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コミカライズ5巻発売記念SS「突撃★リリララ探検隊!①」

④まで続きます!


「ベアさま、ベアさま。シア姉さまがエアルダールに来るって本当?」


 ある昼下がりのサロン。今日も今日とて、小さなレディーたちの淑女教育(マナーレッスン)のためにお茶会を開くベアトリクスに、皇帝エリザベスの双子の娘・リリアンナ姫とローレンシア姫が、期待に胸を膨らませて問いかける。


 きらきらと輝く二対の瞳に、ベアトリクスはお茶を淹れる手を止めてくすりと微笑んだ。


「あらあら。姫さまがたは、たいそう耳が早くていらっしゃいますね」


「女官たちが話してるの聞いたもの! ねえ、リリ」


「フリッツ兄さまとオミアイするんだって、みんな話してたわ。ねえ、ララ」


「「ねー」」


 小さな姫たちは、くるりと巻いた髪を揺らして楽しげに頷き合う。いつものことながら仲睦まじく愛らしいふたりの姿に微笑みつつ、ベアトリクスはおしゃべりな女官たちを注意しなければと胸の内で苦笑した。


 そうとは知らず、小さな姫らはワクワクと続ける。


「ララ、早くシア姉さまに会いたいわ」


「リリもよ。シア姉さま、すっごく綺麗ですてきなお姫さまだって、ベアさまがいつもお話ししてくれたもの」


「ええ、ええ。アリシア様はたいそう聡明で努力家で、それはそれは可愛らしいお方なんですよ」


 思わず表情が緩んでしまって、ベアトリクスは両手を頬に当てて「うふふふ」と笑みを漏らした。アリシアについて話すときのベアトリクスがこんな調子なので、双子の姫も、すっかりアリシア姫の隠れファンになってしまった。


「ねえ、リリ。ララ、シア姉さまがお城にいらしたら、たくさんたくさんおもてなしがしたいわ」


「すてきね、ララ。リリも、シア姉さまにたくさんたくさん、わたしたちの国を大好きになってほしいわ」


「「ねー」」


 小さな両手を合わせて、双子の姫がはしゃぐ。その姿を見ていたら、ベアトリクスはぴんと閃いた。膝を屈めて双子の姫と視線を合わせ、ベアトリクスは人差し指をたてて少女のように微笑む。


「では、アリシア様を万全にお迎えするために、エアルダールの素敵なところを皆さんに聞いて回ってはどうでしょう?」


「エアルダールの??」


「すてきなところ??」


「ええ。アリシア様は、この国にはじめていらっしゃるんですもの。この国を好きになっていただくために、たくさんのおもてなしをしたいですよね。そのために、この国の良いところを、改めて知る必要があるとは思いませんか?」


 両手を合わせてにっこり微笑んだベアトリクスに、双子の姫は顔を見合わせる。ややあって、リリアンナ姫とローレンシア姫は同時にぱっと笑顔になった。


「すてきね、ベア様。リリ、大賛成だわ」


「ララもよ、ベア様。わたしたち、がんばるわ」


「「ねー」」


 声を弾ませながら、ふたりの姫は両手を広げて同時に駆けだす。「わーい」と走っていくふたりに、ベアトリクスは口元に手を当ててくすりと微笑んだ。


(自国の良いところを客観的に知るのも、姫さま方には良いお勉強になりますものね)


 さて。双子の姫たちは、どんな発見を持ち帰ってくるだろう。


 楽しみに思いながら、ベアトリクスはお茶会の準備に戻った。






「というわけで」


「「リリララ探検隊、しゅっぱつしんこう!!」」


「おー!」と。小さな拳を掲げるふたりの姫の声に、ちょっぴり照れくさそうなシャーロットの声が重なる。ベアトリクスのプチお茶会に遅れて参加しようとしていたところで双子の姫につかまり、城内探索隊に引き込まれたのだ。


「リリ様、ララ様。とっても素敵なお勉きょ……計画だと思いますが、どんな方にお話を聞こうか、まずは作戦を練ってみませんか?」


 これまでの経験から、これがベアトリクスが双子の姫に与えた課題であることを察したシャーロットは、そんな風にふたりに提案をしてみる。


城内で話を聞ける相手など絞られるだろうが、「自分たちで考えて、プランを練る」というのも、立派な学びのひとつだと思ったからだ。


しかし、元気な双子の姫は一筋縄ではいかなかった。


「計画??」


「だれに話を聞くか??」


「「うーーーん」」


 腕を組んで、リリララふたりが天井を睨む。ややあって、ふたりは同時に笑顔になった。


「大丈夫! なりゆきまかせ!」


「え、あ、リリ様? ララ様?」


「ほら! 第一町人(まちびと)、発見!」


「とつげーき!」


「のわっと!?」


 シャーロットが止める間もなく、ちょうど曲がり角の向こうから姿を現した一行の前に、双子の姫が走って飛び出す。仰天してつんのめってしまった先頭の『誰か』に、シャーロットは慌てて駆け寄って頭を下げた。


「も、申し訳ありません! リリ様、ララ様も。ぶつかってしまったりは……」


「シャーロット?」


 聞きなれた声にシャーロットは顔をあげる。そして、目を丸くして驚いた。


「バーナバスさん!」


 先頭にいたのは、イスト商会の副会長でシャーロットと同じゴールトン孤児院出身のバーナバス・マクレガーだった。よく見れば、イストの会長のダドリー・ホプキンスもいる。一緒にいるほかの人物も、風貌的にどうやらイストの商人のようだ。


「これは、これは。リリアンナ様、ローレンシア様。本日もご機嫌うるわしく」


 双子の姫に気が付いたダドリーが、すかさずふくよかな体を曲げて、にこやかに挨拶する。相変わらず()()()()が鋭いダドリーに感心しつつ、シャーロットはバーナバスの日に焼けた顔を見上げた。


「おひさしぶりです、バーナバスさん。今日はどうされたんですか?」


「ああ。城にいくつか納めるものがあったのと、俺と会長はユグドラシル様に呼ばれたから、ちょっとな。それより、シャーロットは今日もクラウン外相夫人の付き添いか?」


「ええと。大体、そんな感じなのですが」


 なんと説明しようかシャーロットが悩んだそのとき、双子の姫が声をあげた。


「ねえねえ。あなたたちは、この国のどんなところが好き?」


「え??」


 虚を衝かれて、イスト商会の面々が顔を見合わせる。シャーロットは少し悩んでから、バーナバスとダドリーにだけは、差支えない程度に事情を打ち明けた。


「これもベアトリクス様がお二方に出した課題のひとつのなのです。なんでも、諸国からの御客人をおもてなしするための準備だそうで」


「ああ……」


 納得したように、ふたりは目で頷きあう。やはりシャーロットの父、宰相ユグドラシルがふたりを呼んだのは、隣国から訪れるアリシア姫関連のことだったようだ。


 きらんと目を光らせて、まずはダドリーが丸まるとした顎を撫でつつ答えた。


「そうですなあ。私としては、やはり『寛容さ』をあげたいですなあ」


「どういうこと?」


「良いものは良いと素直に認める風土! 伝統や慣習に囚われず、新しきものを受け入れる土壌! 目利きである我々商人にとって、これ以上に腕が鳴る商圏はございません故!」


 嬉々として答えるダドリーに、ますます双子の姫はぽかんとする。明かによくわかっていなそうな姫君たちを見かねて、バーナバスがダドリーをつついた。


「そりゃないでしょう、おやっさん……。そんな商人勘定丸出しの答えじゃなくて、子ども向けの回答はなかったんですか?」


「いーや。幼い頃から本物に触れることが、一流への第一歩だろう。それに、子ども扱いするほうが、姫君にとって失礼だとは思わないか」


「そうですけど、いい方ってもんが……」


「あなたは、バーナバス? あなたは、この国のどんなところが好き?」


「ええ?」


 めげずに尋ねる双子の姫に、バーナバスは少しばかり面食らった様子。「そうですねえ」と考え込んだ彼は、やがて明るい笑みを浮かべた。


「おやっさんと少しばかり被りますが、異文化をどん欲に受け入れるっていうのは、私も良いところだと思っています。絵画に、音楽。ファッションに、文学。この国には、色んなものが他国から入ってきます。


 それを、自国のものじゃないからって遠ざけないで、むしろ良いところはどんどん取り入れて自分たちのものにしてしまうでしょう。この国の芸術や文化は、そうやって面白く豊かになったんだと、私は思いますよ」


「そっかー」


「お城にもいろんな絵や飾りがあるから、姉さまに教えてあげたら喜ぶかしら」


「ええ、もちろん」


 にっとバーナバスが歯を見せて笑えば、ふたりの姫はきゃっきゃと喜ぶ。その後ろで、ダドリーがやれやれと肩を竦めた。


「なんだ。少しどころか、私と丸被りの答えじゃないか」


「全然違いますよ。わかりやすさって意味でね!」


 言い返すバーナバスにくすりと笑いつつ、シャーロットは心の中で頷いた。バーナバスがあげたことは、間違いなくエアルダールの素敵なところだ。


 いい発見が出来たことを喜び、リリララ探検隊とシャーロットは次の場所に向かった。




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