コミカライズ1巻カウントダウンSS④ 銀の剣士はよくモテる
突然だが、騎士団所属、ロバート・フォンベルトはモテる。
一見して観て取れる華やかなオーラと、フランクな人当たり。プレイボーイと言っても差し支えのない言動に反して、一度剣を振るえば明らかとなる確かな剣筋。これでモテるなというのが無理なほど、彼には人気者の要素が詰まっている。
いまハイルランド城で最も女たちの熱い視線を集める色男。城勤めの女たちの間でこっそり開催される人気投票でも、連続で第一位に光り輝く麗しの剣士。
――その地位が危ぶまれることがあるなど、誰が想像しただろうか。
「状況はどうだ」
体格のいい男ばかりが10名ほど。騎士団の鍛錬場の一角にて、その秘密の会合は開かれていた。
参加者は皆、騎士団所属の剣士だ。世代や地位、騎士団内の所属等もバラバラなれど、彼らは共通して、ロバートとそれなりに付き合いがある。
その中で年長となる男――近衛騎士団の団長が口を開くと、剣士たちは伺うように互いを見やる。その中で、ロバートと同期の男が代表して答えた。
「中間発表が出ました。一言で言うと、油断のならない状況です」
「と、言うと?」
「現状はロバートが一位、補佐室のクロムウェルが二位……。ですが、我々の地道な意識調査に基けば、最終の段でクロムウェルが第一位に躍り出る可能性も十分にありえます」
「なんだと!? ……クロムウェル、まさかここまでとはな。奴の人気が、短期間でこうも伸びるとは」
近衛騎士団長の言葉に、剣士たちは思い思いに頷く。そんな中、ひとりの剣士が手を上げた。
「団長! ロバートの順位が落ちそうだからと言って、我々が慌てる必要がどこにありましょうか。奴が女たちにもてはやされる傍、苦渋の思いを噛み締めてきたのは我等であります。かくなる上は一位の座を明け渡させ、奴にも我々と同じ気持ちを味合わせてやろうではありませんか!」
「バカ者! 奴が負けると言うことは、奴に敗退を喫してきた我々も負けるということだ。俺たちがこれまで、ロバートに勝つために努力し、その度に無残に散ってきたことを忘れたのか? 俺たちを蹴散らしておいて、ポッと出の若造に負けるなどいかん。いかんのだ!」
一体何の話をしているのだか。もし第三者がこの場で盗み聞きをしていたのなら、そろそろ見当がついて呆れる頃合いだろう。
そう。彼らはいま、まさに開催中の人気投票――城勤の女たちによる「ハイルランド城の男性人気ランキング」の中間発表について、真剣に話し合っているのである。
熱く拳を握りしめる近衛騎士団長にほかの者たちもそうだ、そうだと追従する。けれども、最初に報告を上げたロバートの同期の剣士は、悩ましげに表情を曇らせた。
「しかし、聞くところによりますとクロムウェルは相当優秀な様子。おまけに主人であるアリシア様一筋という律儀な男で、そういうひたむきさが女たちの心を摑んでいるとか。ロバートと系統が異なる分、厄介な敵であります……!」
「ええい、どうしてこう、上手くいかんのだ!」
騎士団長ががしがしと頭を掻き毟る。
――と、そのとき。
「やれやれ。コソコソ集まって、何を話しているのかと思えば」
聞き覚えのある声に、一同ははっと顔を上げて声のした方を振り返る。果たしてそこには、壁にもたれかかり呆れた顔でこちらを見下ろすロバートの姿があった。
「ろ、ロバート!?」
「お前、いつからそこに!?」
「大分前からいましたよ。皆さん話すのに夢中なもんで、気付かれやしませんでしたがね」
「よっ」と掛け声と共に壁を蹴ったロバートは、腰に手を当てて小首を傾げた。
「レディたちが誰を選ぶかは、彼女たちの自由ですよ。なすがまま、なるがまま。大の男が額を寄せ合って、ああだこうだ悩むことじゃないでしょうに」
「お前なあ! 悠長なことを言っている場合か!」
「このままじゃ負けるかもしれないんだぞ? 一位の座を奪われるんだぞ?」
「それがなんです。ちっとも俺は、残念じゃありませんよ」
そう肩を竦めたロバートは、すがすがしく笑ってみせた。
「そりゃあ俺も、たくさんのレディたちに選んでもらってきた自負はありますがね。クロムウェルは俺の友人でして。あれはなかなか、いい男ですよ。あいつが一位に選ばれるっていうんなら、俺は笑って席を譲ってやります」
「そんな強がりを言うでない」
「強がりじゃないですって。すべてはレディたちの意のままに。それが俺のスタンスです」
飄々と言ってのけるロバートに、剣士たちの口がへの字に曲がる。さすがは、何度も人気投票の一位に輝いてきた男。自信と余裕が段違いに違う。
と、その時、ロバートがふっと笑みを漏らした。
「大体、ここにいる誰に負けようが、俺は悔しがったりしませんよ。なんたって自慢の先輩に、自慢の同期。自慢の同僚が揃っているんです。レディたちが誰を選んだって、当然のことだと俺は思いますね」
「自慢の……」
「自慢……」
「そういうわけで、解散で。では、おつかれさんです」
ひらひらと手を振って、颯爽とロバートは歩き去っていく。後ろで結わえた銀の髪が揺れるのを見送りながら、残された者たちはぽけりと呆けていた。
「聞いたか?」
「自慢の、とか言ったぞ」
「よくもまあ、あんなこっぱずかしいセリフ、いけしゃあしゃあと」
「恥じらいのひとつでも見せれば、可愛げもあるものを」
「だけど、まあ」
そこで、彼らは顔を見合わせた。互いの目を見て、確信をする。想いは一つ、異論はない。満場の一致として、次の答えを彼らは導き出す。
「ああいう奴だから、モテるんだよなあ」
結局、そのときの人気投票の結果も、ロバートは一位だったわけだが。モテる男は心根までモテ要素が詰まっているのだと、剣士たちは深く確信をしたのだった。




