1-2 汚れた少女
「おかえりヨーイチ。ソファー倒しておいたからそこにその子寝かせてくれるかしら? 風邪引いてるのでしょう?」
「それとこれ。風邪引いてる時はコレなんだろ?」
「誰から貰ったの?」
事務所にある一際大きなデスクにあるPCのモニターの陰に隠れている主がニタニタと笑う。葉一郎はタクシードライバーからもらった袋からロリポップだけを抜いてチェルに渡し、倒されたソファーに背負っていた女の子を寝かせた。
「……酷い熱。それに青たん作ったり切り傷作ったり……服もボロボロね。これぬがしたほうが良さそう」
「着替えとかどうするんだ。買ってくるか?」
「朋香様の服でいいわ」
「小さくて悪かったね! あ、あたしのクローゼットの3段目にパジャマとか入ってるから適当にとっていいよ。3段目だからね!1段目とか開けちゃダメだよ!」
「開けないから大丈夫です」
今いる事務所は2階にあり、主な居住スペースとなっているのが3階である。しかし葉一郎とチェル用の机も事務所にあり、同じく3階にもあるキッチンも2階のものを使った方が便利ということもあって基本的に寝る時や着替え時以外で3階に居ることはない。睡眠さえもソファーを倒して簡易ベッドにしたり、座敷になっている応接間に布団敷いたりしてしまえば何とかなってしまうのだ。
「ほら。とりあえず適当なパジャマ見繕ってきた」
「ありがとう。あら……朋香様? 息子さんはこの小さな子にこれ着せたいみたいですよ?」
「あっそれ1回しか着なかったフリルだらけのネグリジェじゃない! アンタこういうの好みなの〜?」
「あんたらネグリジェしか着ないだろ……それと普段着てないの見てたからこの子が着てもいいだろと思っただけだ」
「ちょーっと小さすぎたんだよねぇ、流石に」
葉一郎はチェルにフリフリのネグリジェを渡すと、これから服を脱がせて身体を拭いていくのでキッチンで待機してほしいと言われた。そこで貰ってきた粉末のスポーツドリンクを人肌程度の温度のお湯に溶かし、更に即席のコーンポタージュを別に用意する。チェルの呼び声でお盆にその2つを乗せて戻ると、汚い服を脱いで汚れた身体も拭いてもらった少女が既に身体を起こしていた。
「起きてて大丈夫なのか? まだ熱あるだろ?」
「ええ……。起きることないわ、休んでていいわよ」
「えっと……、ここ……」
葉一郎はスポーツドリンクを彼女に渡す。
「まずは水分補給だな。それと……こんなものしか用意できなかったが、腹に入れておけ。風邪を治すには身体を暖めるのが一番だ」
「コーンポタージュは私がやるわ。後でお粥作ってあげるから、とりあえず今はこれで」
少女は温まったカップを両手で支え、時折中身を口に含む。チェルがコーンポタージュを掬ったスプーンを差し出すとゆっくりと口を近づける。体が怠いであろう風邪の状態でも相当お腹が減っていたのだろうか、その2つを完食してくれた。
「えっと……」
「お話ならあとで聞いたげるから、まずは身体を治してね。起きてるのもだるいでしょ? アンタも、それでいいよね?」
「病人からあれこれ聞くつもりは最初からない」
本心は一刻も早く彼女の正体をしりたい葉一郎だったが、朋香に予め釘を差される形となった。
葉一郎はあのいかつい風貌だった男にこの少女は追われていたところを見ていたのだ。タクシーで撒いて来たとはいえ彼らのことも何か聞き出さないと今後の先方の出方がわからない。わからないと先手を取っての対策のしようがない。きっとあの公園の周囲ではあのスーツ姿の男が未だに捜索が続けてられているのだろう。
食器をお盆に戻した少女は再び布団を被って目を瞑り、暫くすると微かな寝息を立てていった。
「この子の様子は私が見ておくからヨーイチも休んだら? 疲れたでしょう」
「それだったら肩揉んでくれな〜い? もう今日ひっさびさにリアルタイムグラフと睨めっこであたし疲れちゃった」
「……じゃあこれ」
「……親にジョークグッズ渡す息子に育てたつもりはなかった」
「マッサージャーを性具呼ばわりはやめよう」
「やーだー葉にまた気持よくしてもらいたーいー!」
「……ヨーイチ、アナタ何したの?」
「……いや、母さんに新しく買ったから試してみてと言われて」
「母親相手に……見損なったわ」
「本来の用途で使いました!」
「やっぱりジョークグッズじゃない!」
「お前らAV見過ぎだろ!!!どんだけ乱れてんだこの家族!」
「……ふっふーん、おっ、卯野薬品の株いい感じじゃな〜い?」
3人による家族団らん。昨日まではこの3人だったが、今日からは発熱で床に臥している少女も起き上がれば加わる予定、と息子を弄っていた母親は目論んでいる。PCモニターを覗き込みながら、次は何をどんなふうにしていこうかと先のことで子供みたいに頭をいっぱいにしているのが青野朋香という女性だ。その思いつきには、時として家族を増やすことも思いついてしまう、そしてそれを叶えてしまう財力がある。
息子の心配とは裏腹に、朋香は楽しくなっていきそうなこの先に顔を破顔させっぱなしだった。
少女が次に目を覚ましたのは夜もだいぶ更けた頃だった。
ずっと彼女に張り付いていたチェルもうたた寝し、深夜でも構わず活動時間なビルの主が冷蔵庫のジュースをかっぱらってきた時に身体を起こしてきたのである。
「あらっ、目が覚めた? 熱は下がったの?」
「……」
朋香はうたた寝するメイドを起こし、夕食を食べ終えてから自身のノートPCで調べ事をしてそのまま眠っていた息子をたたき起こし、少女が使っていたソファーに呼び集めた。
「……ええ、発熱は峠を越したようです。36.8℃……まだ微熱程度は残っているのでゆっくり休ませるべきだとは思いますが」
少女の腋に挟めた体温計をチェルが朋香と葉一郎にも見せる。
「12時間以上も眠ってたものね……もう目が覚めたかしら?」
少女は口を開かない代わりにこくこくと頷いた。
「ふあぁっ……んじゃあ、そろそろ色々と聞いてもいいか」
「私が代わりに聞く……んぐっ! ふふっ……」
「……?」
「いえ、なんでもないわ……ふふっ……、じゃあまずアナタの名前、聞かせてもらえるかしら?」
「……ええと」
少女の声はこの静かな夜にでもないと掻き消されそうなほどに小さく、儚さを感じられるようなものだった。未だ体力低下の最中だからだろうが、元々無口な方なのだろうかと葉一郎は考える。
「名前……ゆう」
「ゆう……? 苗字は?」
「苗字……えっと……」
「……」
ゆう、と言った少女は口をパクパクと開きながら言葉は何も出てこなかった。
「じゃあ……お家はどこ? 市街地だから……小羽町だったっけ?」
「あのあたりは小羽町だね」
「……暗いとこ」
「……?」
何かの暗喩なのかと真っ先に疑った。小羽町の暗いところ、あのあたりはあの公園以外にもいくつか公園があり、街路樹も多く植えられて緑の多い区域という印象から日が陰っているところという意味なのだろうか、と。
「木々の陰になるところ……いやあのへんのことあんま良く知らんしなあ……あの日も調査で偶然立ち寄っただけだし」
「今何歳?」
「えっと……12。ゆう、早生まれだから……」
「……早生まれで12歳って……中学生!?」
今月は6月。今年の1月から3月の間に12歳を迎えたということだから学年では中学1年生だが、話を聞くまでは小学3,4年生くらいだと思っていた。おまけに受け答えも鈍く、ハキハキとしない。ここは子供の個性が大きく関わるところだろうが、幼さゆえに自分より大きい人に慣れていないように感じる。
「中学生……それにしてはだいぶ……」
葉一郎が中学生のサンプルと見比べているとサンプルのほうが鼻息荒くしながら睨み返えしてきた。
「……えっと、じゃあー……家族は?」
表情が歪む。だんだんと質問してくるのが嫌になる。多少は想定していたとはいえ、あまりに普通じゃない彼女の境遇が明らかになってくる。それはメイドにとっては穏やかなものではなく、それ以前にどこか過去を振り返っているような気分だった。悪路についた足跡を辿るようだった。
「……」
ビルのそばの道路を走る車の走行音と、デスクトップが唸る音が聞こえる。4人分の息遣いもよく聞こえる。深夜3時のソファー前、薄暗闇でも互いの顔はよく見える。
「……」
彼女は首を縦に振らなかった。
「いないの?」
チェルが即座に聞き返す。
「……わからない」
「えっと……?わからない……? お母さんの名前とかお父さんの……」
「ゆう……パパとママ……わからない」
「……マジ」
「……いや、石蕗市なら孤児でもその子の受け入れ先はとても多いわ。だからそこに入ってるのが普通だけど……」
「……」
ただ首をふるだけではなかった。申し訳無さそうに首を横に振った。
「ゆう……名前と年しか覚えて……ない……ごめんなさい」
「……部分的な記憶喪失、なのか」
彼女は一体どこでどうやって今まで生きてきたのだろう。孤児の受け入れ先も一般レベルで浸透している石蕗市で、その孤児院にも入っていないという可能性。市が委託運営している民間企業が主に運営しているが、市とPTAの監査が定期的に入る孤児院は暗い噂も当然無く、子供同士のいじめでもない限り脱走する理由が見つからない。仮に脱走したとしても街を彷徨っていれば2,3日以内には警察に確実に保護されるだろうし、こんなに小さい子ならもっと早くに見つかって保護される方が多いだろう。だが、この子の怪我や服の痛み方からして2,3日市内をふらついていた程度には思えない。おそらくどこかで身を潜めていたのだろうが、その期間は自分達が想像するよりはるかに長いだろう。そうなれば彼女は、とっくにのたれ死んでもおかしくないような状態なはずだ。
「まぁどういう経緯があったのかわからないけど、孤児院に入ってない方が手間が省けるでしょ。あちらが探してくる可能性があるんだし」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。どう見ても訳ありな子……うちが引き取っていいのか」
「そんなの今更でしょ。むしろ国籍から違ったチェルの方が何十倍も面倒だったわ」
「チェルの場合とはまた違う気がするんだが……」
元から迎え入れる気マンマンだった母親の興をそぐようなこと言ってもしょうがないと、葉一郎はコレ以上何も言わないことにした。養子にするのは何も初めてのことではないし、朋香が繰り返す通りお金も十二分にあることは理解している。その上でも葉一郎は漠然とした不安を抱えていたのだが、結局はっきりということはなかった。
「ゆうたん、貴方どこか帰る家はあるの?」
「……」
チェルではなく、初めて朋香がゆうに質問した。彼女はやはり首を弱く横に振るだけ。
「……じゃあ、うちに来ない? アナタが良ければ……だけど、どうかな?」
「……ゆう、何も……できない、勉強も、お掃除……」
「そんなの平気よ。このお姉ちゃんだって最初から料理とか洗濯出来たわけじゃないし、このお兄ちゃんは今も家じゃぐーたら三昧よ?」
「出来る分の家事はやってるわ! アンタでしょぐーたら三昧は」
「失礼ねぇこのお兄ちゃん。出来なくてもこのお姉ちゃんが教えてくれるから、ゆうちゃんは何も心配いらない。もうお外で真っ暗なところで過ごすのは、嫌でしょ?」
「……いいの……? ゆう、お兄ちゃんたちの家にいて……いいの?」
ゆうの視線が不安げに泳いでいき、葉一郎の元へ辿り着く。
「……ん?」
「お兄ちゃん、公園いたとき……ゆう、助けて……くれた。ゆう、身体もいっぱい汚かった……けど、お兄ちゃんおんぶしてくれた」
お兄ちゃん――葉一郎を仰ぎ見ながら、辿々しい語り口でも一生懸命に。
「ゆう……おんぶしてもらったのはじめて。また……おんぶしてもらいたい……ダメ?」
首を傾げながら聞いてきた。
「……なんつーか、恥ずかしいんだけど」
他人をおぶったことは初めてじゃない、仕事の一環で年寄りだのゆうくらいの子供相手にやったことは何度もある(それが本当に探偵の仕事なのかは置いといて)。ただこんなふうにおんぶしてもらったことに感謝されたの初めての経験だった。
「お兄ちゃんが照れてるわね。 デレデレなヨーイチもかわいいっ!」
「うるせぇこっちみんな! あー、別におんぶくらいならいつでも……今からでもいいんだぞ?」
「今は……えっと……」
「そういえばまだお風呂には入れてないものね。熱が下がりきったらお姉ちゃんと入りましょうね」
「……いいの?」
「ええ。カラダきれいにしてとびっきりの美少女になりましょ」
「……ま、そういうわけだから! ゆうちゃんはもううちの子だよ! 帰ってくる家はココ、キメラ◯つばさ使ったらココに戻るんだからね!」
「キメ……???」
「ニートは黙ってような。じゃ、これからもよろしくね、ゆう」
「……うん! お兄ちゃんとお姉ちゃんと……ニート……さん? よろしくおねがい……します」
「ニートじゃないわよ!ちょっとバカ息子なんて教育してんの!? 自活どころか人養ってるんだからネオニート以上よあたしは!アドバンス(進歩した)ニートね!」
「本当にそうだから始末におえない人よ……この人は。皆のお母さんだからね」
「……うん!」
真夜中の石蕗市郊外の小羽町。そのビルの2階は丑三つ時を回った時間だというのに、賑やかで騒がしい。周りがマンションやアパートというわけでもないので住人のテンションにも遠慮はなく、オーナーが更に調子に乗ってメイドにお菓子を作らせてプチパーティーを開いてしまった。
家族が一人増えた初めてのパーティーは、それはもう盛り上がったのだが、ニートと新参者以外が日付変わってからの曜日が平日である月曜と気づいたのは空が白んできた午前5時過ぎだった。その日の高校での2人の様子は語るに及ばずと言っておこう。
「お兄ちゃん……おかえりなさい!」
葉一郎が高校から帰ってきて事務所の玄関を開けると小さな女の子が可愛らしく寄ってきた。
「ふあぁっ……ああ、ただいま。いい子にしてたか?」
「……うん、ママのお手伝い、少ししたの。ゆう、お熱なおったばっかりだから……」
伺える顔色と玄関先まで迎えに来てくれたあたり、ゆうの風邪はすっかり治ったのだろう。葉一郎が会ってからずっと見てきた発熱で苦悶に満ちたような表情はなくなり、歳相応の女の子らしさを多少なりとも見せるようになった。それでも同じ歳だったの頃のチェルに比べると無表情気味だったが、それはゆうが元々表情豊かな方ではないからだろう。
「お姉ちゃんも。今日……いっぱいお手伝いしたよ」
「あらそう……朋香様何もやらない人だから、ゆうちゃんが色々とやってくれると助かるわ」
「ちょっと!聞こえてるわよ! あたしも今色々と忙しいの!」
ゆうを養子に迎える手続きはその朋香がするという。それが終われば『青野ゆう』となって本格的に青野家の一員となる。葉一郎は未だに不安を抱えているものの、この家を失えば路頭に迷う彼女の境遇を考えると、彼もまた家族として迎える気持ちのほうが強くなっていた。目下の疑問点は彼女をどうやって学校に通わせるのかということだ。
「そんなのあの子次第よ。義務教育と言っても、ゆうたんが言い出さない限りは無理に連れて行く必要はないんだから」
浮浪児や孤児の保護が根強い石蕗市においても街を彷徨っていた彼女。雰囲気や受け答えからしても学校にあまり積極的ではなかったと朋香と葉一郎も思っていた。
「まっ、大変な状態だったんだから、しばらくはウチでゆっくりさせてあげようね。あたしも色々と教えたいことあるし」
いつものように自分のデスクでモニターを覗き込みながら、朋香はそんな風に答えていた。
「そういえば……朋香様、ゆうちゃんを風呂に入れてあげました?」
「……あー、忘れてたわ。昨日体拭いてあげただけだったよね」
「ええ。お風呂掃除したら彼女をお風呂に連れて行きます」
荷物を自室に置いてバスタオルを持ったチェルがゆうと手をつなぐ。
「……お風呂? 入りたい……!」
「ええ。私と一緒に入りましょうねぇ」
「……なんでこっち見ながら言うんだ」
葉一郎は自室に鞄を置くとすぐに事務所に行き、ソファーに寝転がってロリポップを舐めながらテレビを見ている。睡眠不足気味で今も眠気が病まず、このまま眠ってしまおうかという図らいだ。といっても普段通りの行動で、皆自室に引きこもることなく事務所で仕事しているかだらけているか、というのが青野家だ。
「ゆうちゃんがいるから……覗いちゃダメよ? 聞き耳立てるのもダメよ?」
「……いや、釘ささなくてもわかるから」
「私一人だけなら覗くの?」
「覗かねえよ! いいからはよ入って来い!」
風呂場も2階にある。2階フロアは事務所が半分近くを占め、廊下で仕切られた向かい側にトイレと風呂場がある。一般的な家庭の風呂場よりやや広めで2,3人くらいは同時に入ることが出来る。
「はいはい。それじゃ、ゆうちゃん入りましょうね」
ゆうがチェルに手を引かれて事務所を出て行った。
「んむっ……オレンジ味うめぇなあやっぱり」
「あっ、そうだ。葉、ちょっといい?」
「あん?」
「ゆうたんのワンピースにさ」
葉一郎が飴を咥えたまま、テレビを向いていた顔を母親のデスクの方へ向ける。
デスクに座ってこちらに背を向けながら顔を向ける朋香の右手にはカードが握られていた。
-Girl’s shower time-
「はーい、お姉ちゃんが綺麗にしてあげますねぇー。シャワー、熱くない? あと傷に沁みるかもしれないけど、ちょっと我慢してちょうだいね」
「……んんっ、大丈夫……。ちょっと……痛いけど」
「先に身体洗わせてもらうわね。……んんー、洗いがいが有りそうだわ。傷もあるから出来るだけ優しく洗うけど、痛かったら言ってね」
「……ごめんなさい、ずっと、お風呂……えっと」
「しょうがないわよ。でも、これからは毎日お風呂入れるから、そんな心配ないわ」
「やったぁ……! そういえばここのお風呂、ちょっと広いね」
「元々どこかの会社が入ってたビルなのよ。寝る場所もあるし、お泊りすることも考えて設計されたみたいね」
「会社に……おとまり……?」
「そういうところもあるのよ……」
「……わかんない、です」
「そうねー。ま、今はうちの、朋香様のものだから。……はい、前も洗うわね」
「んあっ……洗ってもらう……はじめて、かも」
「あら。じゃあ私がゆうちゃんの初めての相手ね!」
「……はじめて?」
「そう、女の子にとっては大切な記念。あっ……そうだ。ヨーイチにこのネタで揺さぶると面白いのよ?」
「ヨーイチ……お兄ちゃん?」
「ヨーイチ……お兄ちゃんにおんぶしてもらったのよね? いいなーゆうちゃん、私まだされたことないのに先越されたわ」
「ううっ……ごめんなさい」
「ゆうちゃんが気にすることないのよ。お兄ちゃんがツレナイのが悪い」
「でも……お姉ちゃんはお兄ちゃんに……されたことないんだ」
「お兄ちゃんに初めて会った時は今のゆうちゃんよりももっと小さい頃だったのよね。今から10年弱前だったかしら……当然あの頃はまだお兄ちゃんも小さかったから」
「……お姉ちゃんも、ゆうみたいに……?」
「ええ。私は普通に孤児院から引き取られたって感じなんだけど。今思えば何故日本人の片親の元に引き取られたのか不思議で仕方ないわ」
「……?」
「あ、いえ、独り言。あ、私は元々アメリカ人だったの。わかってたかしら?」
「あめりか……ゆう、行ったことない……」
「私もここ数年は行ってないわ。朋香様のお手伝いいっぱいして、いっぱい褒められたら、朋香様におねだりしてみなさい。そのためには家のお手伝いとか事務所のお仕事とか少しずつ覚えていきましょ」
「……いっぱいしごとしたら、家族になれる?」
「うん? ゆうちゃんはもううちの家族よ?」
「でも……まだ……よくわからない」
「……うん、コレばかりは……すぐにはどうにもならないわ。実感がわかないということかしら?」
「……うん」
「私もそうだったから、でも焦ることはない。誰も急かしたりもしない。もしわからないとしても、朋香様とお兄ちゃん、私もゆうちゃんにはもう家族の一員として接するから、ゆっくり実感していってね?」
「……お姉ちゃん……あ、いっ!」
「ごめんなさい! 大丈夫だった……?ちょっと沁みたわね……」
「でも、お姉ちゃんの洗い方……いたくない。今のはいたかったけど……」
「私としたことが迂闊だったわ。それじゃ、泡流しちゃうわね」
「……おねがいします」
「……そうだ、ゆうちゃんに私の身体洗ってもらおうかしら……?」
「……? お姉ちゃん、何か……いった?」
「よし……。綺麗になったわ。うん、やっぱり女の子は綺麗が一番よ!」
「えっと……ありがとう、お姉ちゃん。それで……」
「うん、だから今度はゆうちゃんがお姉ちゃんを綺麗にしてくれる? 私がゆうちゃんにしたみたいに」
「……うん! ゆう、やってみる……!」
「それじゃ位置変わりましょ。ゆうちゃんにとっては私身体大きくて大変だろうから、背中だけでいいわ」
「わかった……うんしょ、うんしょ……」
「ええ上手よ。これから毎日やってもらおうかしら?」
「ええっ? いいの……?」
「裸の付き合いは家族には必要不可欠よ……って朋香様もよく言ってたわ。あっ、でもあの人あまりお風呂に入りたがらないのよねぇ」
「お兄ちゃんは……?」
「お兄ちゃんとも裸の付き合いしたい?」
「えっと……うん!」
「ふふっ……そしたら、いっぱいお願いしたら、案外オチてくれるかもよ?」
「じゃあ……ゆうがんばる!」
「そしたら私も割り込んで……んあっ! ゆうちゃん、前は大丈夫よ……?」
「お姉ちゃん……ここ、ぽわんぽわんってする……ふかふか……」
「ふふっ……気になるの? ゆうちゃんにもあるところよ?」
「で、でも……ゆうはないよ?」
「ゆうちゃんも……今はアレでも、将来は立派に成長するから」
「じゃあ、ママは……?」
「……人、それぞれ? あ、そうだ……もし、おっぱい大きくしたいならいい体操があるの。教えてあげる?」
「ここ……おっぱい……おっきいと……お兄ちゃんもうれしい?」
「ええ。お兄ちゃんったら……こそこそ見てくるほど好きよ? もっと堂々と見てもいいのに、ヨーイチのために大きくしたんだから……」
「じゃあ、お兄ちゃんのためにゆうもおおきくする!お姉ちゃんおしえて!」
「はいはい。それじゃあ……」