。国のすべてを背負うだけの力と覚悟があるからこその宣言。勝手なようでいて、誰よりもエアルダールを想っている。


(本当に、この方は根っからの皇帝なのね)


 この時代を動かす、間違いなく一番大きな歯車。その間近にいることに、改めてシャーロットは痛感した。


「さて、姫さま方。今日皆様のお話を聞いてみて、何か発見はありましたか?」


 ティーカップを机に戻して、ベアトリクスが双子の姫に問いかける。リリアンナ姫とローレンシア姫は、くるりと向き合った。


「ねえ、リリ。今日はほんとに、いろんな答えをきいたわね」


「ねえ、ララ。聞いた人の数だけ、答えがちがったわね」


 頷きあってから、ふたりはぱっと振り返った。


「ベアさま。ララ、私たちの国には、たくさんすてきなところがあるって知ったわ」


「ベアさま。リリ、色んな答えがあって、どれもまちがってないって知ったわ」


「「だから、わたしたち、わたしたちが思うこの国の好きなところを、シア姉さまがいらっしゃるまでにたくさん考えてみるわ!」」


「ええ。それがようございますね」


 にっこりと満足げに、ベアトリクスが頷く。


今日の課題に正解はない。強いて言うならば、今日の体験が、双子の姫が自国のことを改めて考えるきっかけになればいい。


そんなベアトリクスの意図は、正しく達成されたのだ。


 ――そんな風にベアトリクスが微笑んだとき、執務室の扉がノックされた。


「――陛下。ご歓談中失礼いたします。リリアンナとローレンシアが、こちらにいると伺いました」


(フリッツ様?)


 扉を開けて姿を見せたのは、エリザベスの子で第一皇子のフリッツだった。さらりとした金髪に宝石のような緑の瞳。見目麗しい皇子の突然の登場に、シャーロットは思わずぴくりと反応してしまう。


 対するフリッツも、シャーロットがいるとは思っていなかったらしい。こちらに気付くと少しだけ目を瞠った。けれども彼が何か言う前に、エリザベスがフリッツに問いかけた。


「どうした。見ての通り、双子の姫ならここにいる」


「彼女たちの次の講義の時間が近づいてきましたので、迎えに参りました」


「なぜ、お前が? そういった要件なら、お前が動くまでもあるまい」


「皆が困っているようでしたから、少しばかりの親切です。皇帝の部屋を約束なく訪れるのは、誰であれ身に重い役目でしょうので」


「どこの誰だか知らぬが、根性のないことだ」


 柔らかく微笑んだフリッツに、エリザベスがつまらなそうに肩を竦める。


 それが合図となって、リリアンナ姫とローレンシア姫は、フリッツに同行していた彼女らの侍女に連れていかれた。



ラスト、今夜19時にアップいたします!

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