第十章・二
ファナウスはいきなり帰ってきた。それも神殿の馬車で帰ってきた。
ダーシュにあのように言っておいたものの、宴会の前に帰ってくるとは思わなかった。
まさに予想を裏切ることにかけては天才的な父なのであった。
しかし何故神殿の馬車なのか? それはつまり神殿に行ったということだろう。
何のために? それは解らない。
驚いているアイオナの前で御者に礼を言い、銅貨を握らせて馬車を見送るとファナウスは振り向いた。
「いつもよりも多く人が来るだろう。倉庫を一つ会場として追加しろ。中の物は男衆に運んでもらう。もう手配しておいた」
「商品を移動させるって事?」
「ああ、三つ目の倉庫が比較的空いてるだろう? あそこの中の物を移して会場に使う」
「確かにそれなら間に合いそうだけど……そんなに人が来るの?」
「それはわからん。まあそれは独身の娘を抱えた一家が、どれだけここを嗅ぎ付けかによるな」
そう言ってファナウスはにやりと笑った。
「独身の娘? どういう意味?」
父親の言っていることが判らずにアイオナは首を傾げた。
「それは宴会になれば嫌でも判る。あとは大体いつも通りの顔ぶれだ。気が置けない連中ばかりだから問題ない」
いつもながらさっさと話を進めていく父親についていけない。
「お前も気圧されんようにな」
「大丈夫よ。朝に一度会っているから」
「ゼルヴィス殿か? 儂が言っているのは違うぞ」
「じゃあ誰のこと?」
アイオナが尋ねようとすると、商会員がファナウスを見付けて走り寄ってきた。
「旦那様!」
「おお、なんだ?」
今夜の宴会のこと、急に参加が決まってきた見知らぬお歴々のこと、色々なことをファナウスに向かって捲し立てるように喋る商会員を見て、アイオナは会話を続ける事を諦めた。
父親がいきなり出ていった事といい、宴会に参加したいと言ってきた妙な連中といい、どうせ事態は繋がっているのだ。
父ファナウスにはその全体像が見えているようだからアイオナが考えることではない。
無論そうは思っても気にはなる。しかしそれも宴会が始まればはっきりするだろう。
アイオナは会場の新設と料理の指示について伝えるべく厨房へ向かった。
厨房に入ると、いつもどおりの顔ぶれが忙しく料理の準備をする中、見慣れない女性が二人いるのが目に入った。
一人はアイオナと同じ黒髪で、もう一人は西部の人間なのだろう、明るい色の髪をしていた。
二人とも青い目をしていて、しかも美人だった。
何やらモナクのようなものを作っているが料理人には見えない。モナクは小麦粉を薄く溶いて焼いたものである。
パンの一種だと思えばいいが、何か具材を巻いて食べるのが一般的だ。
おそらく二人は招待客なのだろうが料理を手伝ってくれているのだろう。
「こんにちは」
アイオナは笑顔で声を掛けた。
「こんにちは」
明るい髪の娘が笑顔で挨拶を返してきた。何て素敵な笑顔だろうと思った。
周囲に優しく穏やかな空気が拡がっていくのを感じる。
海のような青い目をしている。それも暖かい、広い海を思わせた。
この人、物凄くもてるだろうな、とアイオナは思った。
「こんにちは」
もう一人はそっけない挨拶を返してきた。
感情の籠もらない声とはこれかという見本のような声である。
顔の方も声に合わせて無表情だ。にこりともしない。同じ青でも彼女の目は冷たい湖のようだ。
ちょっと厳しい人なのかも知れない……というより変わっているのかもとアイオナは考えた。
宴会に招待されておいて愛想の一つも無いというのは、やはり人付き合いの感覚がどこか怪訝しいのだと思わざるを得ないからだ。
二人とも凄い美人だが、これはかなりの差があるぞと思った。
「初めまして。私はエルミラ。こちらはメレス。あなたは?」
「わたしはアイオナ・メルサリス。ここの商会長ファナウスの娘よ」
「まあ、あなたが? お目にかかれて光栄だわ」
エルミラはちょっと驚いたようだった。この人かとアイオナは思った。
スィサから話は聞いていたが、確かに「優しくて綺麗な人」という感じだ。というか見たまんまではないか。
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいわ」
「今日は宴会に招いて下すってありがとう」
「どういたしまして。こちらこそスィサによくしてくださってありがとう」
「いえいえ。今後ともご贔屓に」
ぺこりとアイオナに頭を下げる。何だか取っ付きやすい人だなと感じた。
きっといい商人なんだろうが……何故だろう? 妙な違和感がある。
「ごめんなさい。初めてのお客様に準備の手伝いをさせてしまって……」
「いいのよ。私たちも早く来たし、手は空いていたもの」
「お嬢さま」
静かだが力の有る一言だと思った。
「乾燥する前にストゥラニを薄餅で包んでしまった方が良いと思います」
「ええ、そうね」
「手を止めさせてしまってごめんなさい。お料理の最中ですものね」
「気にしないで。大丈夫だから」
言っているエルミラの横でメレスは料理を再開している。こちらを一顧だにしないその態度はお世辞にもいい感じとは言えない。
その手元を見ると、何やら卵炒めのような物をモナクで巻いているようだ。
見たことの無い料理だった。
「それは何という料理かしら?」
「ストゥラニよ。卵と豚肉の炒め物ね」
「へええ。初めて見るわね」
「トラケスの料理だと聞いているわ」
「トラケスの?」
意外だった。トラケス料理と言えば高級料理だ。こんな家庭的なものもあったのか。
いや、父ファナウスが言っていた。本当の料理とは母親が作る料理なのだと。
ならばそれが至高と言われるトラケス料理に無いはずは無い。
家族のために母親が作る料理こそが本来の料理、本当の料理なのだと父ファナウスは言う。
もっともアイオナの家では圧倒的に父親の方が料理の腕は上だったが。
ともかく家庭料理こそが料理の本質だという意見である。アイオナも同感だ。
「包んでいるのは何? 薄餅って言っていたけれど……」
「ただのモナクよ」
言われてみればカサントスではそんな言葉でモナクのことを言っていたような気がする。
「ああ、そう言えば聞いたことがあるわね」
頷いてアイオナはストゥラニを見た。豚肉と卵の他に人参や葱も入っているようだ。
どういう味なのだろう? ふつふつと興味が湧いてきた
「結構一般的だと思うのだけれど……食べたことないかしら?」
「ないわね。どんな味なの?」
「それは口にしてからのお楽しみね」
にっこりと笑うエルミラの横では、メレスが無表情にストゥラニをモナクに巻き続けている。
この二人は一体どういう関係なのだろうか?
さっきエルミラのことを「お嬢さま」とかメレスは言っていたが……?
ストゥラニ同様こちらにも興味が有ったが、これ以上料理の邪魔をしては悪い。
二人とは宴会の時に話をするだろうからその時に判ることだろう。
いや……メレスとは話せないかも知れない。何だか会話の糸口を見出すのが難しそうな感じだ。
見られているのを感じたのか、メレスが目を上げてアイオナを見た。軽く目礼をしてきたものの、すぐにまた作業に戻った。
嫌われているような印象は受けないが……どういう人なんだろうか。
「ごめんなさいね。メレスはちょっと変わってるの」
主人であろうエルミラがそう執り成してくる。
ああそういう関係なのかと何となくアイオナは察した。
「いいえ。大丈夫。気にしてないわ」
アイオナは笑顔でそう応じた。
「あとで宴会の時にお話ししましょう。申し訳ないけれど、わたしはまだ準備があるからこれで失礼するわね」
「ええ。後で宴会のときにまたお話ししましょう」
二人と別れるとアイオナは厨房の奥に向かった。料理長のユスタハに指示を出さなければならない。
通常でも宴会には五十人ほどが参加する。それを今回は倍の百人が参加しても大丈夫な規模に準備をするつもりだった。
もしそれ以上来たら後は野となれ山となれである。
大伯母イネスとシフォネは宴会の準備をする間、商館の中で寛いで貰うつもりだったが、大伯母には怪しい使者への応対をさせてしまう事になったし、シフォネは準備の方も気になるらしく時々降りてきて様子を見ていた。
二人はこちらに来るのも少し早かった。
おそらく宿泊先の家に居てもやることはないし、少々早めに宴会場の方へ出て来たという所なのだろうが、何のことはない。早く来たところでやることなど何もないのだ。
アイオナが話し相手になっていればそれでも良かったのだが、宴会準備の差配という重要な役目がある。
「いつもこんな感じなの?」
宴会の準備に動き回る人々を見てシフォネが聞いてきた。
「そうね。いつもこんな感じに騒がしいわね」
アイオナは苦笑した。宴会に集まるのは商会員やその関係者などだ。ほぼ全員が男性であり、それが大いに食い、飲み、互いの無事を祝って騷ぐのである。その分だけ豪快な準備が必要になるわけなのだ。
子供の頃からそうした光景に親しんできたアイオナは別に何とも思わないが、準備のためにきびきび動く商会員や、雇い人たちを見ると確かにちょっと近寄りがたいものがあるかも知れない。
「大伯母様もシフォネもお客様だもの。本当なら準備が出来るまでは二階でゆっくりしてもらいたかったのだけれど……」
その意味ではさっきの二人もお客様なのだが既に宴会料理の準備に駆り出されている。
さすがに大伯母とシフォネには手伝わせるわけにいかないと思ってはいたのだが、大伯母イネスは怪しい客の応対を買って出てくれている。
せめてシフォネだけにはゆっくり寛いでいて欲しいのだが、時々下に降りてきている所を見ると退屈しているのだろう。
「そうしたいのだけれど少し退屈で……ごめんなさいね。あなたも忙しいのに」
「いいのよ。気持ちは判るわ」
一応商館には本も置いてあるが、シフォネが興味を惹かれそうなものは余りないのだ。
誰かと話をするにしてもアイオナ含め、商会の皆は宴会の準備で忙しい。ファナウスに到っては飛び出していて今帰ってきたところだ。
大伯母相手では真面目な話ばかりで肩が凝ろうというものだし、その大伯母も怪しい客への応対で一階に下りている。
面白い本も無く、話相手もいないとなれば退屈になっても仕方ない。
「ところであなたの夫は?」
「ダーシュならマルガレアのところよ」
「マルガレアのところに? 早速紹介してるのね」
その言葉でアイオナには、シフォネが今回のことについてある程度の事実を知っているだろうことが察せられた。
マルガレアは母と一心同体だ。その母が居ないのにマルガレアだけこの場に居るというのは凄く変な事なのだ。
それに疑問を持たないということは、シフォネは何かを知っているという事を意味する。
「ねえ。良ければ聞かせてくれない? 一体何が起こっているの? どうしてゼルヴィス殿が、その……わたしに求婚なんて……」
「お祖母様から話を聞いたのね。私も詳しくは知らないんだけれどエリーデおば様に関係していることらしいわ」
「母様が?」
「ええ。それでエリーデおば様はトラケスのエルナセアに行かれたわ」
「エルナセアに? どうしてそんな所へ」
エルナセアはトラケス地方では有名な古都だ。ゼメレス氏族の本拠地でもある。
「それは私には判らないわ。お祖母様も話して下さらないし……ファナウスおじ様は知らない方がいいかも知れないとか仰るし……」
知らない方がいい? あの父がそう言ったのか? となると相当問題のある話ということになる。
「それで何でマルガレアを連れて行かなかったのかしら?」
アイオナにはそれが不思議だった。ただ実家に置いたままにはしないだろう。
それでこちらに寄越したのだろうか? どうもそういうことのように感じたが、どちらにしてもマルガレアにとって母が唯一無二の存在である事には変わりはない。
今はまだいいが、じきに母の不在を感じ取るようになる。
そうなるとマルガレアは凄く寂しがるだろう。想像するとアイオナは悲しくなった。
「さあ、それは私には判らないわ」
シフォネは首を振った。
「ただマンテッサからこちらに来るときに、ファナウスおじ様がマルガレアを連れて行くって仰ったのを聞いただけで」
「……」
アイオナは考えた。何故エルナセアにマルガレアを連れて行かなかったのか。何故母は一人でエルナセアに向かったのか。
「母様は一人でエルナセアに行かれたの?」
「ええ。それなんだけどメルサリス家の方から付き添いが付いたみたい。その差配をお祖母様がなさったみたいなの」
大伯母の実家はメルサリス本家なのでそれは納得できる。
だがそれなら何故父が付き添わなかったのか。準貴族だからか? それはありそうな話だ。
アイオナの父ファナウスは貴族ではなく、それに準じる身分、つまり平民ではないが貴族でもないという微妙な身分なのである。
これは貴族の増大を抑制するための措置であり、ローゼンディア王国の法で定められたものだ。
氏族の本流や、それに近い家柄などを除く貴族は八代目を準貴族として、九代目からは平民になるのである。
そして貴族と準貴族との間に出来た子供は準貴族とされる。アイオナ自身がこれに該当する。
準貴族は名目上の貴族という扱いであり、本人一代に限り、貴族としての待遇を受けることが出来るとされている。
しかし実際には大概の貴族から軽んじられる立場であり、王国貴族の一員とは見做されないことが多い。
古風を守ることで有名なゼメレス族の土地に、準貴族の自分が付いて行っても妻の格を落とすだけだと考えたのではないだろうか。父ならありそうな話だ。
母の実家ポルティアス家は血筋は良いものの、いわゆる零細貴族であり、母の両親の他には一族は居ない。
しかも母エリーデは遅くになって授かった子供だというから、アイオナにとって母方の祖父母に当たる二人はかなりの高齢である。長旅に耐えられるとは思えない。
それでメルサリスの本家の方から人が出たのだろうか。大伯母が動けば確かに本家も人を出してくれそうである。
どうもよく解らない。情報が少なすぎる。
アイオナは話を変えることにした。
「それで、どうしてゼルヴィス殿がわたしに求婚なんて?」
「それも初めはポルティアス家の方にお話が持ち込まれたみたいなの」
母の実家に? 何で? 普通ならメルサリス家の方に話が行くはずだ。
アナクシス家と言えば名門中の名門だ。メルサリス家の分家に当たる自分には釣り合わないし、たとえ本家であっても釣り合わない。
だからポルティアス家の方に話を持っていったのか? でもポルティアス家は確かに古い家柄だが名門というわけでもない。
どうしたところで家格が違いすぎるのだ。アイオナとゼルヴィスでは釣り合うはずがない。
だが大伯母の話ではそこも呑み込んだ上でのゼルヴィスの求婚であるらしい。これは本人に話を聞いてみなければ判らないだろう。
「でもアイオナ。そうなるとあなたには夫が居るわけだし……アウラシールの人だし、その……まずいんじゃないかしら?」
不安げにシフォネが言った。
「大丈夫よ。もう話したから」
「そうなの!?」
「そんなに驚かないでもいいわ。だって、わたしたち夫婦ですもの」
口にして恥ずかしかったが言い切ってしまった。
「そうね。そうですものね」
自分を納得させるように頷くシフォネを見ていて、自分の事ではないのに心配してくれてるんだなとアイオナは思った。
「気になるなら会う? マルガレアの所に居ると思うけれど」
実際に会ってみれば納得するだろう。そもそもダーシュと自分は契約延長中の偽装夫婦である。そんなに大した問題に……なるはずがないのだ。
アイオナはシフォネを連れて倉庫へ向かった。
予想通りマルガレアの鳥籠の前でダーシュは椅子を出して坐っていた。
自分が言ったこととはいえ、こういう聞き分けの良さを見せられるとアイオナとしては妙な気分になる。
性格はひねているくせにダーシュにはそういう妙な律義さというか、真面目さのようなものがあるのだ。
「ダーシュ」
「何だ?」
「シフォネが今夜のことを心配してるのよ。あなたの方から問題は無いと伝えてくれない?」
「ああ、あの男が求婚に来るという話か」
さすが、ダーシュは察しが良い。
「大丈夫。私は全く気にしていません」
おや? と思うくらいの素敵な笑顔でダーシュはシフォネに語りかけた。
何よその笑顔は? と思って見ている内にアイオナは気付いた。
以前からダーシュはやけに外面がいいと感じていたのだが、どうも違うようだ。
素敵な笑顔は単なる営業用というか、社交用の仮面に過ぎない。
それがやけに素敵に見えてしまうのはダーシュが美形だからだ。
何だか悔しいがそれを認めざるを得ない。
「アイオナは神前で誓った我が妻です。この事実は人の身で動かせるものではない。たとえペルギュレイオン競技会優勝者と言えどもね」
穏やかに、しかしはっきりとした口調でダーシュは言い切った。
その言葉に、静かな威厳ある態度に、アイオナは顔が火照るのを感じた。
よくまあそんな台詞をさらりと言えるものだ。さすがは王子と言うべきか。
シフォネを見ると目が合った。シフォネの顔も少し赧い。
いい夫を持ったわねと言いたげな視線を送ってきたので、さあ、それはどうかしら? という意味を籠めて微笑み返した。
「シゴネ」
いきなりマルガレアが会話に参加してきた。
「シゴネ! シゴネ!」
「シゴネじゃないわ。シフォネよ」
鳥籠に近寄ってシフォネが笑いかけた。
「シ~フォ~ネ」
「シ……シ……シヴォネ」
マルガレアはシフォネの口真似をするがどうも怪しい。
「うーん。まだ上手く言えないわね」
「残念だわ。私の名前だけちゃんと呼んで貰えないなんて」
「その内言えるようになるわよ。マルガレアは凄く賢いもの」
「だといいんだけど……」
「シ~ヴォ~ネ~」
マルガレアの発音はまだ怪しい。
「ホイヤムの名前はすぐに憶えていたのだがな」
ダーシュが口を挟んだ。
「そうなの? やっぱり発音しにくい名前があるのかしらね」
「悲しいわ」
「大伯母上の名前はどうなのだ?」
「言えるわよ。マルガレア、大伯母様の名前は?」
アイオナが尋ねると、マルガレアは目をぱちぱちさせてから頭を少し傾げるように動かした。
「イ~ネス……イ~ネ~ス~」
「ほう」
ダーシュが感心したような声を出した。
「どう? ちゃんとこっちの言っていることが判るのよ」
「なるほどお前の言う通りだな。大したものだ」
「本当に賢いわよね」
シフォネも感心しているようだ。
「あの……ダーシュ様はキコリーがお好きなのですか?」
シフォネには、ダーシュをどう呼んで良いものか迷っている風が感じられた。
「いや、そういうわけではない。我が妻にこの鳥と仲良くするように言われたのです。もちろん嫌いというわけではないですが」
「そうだったのですか。エリーデおば様がファナウスおじ様と親しくなったのも、一番よくマルガレアの遊び相手になってくれたからというのは以前窺ったことがあります」
「なるほど。メルサリス家と仲良くするためにはまずマルガレアに好かれる必要があるわけですな」
「そういうことのようですわ」
シフォネとダーシュは微笑みあった。いい感じではないか。
「わたしは準備の様子を見てくるわね」
アイオナが立ち去ろうとするとシフォネが付いて来た。
折角、ダーシュと話していたのに何で立ち去ってしまうのか。
自分としてはシフォネとダーシュが親しくなる機会を作ったつもりだったのだが。
「置いて行くなんて酷いわ」
「だって、あなた何だかダーシュに気後れしてるみたいだったから。色々と話せば慣れるかと思って。そんなに悪い人じゃないのよ」
「それは十分判りました」
「本当に?」
アイオナは笑った。
「どうして笑うのよ? 私、あの人をいい人だと思うわ」
「後で本人に言ってあげて。ただしわたしが居るときにね。どういう顔をするか見たいから」
「やけに意地悪な言い方をするわね……わかったわ! 妻としての余裕の為せる業ね!」
「さあ、それは……どうかしら?」
シフォネの勘違いが可愛らしい。
アイオナがどうして今の状況に立ち至ったかを話せば驚くのではないだろうか?
それを考えるとまた楽しくなってきて口元が緩むのだった。




