織田信長との出会い
連載途切れることままあります。
私は武家の家に生まれた女であった。
しかし女だからといって武将になれない訳ではなかった。
事実、何人かの女性は武将を目指し、中には城主や天下取りへの参戦、重臣に取り立てられたりと、可能性はあった。
だが幼い頃の私は、こんな非力な腕で何ができる、子供らしくもない諦めを既に感じていた。
どこかのいい家に嫁いで、幸せを感じられればいい、そう思っていた。
織田信長と出会うまでは。
「ほう、お前が利昌の子か」
いつもの様に縁側に一人座り、何をするでもなくぼうっとしていると、背後から見知らぬ男の声がした。
返事をせず声の方を振り返ると、背の高い、若い男が立っていた。
男は名乗りもせず私の顔をジロジロと見ると、満足した様に笑った。
「利昌から聞いたが、中々の美人だな。きっと将来は化ける」
あって早々なんだこの男は、と思った。
私は自分が話をまとめなくては終わらないだろうと口を開いた。
「何しにきたの。父上の事を知っているみたいだけど」
「ああ、すまんな。俺は織田信長。利昌は俺の家臣だ。最近利昌が自分の娘についてずっと話しておって気になったので来てみた」
父上は一体勤め先で何をしているのだ、とは思ったが、何より目の前の男がまさか自分の家の主君だったとは。
私はさっきのような口をきいた詫びを入れるべきか、それとも自己紹介が先か、と思考回路を巡らす。
「犬千代、と言ったな。犬千代、俺の小姓に
なる気はないか」
「……それはつまり、将来私に武将になれという事ですか」
「うん。そうなるな。嫌か?」
昔幼い頭で結論付けた答えが蘇る。
いくら今自分が武家に生まれた女で、女武将が活躍しているとはいえ、女は基本一本道の人生だ。
自分も例に漏れずそうだと思っていたし、そうでありたいと願ってもいた。
「それなら私でなくてもいい。もっと良い男もこの家にいます。なにも女の私をひきこむことはない」
俯きながら声を絞り出す。
「確かにな。でも言ってしまえば俺はお前に下心、というものがあるらしい」
「はあ?」
思わず変な声が出た。
綺麗だ、可愛らしいと言われた事は幾度とあるから慣れはしているが、まさか初対面で下心を明らかにしてくる相手とは初めてあった。
「こんな俺だが、付いてきてくれるか?嫌なら嫌で構わん」
信長が手を差し出してきた。
嫌だ、とは何故か言えなかった。
私は信長の目の気迫に押されたのだ。
偽りのないまっすぐな目。
私が断るはずがないと思っているような目。
私に拒否権なんかないんだな、とは直感で分かった。
ならばその術中にはまってやろうじゃないか、と思ってしまった。
私は今、この男の目に惚れたのだ。