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コミカライズ1巻カウントダウンSS① 侍女ふたりの小さな夢

時系列:5章「姫殿下の覚悟と、王の器」の少し前です。




「お忍びスタイルと言えば、顔をそれとなーく隠せるフードが鉄則! ほにゃらら頭巾スタイルが絶対です~!」


「あまぁい! 変装の醍醐味は普段とのギャップ! せっかくならショートパンツの美少年スタイルな姫様が私は見たいの!!」


 とある日のハイルランド城。


 王女アリシアの侍女、アニとマルサは、互いに一歩も譲らぬという気概をふんすと滲ませて、真剣な顔で睨みあっている。


 じりじりと空気が張りつめる。そんな中、マルサがまずは仕掛けた!


「もーぉ! アニのわからずやっ」


 どこから取り出したのやら。マルサは小さなフードをぱっと広げると、アリシアに見立てた子供サイズのトルソーに被せた。そうすれば、あら不思議。まるで絵本から抜け出してきたかのような、愛らしい〇〇頭巾の出来上がりである。


「見て! そして想像して! これを被った姫様を!」


 とっさにアニは思い浮かべた。


 ふんわりとしたワンピースを身にまとい、フードの下から控えめに自分を見上げるアリシア。裾をひるがえして走る、元気いっぱいなアリシア。毛布のようにフードにくるまり、くぅくぅと眠るアリシア。


 それらの愛らしい姿を思い浮かべて、アニは胸を押さえてよろめいた。


「ダメよ。なんて可愛さなの……っ」


「ほぉら、わかったでしょ~? 姫様には、やっぱり町娘スタイルが一番っ。お忍びで変装しなきゃいけないことがあったら、絶対に絶対、町娘スタイルがいいの!」


 ふふんと勝ち誇ったように笑って、マルサが腕を組む。けれども、よろよろとダメージを受けつつも、今度はアニが仕掛けた!


「確かにフードスタイルの姫様が可愛いのは認めるわ。けど、ごらんなさい!」


 どこから――と、いうより、なぜ持っているのか。アリシアの背丈とちょうど同じぐらいの少年が着るような白シャツとハーフパンツを取り出したアニは、瞬く間にそれを子供用トルソーに着せた。


「見て! そして想像して! これを着ている姫様を!!」


 とっさにマルサは想像した。


 白シャツにハーフパンツに身を包み、まるで少年のように悪戯っぽく自分を見上げるアリシア。ズボンの裾から覗く白く細い膝を抱え、照れくさそうに笑うアリシア。長い髪を隠している帽子が飛んでしまいそうになり、慌てて押さえるアリシア。


 そんな愛くるしい姿を夢想し、マルサは悶絶した。


「姫様がズボンスタイルなんて……っ。そんなの、そんなの、美少年以外の何物でもないじゃないっ!」


「ほーら、ごらんなさい! みたいでしょ? 美少年な姫様、最高でしょ!?」


 形勢逆転。今度はアニが勝ち誇った顔で腕を組む。


 ――だが。ややあって二人は同時にため息をついた。


「なーんて。こんなこと言い争ったって、無駄なんだけど」


「姫様がお忍びで城下に行く日なんて、永遠に来なさそうだものね~」


 そう。二人の言い争いのテーマは、「姫様が城下に行くなら、どんな服装が可愛らしいか」。ドレス以外にどんな服を着てもらいたいか……が発展して、そのような話になったのだが、フーリエ女官長の目が黒いうちには絶対に実現しそうもないシチュエーションだ。


「あーあ。町娘な姫様、見たいなぁ。絶対かわいいのに。すっごくすっごく、可愛く仕上げちゃうのにっ」


「諦めなさい、マルサ。姫様が変装して街にいくことなんか、天地がひっくり返ってもありえないんだから」


 ほんの少し前までの勢いも嘘のように、しょんぼりと肩を落とすアニとマルサ。




 ――そんな、アリシアのことを好きすぎる侍女二人の、ささやかな夢。それはほどなくして、王女付き補佐官の提案により偶然にも叶うのだが……それはまた、別の物語である。




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― 新着の感想 ―
[一言] で、実際にはマルサの案が通ったのですね。 クロさんが少年案を否決したんだろうなぁ~……(遠い目)
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