セキセイインコ、君に敬す
今、蟻が憎たらしい。とても憎たらしい。だってよく考えてみれば亡くなっているメロチュの顔に蟻さえたからなければこんな長たらしい道程、つまり悪夢を見て芋虫に変身してしまってなんていうめんどくさいことを踏んで今に至るなんてことだってなかったはずだ。そこでこれはダーリンに要相談と心に強く思い、ゆめゆめ忘れてはならぬと、リビングの部屋に大きく「蟻」と書かれた、赤塚不二夫デザインのメモ用紙を貼った。狂いのないはずの時計を横目でにらむ。七時二四分五十秒。少し計算の苦手なわたしだ。残り時間を計算していたら、どうやら七時二六分になったようで、狂いのないはずの時計を見ても、確かにそれは七時二六分を指しており、なるほど、と納得しながら、玄関の鍵を開ける。
「お帰りなさいダーリン。わたし今日ほどあなたの帰りを待ち望んだ日ってほとんどないかもしれにないっていうほど、あなたの帰りを待っていたの。それは、そうよ? もちろんいつだって毎日あなたの帰りを待っているわたしだけど」
「うれしいよ、ハニー。でもどうしてそんなにも、今日に限って僕をそんなに希求するのかい?」
「それはね、ダーリンにしか相談できないあるトラブルがわたしの心にぽっかりと穴をあけてる。今のわたしの心はとっても空虚っていうわけなの。それを埋めるのはもしかしたら人生をかけての問題っていってもいいと思う」
ダーリンは壁に貼られた赤塚不二夫デザインのメモ帳を破った紙切れに気が付いたようだった。
「蟻?」
「そう蟻」
「それがどうしたんだい?」
「さっき言った、わたしの心にぽっかりと穴をあけているそう、トラブルよね。それはもうすでに起きてしまったことだから後退はできないってわたしだってわかってる。だからそれを前進していくっていう姿でその空虚さを生むトラブルを前向きに解消したいって思ってる」
「それには蟻が必要なのかい?」
「違うの。決してそうじゃない。わたしは蟻を憎んでる。とても強烈に。ああ、蟻、そんなもんこの世からいなくなってしまえばいい!」
「じゃあ、君のいうことを整理すると、『蟻が関係するトラブルがあって、その結果君の心に穴や空虚を作り、それ故蟻を抹殺したい』、そういうわけだね?」
「ああ、ダーリン、さすがだわ。わたしの千々に乱れる思考の核をズバリとさしてくれたわ。そうなの蟻を抹殺したいの」
「それならば、来週に行われる、マンションの理事会で発言するといいさ」
「ああ!ダーリン、そうじゃない。そうじゃないのよ。わたしはね、そんなちんけな思想を抱いているわけでもないし、世界が広いっていうことはもう学習済みなの。つまりワールドワイドに、地球全体で、蟻の抹殺をダーリンにお願いしたいっていうわけ」
実はそうなのだ。ダーリンっていうのはただの「儲かるカウンセラー」という一面だけで語ることができるようなちんけな人間じゃなかった。他の一面で
「国連事務総長」
という側面も持っていたし、
「草加市総合体育館施設長」
という側面も持っていたし、
「草加市立市民ゴルフ場『いこいの広場』芝刈り隊長」
という側面も持っていたし、
「草加市少年野球『ハッスル組』監督」
という側面も持っていたし、
「空手の師範」
という側面も持っていたし、
「市民講座『夏目漱石を語る』講師」
という側面も持っていたし、
「本年度自治会会長」
という側面も持っていたし、
「ゴミ捨て場掃除係」
という側面も持っていたし、
「深夜のテレビショッピング『ちょっとお待ちくださーい!』専任声優」
という側面も持っていた。
つまりダーリンはとても忙しくも、多様な顔を持った人で、わたしにとってそれは「ダーリンならだいたいのことはクリアできる」っていう風に思わせた。
「そう、だから蟻、これを地球上に一匹も残さないっていう方法はないのかしら」
「ハニー、ほかならぬ君のトラブルであって、それに協力したいって思う。前向きに検討するよ。僕は少し電話をかけてくる」
「いやあ、いつもお世話になっております。ご無沙汰しちゃってすみません。あなた様にしかご相談できない案件がありまして。蟻のことなんです。蟻ってやつは噛みますね。確かにね。そうですか、やっぱり蟻に噛まれたことがある。そうなんですね。蟻は害虫と萎言ってもいいのかな? 僕にはちょっとそういうことには疎いけど、でもですね、害虫じゃないっていう風にカテゴライズされていてもですよ、蟻ってやつが地球上に一匹も存在しなくなったらさぞ爽快でしょうね! え? ご協力いただける? ありがとう。サンクス。サンキューフォーユアカインドネス」
「ねえねえ、ダーリン、今どこへ電話をかけたの?」
「NASAだよ。蟻の地球規模の撲滅に協力してくれるっていう話がまとまった」
「ああ、ダーリン! NASAと話していたのね。久しぶりに親戚と話してるのかって思っていたわたしを浅はかさを笑ってね。そして今夜は特別な夜になりそう」
今晩のメニューはさんまだった。さんまにはワインっていうよりビールだろうと、もしかしたらCMの影響も多分にあったかもしれないが、いつもののどごし生ではなく、プレミアムモルツをグラスに注いだ。もちろんだ。わたしはプレミアムモルツと同じくらいのどこし生を愛してやまないが。
今年の国連のメインテーマは「地球上の蟻の一切における撲滅について」というものだった。ダーリンはおさおさ準備を怠らなかった。ダーリンっていうのはいつもそうだ。金の延べ棒。それを大量に持って海外へ渡った。
わたしは少しさみしい時間を過ごすことにはなるのだが、その間をお肌のお手入れに費やそうと考えてみた。朝昼晩と一日に3回マッサージをし、パックもする。角質除去用のクリームも買った。様々な美容液を順番も把握しないまま塗りたくり、夜も適量以上のナイトクリームを塗ったから、朝起きて鏡をのぞくと、てらてらと光り輝くわたしの顔が映っているのだ。そしてネットを開いては美容に関する情報を集め、こんなもの、とだいたいが思う情報ではあるのだが、「水分保持にはエクストラヴァージンオイル」と書かれてあって、それはなんだか信用できる情報のようにも思え、毎日三十mlのサイゼのオリーブオイルを一日に三回のみこみ、わたしの肌は輝きを日に日に増していった。
時折、国連の様子がテレビに映る。わたしはあんまりテレビを見るっていう方じゃないけれど、国連の様子には敏感だった。ダーリンが映る。笑っていることはそうはない
そしてある朝ダーリンからの電話があった。
「ハニー、おはみ。どうだい? どう過ごしているんだい?」
「ダーリン、おはみ。最近はお肌のお手入れをしてるの」
「それが今の君のマイブームなんだね?」
「マイブームでは終わらせたくはないって思うけど、ダーリンが帰ればそれは多分、縮小していくものだって思う」
「僕は相変わらず忙しく過ごしている。けど、昨日出席者全員に金の延べ棒を懐に滑り込ませたんだ。彼らはえへへと笑っていた。きっと国際的な照れ笑いなんだろう。多分蟻の抹殺は全会一致で決まると思う。ところで今週の金曜日、僕は『憩いの広場』の芝刈りをしなくてはならなかったんだけど、田中さんに、今週は変わってほしいと伝えてくれないか?」
「了解。すべて了解よ。じゃあ、頑張ってね」
「じゃあ」
「じゃあ」
わたしは鏡に向かってマッサージをしながら思う。どうやら目的を達成する日も案外近いのではないか。すると一瞬、マッサージをする中指と薬指に力がこもる。そう、今マッサージをする中指と薬指にさえ思わずの力が入ってしまう。ダーリン。健闘を祈るわ。国際電話だったから、話しはだいぶ端折ってしまったけれど、つまり私っていうのは今美容と格闘している。マッサージ。それと格闘している最中なの。そうしてダーリン、わたしその格闘に絶対に勝つわ。負けることなどあり得ないのだから。
そうして国連で全会一致で「地球上の蟻の一切の撲滅」は決定され、あとはNASAに任された。けれどそのNASAもダーリンに協力を求めた。けれど一回日本に帰らせてくれ、僕の部屋のお風呂にどうしても入りたいのさ、と言って帰ってきた。わたしはダーリンを迎える時間に、お風呂のお湯を張るようセットし、バスクリンをこれでもかといれた。
お風呂から上がったダーリンは、久しぶりに会えた夫婦にも似合わず、とても無口で眉間にもしわが寄っていた。
「ダーリン、お疲れのようね」
わたしも少し控えめに言う。
「いや、疲れはもうとれたんだ。君が死ぬほどどっさりとバスクリンを入れてくれたおかげでね。あれは森林の香りってやつかな? ただNASAが提示している問題について、飛行機の中でもトイレの中でも考えざるを得なかった。この数日間というもの。けれど死ぬほどどっさりと入れてくれたバスクリンの効果か、入浴中はその問題から離れていた。けれど髪をドライヤーで乾かそうかなと思って、ドライヤーを持ったとき、いやにそのドライヤーが重たく感じられた。そしてまだ少し濡れた髪のまま、今こうしている」
ダーリンはエコーに火をつけた。あちらにはエコーが売っていないとのことだった。ダーリンは今エコーを存分に、そしてゆっくりと味わっているように見える。それは聡明な哲学者と言ってもいいし、宇宙の公式を知り尽くした科学者にも見える。
「NASAが提示している問題って?」
「それはね、非公式に誰か一人の命を見殺しにするっていう問題なんだ。ことには命がかかっている。そう簡単に推進できる問題でもないし、セキュリティーの問題もある。今のハッカーっていうのはとても高度なことをやってのけるらしい」
「なによ。それって簡単じゃない? メロは、メロチュは死んだのよ?」
「なるほど」
「メロが死んでも人ひとり死なせることはできないっていう論理おかしいわ」
「なるほど」
「そうでしょう?」
「でも、そうかな? 本当にそう言えるのかな?」
「わたしは本当のことしか言わないたちよ。それはダーリンも知ってると思ってた」
「そうか」
ダーリンはもう一回と、眉間に深くしわを寄せている。
わたしは穏やかにゆっくりと話し出す。
「あのね、メロチュが死んだからって、誰かを死なせちゃいけないっていうロジックよね、それって。でもね、わたしこうも思うの。メロチュが死んだ、誰が死んだっていいんだ。そういうロジック」
「そうかな、そうかな、」
「そうよ。メロチュが死んだ。それがものすごく大きな問題ではない、波紋もそれほど大きくないっていう現象面からアプローチしてみて。誰かが犠牲となって命を落とす。それはメロチュが死んだのと同じくなのよ。人の死は他の多くの人たちにはそれほど関係もないし、波紋だってそれほど大きいわけじゃない。死っていうのは結局そういうことだわ」
「そうかな、本当にそうかな?」
「つまりね、死っていうのはそれほど大した事件でもない、そういう事柄に過ぎないんだわ」
「そうかな? 本当にそうかな?」
ダーリンの夜は長そうだ。わたしは薄情に先にベッドに入って眠ってしまった。けれど寝際に思った。誰かの命を犠牲にしなくちゃならない作戦ってなんなんだろう?
「おはみ、ダーリン」
「おはみ、ハニー」
いつも通りの朝が戻ってきた。またダイニングテーブルに向かい合って納豆をこねくり回す。そしてお味噌汁はもやしだ。
「ハニー、つまり納豆ともやしっていうのはパーフェクトだね」
「そうよ、パーフェクトよ」
ダーリンに空返事をする。ダーリンのように朝ごはんまでいちいちよくよく考えていたらわたしは早死にするだろう。
「そういえばダーリン、この前テレビで見たんだけど、納豆のねばねばって肌を保湿してくれるらしくって、テレビにも映ったけど、納豆の研究員の手って、そりゃきれいなわけ。だからね、わたし毎朝の納豆のお茶わんを食洗器にセットしないでスポンジで洗おうってそう思ってる」
「君の美意識の高さにはいつも驚かせられるよ」
私はダーリンが書斎に戻ると、ダスキンで床を清めた。ところどころにマイペットを吹きかけ、乾いたぞうきんで拭いて回る。そしてトイレの掃除をした。そして洗濯物を干す。そのタイミングでダーリンは書斎から出てきて、
「今、NASAと話し合った結果、そういうとおりになりそうだ」
「そういうとおりって?」
「つまり君の説を話したんだ。するとNASAもOKだ。その線で行こう。もしかしたら命というのはそういうものかもしれないが、我々西洋人には少しわかりづらい、それは東洋のミニマリズム的な思想なのかい? と尋ねられて、僕はなんといっていいのかわからなかったが、そうミニマリズムだ、とおうむ返しに答えたら、もう一回NASAはOKだと言ってくれたんだ」
「でもわたしわからないわ。どうして人命が一つ犠牲になるっていうわけ?」
「それは話すと長くなる。僕がキリマンを入れよう。そして図を描きながらゆっくりと説明したい。それは何故って君も大いにこの蟻の撲滅作戦には関与しているわけだからね。NASAが知っている話っていうわけでもないけれど」
コーヒーメーカーのシュンっていう音が時々聞える。その間はお互い黙ったままだ。そのシュンっていう音がとても大切な音みたいに。そしてもしかしららそのコーヒーメーカーのシュンっていう音は本当に大切で、生活や人の思想にスペースを開けてくれるものかもしれなかった。そして今わたしたちはその広がっていくようなスペースを存分に享受している。そういえば夕べマッサージをしなかった。けれどそんなの当たり前だ。上っていく。頂上に着く。あとは下りていくだけなのだ。
「つまりこう、丸く地球があるだろう?」
ダーリンが入れてくれたブラックのキリマンをのみながら、ダーリンが無印のノートに円を描くのを見る。
「その前に言っておこう。つまりNASAはすでに正式名称はちょっと失念してしまったが、通称「アリコロ」という秘密兵器を開発済みなんだ。そしてもう一つ、NASAは開発している。これも正式名称は覚えていないが、通称「セミアリコロ」だ。アリコロは通常、人はもちろん家畜や犬や猫には影響を及ぼさないということは実証されているんだが、NASAが言うプチペット、そうつまり小鳥とかハムスターとかモルモットとか亀、フェレットなんかには多少の影響を及ぼすとされているんだ。それでNASAは神経質に考えたのさ。つまりセミアリコロの出番っていうわけだ。世界中の公的施設にブルーシートをかぶせ、そのセミアリコロでその部分の蟻をまず撲滅する。そして」
そう言ってダーリンはキリマンの香りをかいでから一口飲む。
「そしてそういったペットを飼っているお宅に通達を出す。何月何日何曜日の何時にペットを連れてこの公共施設にきてくださいっていう。ここからがポイントなんだ。あらかじめセミアリコロされた公共施設にプチペットを集めそこにブルーシートをかけるっていうことは理解できるよね? そうして、」
ノートの円の周りにもう一周の円を少し破れ目みたいなものを描きながらボールペンの色を赤に変えて書いた。
「そうして、その状態で地球を一回風船の中にいれる。酸素は作り出されずっと供給されっぱなしになるように各国で整備されている。そうやって、その状態で今度はアリコロの出番なんだ。世界中で一斉にアリコロを炊く。あはは、愉快だね。なんとなく」
けれどわたしの疑問は解かれていない。なぜ人命が失われるのだ?
日本からは宇宙飛行士のタナカマリコとタハラタロウ、この二人がその風船をかぶせる役目を担う。あとはロシアから二人、アメリカから二人だ。この前タハラタロウにはNASAでお会いした。眉毛が三角に大きく、そして太く、分厚い唇を持った男だった。飛行士仲間から彼は、なぜやら「ハリー」と呼ばれていたね。ここからが本題だ」
わたしは息をのむと言いたい所ではあるが、ダーリンのやけに真剣で、まあ、それゆえかも知れない退屈なその作戦の話に少し飽きていた。「ここからが本題だ」と言われても、と思ってしまう。
「つまり誰かその飛行士たち六人のうちの誰かが風船の外側に出て風船を閉じなくてはならないんだ。それ故人命が失われるっていうわけさ。風船を閉じぴゅーっと宇宙に投げ出される人命。それはあみだくじで決まるんだ。気づいていたかい? もしかしたらある機関は僕がこのマンションに帰ってくるのを予想していたかもしれないんだ。僕がいない数日の間になにか届いたかい?」
「ZOZOTOWNで買った服が入っている箱が二つ。資生堂のオンラインで買った美容液の入った段ボールが一つ。あとは、そうね、ああ、アマゾンでインクを買ったわ。それくらいね」
「その段ボールとか箱とか袋とかはすべて捨てたよね?」
「もちろん捨てたわ」
「荷物に、服や化粧品やインクに、なにかおかしなものがついていなかったかい?」
「多分その可能性は限りなく低いわ。だって服は着たし、化粧品も毎日使ってる。インクはもうプリンタに装着済みよ」
「そうか、そうだな。可能性はかなり低いな。っていうのも僕が日本へ帰ることを知る機会のあった機関が、このマンションに盗聴器を仕掛けたっていう可能性も捨てきれないんだ。だから君も、家の中で話すとしても間違いなく、僕から聞いた話はしないでくれ。もしくは僕から聞いたことをすべて忘れてほしい。キリスト教徒っていうのは人命と聞くと大げさに反応するものらしいんだ。俺はきっと狙われている」
盗聴器。なにやらおかしな世界に足を踏み入れたなあって思う。不思議な気分だ。少し間違えば夢を見ていると勘違いしてしまいそうだ。
「けどダーリン、それってその風船を内側から結わくわけにはいかないの?」
ダーリンは「はっ」とした表情を見せると、また書斎に戻った。手を付けられたコーヒーはまだ少し残っている。わたしはその少しのコーヒーを、一口に飲んだ。ダーリンは盗聴器を恐れ小声で誰かと話しているようだ。
とにかくその翌年の四月、わたしたちのマンションに盗聴器が仕掛けられていたのかもわからないし、ダーリンが狙われていたのかも分からないまま、NASAの計画は実行に移された。見事だった。空はピンク色に包まれた。わたしはふと、ピンクフロイドを思い出してしまった。太陽も、徐々に沈みゆく夕日もピンクで、夕暮れに遠慮するように上る月もピンク色だった。そしてそれは世界が霧に包まれたみたいに、人も景色もなにもかもをおぼろげにさせ、人々はやけに目をこすった。
クライマックスのシーンはこうだった。管制塔にはハリーの娘のシズカがいた。彼女もそこで働いているからだ。映画通りにはそういかないようで、タハラタロウ、つまりハリーは、素直にあみだくじの「当たり」を引き、タイムリミットまでシズカと会話するのだ。シズカは言う。
「わたしのいいところはパパのいいところだわ」
「俺も孫の顔が見たかった。あとはキムタクに任せる。君をまばたきもせずに見ていたいけれど、それももうかなわない。キムタクによろしくな」
それを最後にモニターは砂嵐となる。作戦は成功した。ハリーは確かに風船の口を閉じた。もうもうとしたアリコロの中に、管制塔だって例外ではなく包まれる。そしてその煙が薄くなったころ、世界中で万歳の声が上がった。整備士のキムタクは管制塔へ向かい、シズカを抱いてくるくる回ったそうだ。そしてハリーがそこにゆっくりとパラシュートに揺られながら着地し、世界共通のはにかみ、ふふふ、を見せたそうだ。