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偽装の結婚  作者: 琴乃つむぎ
第二部(暫定版)
40/64

第五章・二

 アンケヌから南西に二十デファード程行くと、古代都市ザナカンダに出る。

 これは隊商が行く場合には駱駝で四日、早飛脚などの急使は一日で行く距離だ。

 ザハトはこの距離を三日で進んだ。これはそれほど急ぐでもなく、まずまずの日数だと言える。

 この旅には屈強なゴーサの傭兵達を伴ったが、傭兵達には身元を隠すためにごく普通の恰好をさせていた。

 ゴーサの傭兵は馬にも駱駝にも乗り慣れているが、この旅では馬を使った。

 もちろん街道を進んだが、街道が安全というわけではない。単に速度を考えての事だ。

 一行は全員が旅行中の戦士という扮装いでたちだった。人数も少ないし、どう見ても隊商には見えないが、だからといって襲われないとは言えない。

 盗賊は獲物が豊かそうかどうかではなく、簡単に仕留められそうかどうかで襲撃を決めるからだ。

 こちらは人数も少ない。全部で十三騎となれば襲われる可能性は十分にあった。

 だが、多少なりとも鼻の利く盗賊ならば、この集団を襲おうとは思うまい。

 非常に剣呑な集団であると感じさせるからだ。

 屈強な戦士達だからと言うのではない。統率者のザハトはともかく、それ以外の男達が身にまとった独特の雰囲気と、落ち着きのある統一感はただの戦士ではない危険さを漂わせていた。

 無論それでも襲われる危険はある。盗賊だって誰もが鼻がくわけではないし、連中にも生活があるのだから、通る獲物なら何でも良いという場合だってあるだろう。

 ナバラ砂漠を移動する以上、常に盗賊の危険は付きまとう。

 途中で盗賊に出遇でくわす危険性は排除できないのだ。

 だが今に限って言えばその可能性は低かった。

 理由はアンケヌの政変だ。あの政変にナバラ砂漠で活動する盗賊達の多くが参加し、そして結構な数の死傷者を出している。盗賊団の大頭目であったハダクも死んだ。

 結果、ナバラ砂漠を徘徊する盗賊の縄張りや統制は事実上の崩壊状態にある。新たな秩序が確立されるまではまだ暫くの時間がかかるだろう。

 しかし無秩序の結果、盗賊団の局所的偏在が発生する危険性も確かにある。

 だがその事を考えても盗賊の絶対数そのものが減っているのだから、多数で襲われる危険性は少ないはずだった。

 アウラシールの西方、ミスタリア海に面したこの地域は古来リムリクと呼ばれている。

 ナバラ砂漠を中心としたこの地域には、現在は統一の国家はない。

 各都市国家が乱立している状況なのだ。それぞれの都市に王が居て、勝手に統治をしているのである。

 ではそれで治安が悪いかというとそうでもなかった。

 むしろ今の状況が長く続き過ぎているために、各都市国家の自治と、遊牧民、そしてその合間を跋扈ばっこする盗賊達との間に、一種独特の均衡が存在しているのだ。

 ザハトが向かったザナカンダは、リムリク地方でも最古の都市であり、その古さはディブロスをもしのぐ。

 ザナカンダはリムリク地方で「人が最初に住んだ町」と言われるほどなのだ。

 アウラシールの中ではジルバラ地方の諸都市に並んで、屈指の古さを誇る都市なのだった。

 位置はダルメキア王国との国境に近く、ダルメノン山脈の南端で、その歴史の古さが示すように古代からの由緒正しい大都市である。

 リムリクにあって天上の都とうたわれ、豊かな水と幾つもの美しい庭園を持ち、芳香馥郁ほうこうふくいくとした花々が咲き乱れる古都である。

 都市の中の花嫁と呼ばれ、最も美しく飾られたる町とも呼ばれる。

 もし地上に楽園があるならばザナカンダがそこに含まれるのは間違いない。

 もしも天上に楽園があるならばザナカンダはそれと競い合うであろう。

 詩人がその様にたたえた都である。

 当然ダルメキアは過去幾度も、この歴史ある都を狙ったが、未だザナカンダは独立を保っている。

 そしてこの先もザナカンダを領土に加えることは出来ないだろう。

 それにはダルメキアに比して、ザナカンダ一国の持つ力が十分に匹敵する、つまり十分侵略に抗しうるという現実的な理由もあるが、そもそもザナカンダがダルメキアの都市に加えられた場合、もっと大きな問題が持ち上がることになるのだ。

 それはこの地域に生きている人々の当然の発想として、「王都はザナカンダであるべきだ」という自明性である。

 事実ザナカンダは新ナーラキア帝国の帝都であったし、その後の王朝でも王都であり続けている。

 現在のザナカンダの王だって、きっと内心では自分こそがこの地域に覇を唱える資格があるはずだと思っているだろう。

 その証拠に歴代のザナカンダ王は、特に重要な際には、新ナーラキア帝国のザナカンダ総督の印章を使ってきた。

 帝国が滅んでより二千年以上が経ち、使う言葉がイデラ語になってもなお、自分たちは新ナーラキア帝国の、もっと言えば古代ナーラキア帝国の末裔だとの自負があるのだ。

 ザナカンダはミスタリア海から内陸に八デファードの距離にあり、ダルメノン山脈によって海からさえぎられている。

 都市は山脈沿いの高原にあり、北にはギビラ川が流れている。

 この川がザナカンダに大きな恵みをもたらしているのは言うまでもない。

 ギビラ川からは多くの運河が引かれ、それがザナカンダ市内や周辺の農場、果樹園へと導かれているのだ。

 当然ながら都市の周囲はオアシスであり、特に東側にはガユーラの森と呼ばれる大きなオアシスが拡がっている。

 また都市の北西には神話で有名なアデト山がある。

 ザナカンダはその長い歴史の中で、常に破壊と増築を繰り返してきた。

 その区画を王朝ごと、支配者ごとに見ていったらきりがない。そんな事をしたいのは暇な学者だけであって、住人や旅行者は大まかに、新ナーラキア帝国時代までに存在した区画を『旧市街』、それ以降の区画を『新市街』と言っていた。

 つまり新市街が既に二千年以上の歴史を持つのである。

 ザハト達がザナカンダに着いたのはタラトシッタ月の二日だった。

 ダルメノン山脈のほぼ南の端、高原上に堅固な城壁に囲まれた町並みが見えた。

 町の東側には豊かな恵みをもたらすガユーラの森が、見渡す限り緑の布のように拡がっている。

 都市を取り囲むこの緑のオアシスは、古来より花嫁の面紗めんしゃと呼ばれたり、美しき花を取り巻くがくのようだと言われてきた。

 今は雨季にはまだ少し早いが、そろそろ石榴ざくろや棗椰子、葡萄ぶどうが採れる季節である。特に生の棗椰子を食べられるのは一年で今の時期だけだ。

 まだ桃に西瓜すいか無花果いちじくやハミ瓜なども採れるし、今は果物が一年で一番豊かになる季節だった。

 ザナカンダの城壁には枢要な大門だけでも七つがあり、ザハト達はそうした大門の一つ、北東のギルドゥム門から市内に入った。

 新ナーラキア時代の堅牢な石の橋を渡り、内門を潜るとすぐに開けたところに出る。

 ここには交通整理のための兵と役人が常駐していて混雑の整理に当たっているのだが、実はここは広場ではない。

 主に戦争時に備えて確保された空間であり、それなりの広さがあるために平常時にはこのように混雑してしまうだけのことだ。

 一行はそのまま広場に続く道に向かった。

 砂を払い、顔をおおっていた布を外して騎乗のまま広場まで歩く。馬から下りるのは広場に着いてからだ。予想通りというか、混雑が物凄い。

 目立たないようにしてはいたがザハト達一行は目立った。

 物静かな、しかし威圧感のある精悍せいかんな男達の一団である。いくら隠しても、その周囲には戦いの気配が流れ出てしまう。

 それは野盗やならず者とは違った、統制された暴力の香りと言ってもいい。

 そしてそんな男達に囲まれたザハトの姿もやはり目立った。

 特に華美な服装をしてきたわけではない。ごく普通の旅装束であるが、元々が美形である。

 鋭い面差しと、それに見合った知性を感じさせる瞳を持っている。だがその割にどこか野性味のようなものも感じさせる。

 例えるならば美しい肉食獣のような男なのだ。嫌でも目立つ。

 事実ザハトを含めた一行が面(おお)いの布を外すと、少なからぬ人々が注目した。籠を担いだ物売りの女など口を開けたままザハトを見ている。

 街路樹の木陰で世間話をしていたらしい老人達が、たちまち話題を変えてザハト達一行の身分や目的について勝手な推測をし始めた。

 ザナカンダに限らず、アウラシールではこうした場所には大抵たいていお節介というか、親切心旺盛な者がいるものだが、さっそくそうした男達が近寄ってくる。

 一人来ると釣られたように他の男も来るものだから、たちまち一行の周りに四人の男達が集まって、口々にザハト達一行に話し掛けてきた。

 どこに泊まるか宿は決まっているのかとか、どういう所に泊まりたいのかとか、食事の希望はあるのかとか、どこの宿がいいとか、そんなことを銘々が勝手に喋るのだ。

 別に客引きをしているわけではない。この男達はどこかの宿に雇われたりしているわけではないのだ。

 そもそもアウラシールではほぼ伝統的に、客引きという慣習自体があまり見られない。

 客の取り合いは商人として最も軽蔑すべき行為だという考え方が、アウラシールにはあるのだ。

 ザハトはお節介な男達にやんわりと、宿は決まっていること、ザナカンダは初めてではないことを告げ、最後に男達の親切心に感謝の言葉を述べてからお引き取り願った。

 要は上手に追い払ったと言えるのだが、そんな日常的なやりとりもまた人々の注目を強めてしまう。

 広場には行き交う人だけでなく、あちこちの木陰で世間話に興じる老人達や、客を集めて技を披露している曲芸師などがいたのだが、それまでは世間話をしていた老人や、芝居や曲芸を見ていた見物客まで、結構な人数がザハト達一行に注目してきていた。

 芝居や曲芸を見せていた芸人達の中には、それに気付いて客の注意を引き戻そうとしている者もいた。

 真鍮しんちゅうのクヮデレムを背負ったお茶売りが、歩き回りながらお茶を売っていた。ザハト達の所にも来たので、これは追い払わずに人数分のお茶を購入した。

「……甘いな」

 ザハトが呟くと、一行の戦士の一人が不思議そうな顔をした。砂漠から町に入ってきたばかりの客を相手にするのだ。甘さの強い茶を売るのは当然だろう。

 その事はもちろんザハトにも判っている。

 甘いものが嫌いなわけではない。しかしこの、刺すような甘さは苦手なのだ。ひねりがないというか、直接的すぎる。

 ただしこのお茶に入っている砂糖サハルは良い。良いものを使っている。

 上白砂糖フェトラ・サハルだ。臭いや雑味が無いのですぐに判った。

 ザナカンダには王の所有する大規模なアムサハル農園がある。そこで砂糖を作っているのだ。

 アムサハルは『甘い水のなる葦』と言われる植物で、ジルバラ地方が原産だという。砂糖はこの植物の絞り汁を煮詰めて作られる。

 ザナカンダには王が所有するものの他にも、富裕な商人が所有する同じような農園がいくつかある。

 だからこうした市井のお茶売りでも、上白糖を使った茶を出せるのである。

「私の知っている隊商宿ハビトに行く」

 茶器をお茶売りに返しながらザハトは一行に告げた。

 ゴーサの傭兵達は頷いただけだった。誰も一言も発しない。無言である。

 それを見てお茶売りが怪訝けげんな顔を浮かべた。どうもこの連中は妙だぞ? そんな顔だった。

 一行は混雑する道を馬を引いて歩き、隊商宿ハビトに向かった。

 この人数がばらけずに全員で泊まるなら隊商宿の方が確実であるし、知っている宿もある。だからザハトは先程の男達の親切を断ったのだ。

 隊商宿は広場の近くに幾つかあるが、それぞれ扱う商品によって利用する宿が自然と決まる。

 織物ならこの宿、香辛料ならこの宿、金細工ならこの宿、という風に自然と決まるのだ。

 ザハト達は白い小綺麗な隊商宿へと入っていった。

 ここは織物を扱う商人達が主に利用する宿で、ごく一般的な作りをしていた。

 中央には中庭があり、それを取り囲むように建物が建っている。

 一階が駱駝や驢馬ろば、馬などを繋ぐ廏舍や倉庫、二階が商人達の泊まるための部屋になっていた。

 宿の入り口は頑丈な門で守られており、開閉の時間は厳重に決められていて、閉じている時間帯は誰も出入りは出来ない仕組みだ。

 先に宿に入っている商人には、既に荷物を解いて商談を始めている者達もいる。

 そんな中、特に荷を持たないザハト達一行が、奇異な目を向けられるのは仕方ない。

 宿泊中の商人や、商談に訪れた者達のそんな視線を気にすることもなく、ザハトは宿の主と挨拶を交わした。

 軽く世間話をしていると、宿の主の息子が盆に載せた茶を持って出て来た。

 ついさっき飲んだばかりだが、礼を言ってここでもお茶を飲む。やはり甘い。ここでも上白糖フェトラ・サハルを使っている。さすがザナカンダというか、贅沢さを感じないでもない。

 宿泊賃などの交渉がまとまると、馬を預けて一行は市場へ向かった。

 ザナカンダでは市場は区画毎に頑丈な鉄の門で仕切られている。

 夜中になると門を閉じ、朝になると開く決まりだ。もっとも書き入れ時は夕方からだが、これだけの規模の都市となると、ほぼ一日中人通りが絶える事はない。

 市場の通路には木製の屋根が被せてあり、客は雨などを気にせず買い物をすることが出来る。

 市場入り口の門を潜るとすぐに人々の喧噪や、香辛料を付けて焼いた肉の香りなどが流れてきた。

「ここで腹(ごしら)えをしておこう。各々(おのおの)好きな物を食べてくれ。食べ終わったらさっきの広場に集まるのだ」

 ザハトが一行に告げると、やはり男達は無言で静かにばらけた。

 それぞれが羊肉団子のスープや、肉と野菜を挟んだウナ、羊肉の回転焼きなどを買い始める。食堂に入っていく者もいる。

 ザナカンダに限らず、ごく一般的に言って、この地方の大都市では宿で食事が出る事はまずない。

 頼めば別だが、普通はこうして市場に自分で出掛けて好きな物を食べるのだ。

 市場と宿屋の共存というやつである。しかしお蔭で旅行者も市民も、幅広い選択肢を得て食事を楽しむ事ができるのだ。

 ザハトも適当な食堂に入って、ウナとマナナイ、豆のスープ、そして羊肉の串焼きを頼んだ。

 最初にまたもお茶。もちろん甘い。そして豆のスープと、それから生野菜盛りが出てきた。味付け用のソースはこの辺りでは一般的な、石榴ざくろの果汁から作ったものである。

 五人の傭兵がザハトと一緒になった。護衛の為だ。

 それはお互いに何も言わなくても解っていることだった。傭兵達はザハトの左右と背後を守るように席を取り、一人はザハトの前の席に着いた。これでザハトにいきなり斬りかかる事は不可能な配置になる。

 怨みはそれこそ山のように買っている身である。アンケヌの奪還以降、ザハトは相当な人数を捕らえ、処刑してきた。命を狙われていないと考える方が不自然なのだ。

 無論こうしてザナカンダに来る事は()()()()()伏せてある。伏せてあるがどこで情報が漏れないとも限らない。

 ザハトは情報というものを非常に重要視している。

 情報がこちらの意図する形で望ましく、隠蔽されたり伝播されたりするよう常に気を配ってはいるが、安心は出来ないのだ。

 控え目に言ってもザハトは危険を冒していると言えた。そのことはザハトにも自覚がある。

 だがそうせねばならないだけの理由があるのだ。

 油が跳ねる音をさせながら、皿に盛られた羊肉の串焼きが運ばれてきた。肉と香辛料の焼ける良い香りが食欲をそそる。その隣に温かいウナを積んだ籠が置かれた。

 人の出入りが多く、初見の顔など珍しくもない大都市である。店の連中も普段ならば気にもしないだろうが、どうにもザハト達一行は妙な雰囲気を持っていた。

 まずそれなりの人数なのに、年齢にばらつきがない。一行の年齢幅が短い範囲に揃っている。これが妙である。

 ある程度の人数が集まれば、普通は経験豊富な年配から、場合によっては少年までの開きがあるものだ。

 それに屈強な男達が一定数揃っている集団など、軍人か盗賊の類しか考えられない。

 しかしザハト達一行は盗賊にしてはあか抜けている。では軍人かというとそれも違う感じなのである。

 一般に軍人には多くの特権があるので、町中でも大抵たいていは得意気に軍装をしているはずだが、この一行はごく普通の旅人の服装をしている。これも変である。

 そして会話らしい会話もなく、黙々と食事をしている。不気味であった。

「……あの、お口に合いますでしょうか?」

 沈黙に耐えかねた給仕女がゴーサの傭兵の一人に話し掛けた。

「ああ、美味うまいぞ」

 返答は素っ気ないものだったが、まずいと言われたわけではない。給仕女は安心して厨房に引っ込んだ。

「食べ終わったらまた市場に戻るぞ」

 急にザハトが呟いた。元よりゴーサの傭兵達は無言であるし、店内の多くがこの一団に注目していた為に、その呟きは店内のほとんどの耳に届いてしまった。

「果物を買わねばならん」

 ザハトがそう付け加えると、少し離れた席で羊肉とジャガイモのヨーグルト煮込みを食べていた男が勢いよく立ち上がった。

「果物が欲しいのか!?」

「ああそうだが?」

 ザハトは男の方に顔を向けた。

「なら、俺の店に来てくれ! ああ、ちょっと待て!」

 男は手を挙げてから、いやこれは違うぞと考え直したように手を振って、それから慌ててザハト達のそばにやって来た。

「あんた達まだこの店にいるよな?」

「食べ終わるまでは居るつもりだが」

 ザハトの返事に男は頷くと、

「なら少しだけ待っていてくれ。いいか? 待っていてくれよな!」

 言うなり店から急いで出ていった。男は金を払っていないが、食事も食べかけであるし、おそらく常連なのだろう。給仕女も店内の連中も、誰一人気に止めていない様子だった。

「……どうしますか?」

 ゴーサの傭兵の一人がザハトに尋ねた。

「待ってやろうではないか」

 面白そうにザハトは答えて羊肉にかじり付いた。香辛料の香りが鼻と咽に心地よく、みた塩気がそれとまた上手く調和している。いい味だった。

 ザハトが予想していた通り、あまり待たされることはなかった。男は籠に幾つかの果物を載せてすぐに店に戻って来た。

「今朝仕入れた果物だ。食べてみてくれ!」

 言いながら持っていた小刀で石榴やハミ瓜を切り始める。

「さあさあ!」

 切った果物をザハトやゴーサの傭兵達に配り、次々と試食を勧めてくる。

 戸惑い気味に受け取った傭兵達も、果物を口に運ぶにつれ美味そうな顔になる。

 威圧感のある男達が無言のまま、一様に美味そうな表情になる。その光景はどこか滑稽でもあった。

 ザハトも受け取ったハミ瓜を食べてみた。甘い汁をたっぷりと含んだ、とても美味いハミ瓜で、これは買うべきだと判断した。

「石榴も食べてくれ。出始めだが、美味いぞ」

「ああ、もらおう」

 ザハトは断ち割られた石榴も受け取って口に入れた。

 ぷちぷちした小さな実の食感が面白く、ああ今年も石榴を食べられる季節になったのだなと思わせてくれた。

 甘さも十分で、皮も固い。いい石榴だった。砂漠を行く者達の間では、石榴はその頑丈な外皮と中の水気で人気がある果物なのだ。

「いい石榴だ」

 ザハトが素直な感想を口にすると、男の顔がほころんだ。

「だろ!? 今朝ガユーラの果樹園からうちの店に仕入れたもんだ。新鮮だし、味もいいだろ?」

「ああ」

「あんた果物を買いに行くって言っていたよな。だったらうちのはどうだい?」

 男が商談に入ろうと身を乗り出し気味にしたその隙を狙ったように、店の中の他の客から声が掛かった。

「こっちにもくれよ!」

 羊肉と玉葱の入ったボルゴ小麦の炒め物(パララ)を食べていた男が、冷やかすように手を振っている。

「うるせえ! お前は黙ってろ!」

 果物を持ってきた男は笑って取り合わない。

「けちけちしないで俺にも食わせろよ!」

「人の商売を邪魔するんじゃねえ! お前はそこで大人しく食ってろ!」

 おそらくお互い常連同士の知り合いなのだろう。茶化すような会話になっている。

「なっ? うちで買ってくれよ。物はいいし、安くしとくぜ?」

 男が笑顔で商談に入ってくる。ザハトも笑顔を返した。

「そうだな。それぞれ一籠ずつ貰おうか。いくらになる?」

「一籠ずつか。それだとこのくらいかな……」

 男が指で数字を示す。ここからが通常ならば値段交渉になり、それはアウラシールでは商談であると同時に娯楽でもあるのだ。

 だがザハトは手を振ってそれを制した。

「すまんが俺達には時間がないんだ。これくらいで納得してくれないか?」

 言って革袋から硬貨を取り出した。卓の上に並べていく。

「えっ?」

 男は少し驚いたようだった。娯楽とも言える値段交渉を拒まれたからだ。

 かといって値切られたわけでもない。

 十分納得できるだけの金額が卓の上に載っていた。

「あ、いや、しかし……」

「すまんが本当に時間がないんだ。これでは足らないか?」

「いやいや! そうは言ってないよ!」

 面倒だなと思いかけていたが、ザハトはまだ笑顔を崩さなかった。

「それはよかった。ならこれを納めてくれ。我々はこれから行かねばならん所があるのでな」

「あんたがそれでよければ……」

 男が受け入れたのを聞くと同時にザハトは立ち上がった。

「店主! いい味だった」

「まいどあり!」

 ゴーサの傭兵の一人が給仕女に近寄って代金を支払っている間にザハトは外に出た。

 果物屋の男はまた急いで自分の店に取って返してる。ゴーサの傭兵が果物を受け取る為に一人付いて行った。

「さて我々も広場に戻るぞ。他の連中も食事が終わった頃だろうからな」

 ザハト達は市場の通路を歩き出した。


   *


「何かあったら鈴で呼んでね」

 そう言ってメニエフは立ち上がった。

「すまないな」

「いいのよ。これが今のあたしの仕事だもの」

「うん」

 それでも。

「ありがとう」

 もう一度イシュタトが礼を言うと、メニエフは困ったように含羞はにかんだ。

「しばらく居なくなるから休んでね。寝るといいわ。お医者様もそうおっしゃってたし」

「解った」

 メニエフが去ってしまうと部屋は急に静かになった。自分の呼吸すら聞こえるほどだ。

 日が傾き始めている。もうすぐ夕方だった。人々が動き出す時間だ。そう思うとイシュタトは妙に落ち着かなくなった。

 仕事どころではないのに。

 でもいつもなら仕事をしている時間だ。命じられた仕事を。ののしられながら。

 しかし、もうそんな状況ではなくなっているのだ。それは自分にも判る。

 首を動かして天井に目を向けた。天井は木材だった。木の天井などグヌグの本邸でしか見た事はない。

 一般の住宅はどれも手軽な日干し煉瓦で作られるからだ。当然天井も土の天井になる。

 しばらく天井を見つめていた。

 すると辺りが藍色になっていた。そのことに急に気付いた。ごく短い時間だろうが自分は眠っていたらしい。

 息を吐いた。目を閉じる。このまま眠るか……そう思ったとき、誰かが部屋に近づいてきた。

 気配のする方に目を向けると薄闇の中、あの時の貴人が立っていた。

 摂政閣下と呼ばれていた人物だ。

「起こしてしまったか?」

 部屋の入り口に立ったままそう尋ねてきた。

「いいえ、起きていました」

「話せるか?」

「はい」

 イシュタトが起きあがろうとすると、貴人はそれを制した。

「そのまま寝ていろ」

「しかし……」

 それはあまりにも不敬というものではないか?

「気にするな。横になっていてくれ」

 言いながら寝台の傍に腰を下ろした。

 イシュタトは戸惑った。遠慮というか、何か上手く言えない気持ちが湧き起ってきて、そのまま横になっているのが恥ずかしかった。

「私の名前はザハトという。おぼえているか?」

 意外な問いかけだった。イシュタトは記憶を探ったが、ザハトという名前には聞き覚えはなかった。

「……おそれながら憶えておりません」

「そうか」

 くらくなり始めた部屋の中で、ザハトは少しだけ微笑んだ。

 寂しそうな笑顔だとイシュタトは思った。

「僕は、お会いした事があるのですね?」

「ああ」

「小さな頃でしょうか? でしたら申し訳ございません」

「気にするな。憶えていなくても仕方ない」

 優しい言い方だった。短い言葉だったが、深いところにみてくるような優しさがもっていると感じた。

 こんな風に思いやる言葉を掛けられたのは、一体どれくらいぶりだろうか。イシュタトはそう思った。

 ちょっとしたねぎらいの言葉を、奴隷仲間や、出入りの人足から掛けられる事は今までにも時々あった。

 でも今のは違う。そういうのとは違う。

 こういう風に話し掛けられたことはない。いやかつてはあった。あったはずだ。

 なんだこの気持ちは。イシュタトは不思議だった。

 急に遠い日の記憶がよみがえってきた。家の中庭が思い出された。夕涼みをしていた。休憩所の下に祖父が坐っていた。母が弟を抱いていた。そして――。

「私が憶えている」

 耳元でザハトの声がした。手首をつかまれていた。

「お前が憶えていなくても、たとえ誰が忘れていても、私が憶えている。絶対に忘れぬ」

「はい……」

 答える声が涙声になっているのに気付いた。イシュタトは自分で驚いたが、涙は止めようもなかった。

「申し訳……ございません」

「いいのだ」

 ザハトの口調は静かで優しかった。そこにはいたわりだけではない何かが籠もっていた。それがイシュタトには判らない。それがイシュタトに涙を流させた。

 それはずっと昔に惜しみなく与えられてきたものだった。

 けれどその日々が余りに遠くて何なのかが判らない。

「いいのだイシュタト。よくぞ生きていてくれた」

 ザハトはイシュタトの手首を掴んだまま囁くように言った。

「感謝するぞ。よくぞ生きていてくれた」

 静かな優しい言葉は、何故か底の方にほの暗い熱さを感じさせた。

「お前に聞いて欲しい話があるのだ。知って欲しい事がある。だが今は休め。眠るがいい」

 握っていた手首をそっと離すとザハトは静かに立ち上がった。

「時間の許す限りここに来よう。お前は養生する事だけを考えていればいい。不自由は決してさせぬ」

「……待ってください」

 立ち去りかけたザハトをイシュタトは引き止めた。

 泣いたばかりだ。まだ震えた鼻声であり、自分でも情けないと思った。

 しかし今聞きたいのだ。今聞いておきたい。その思いが言葉となってザハトを引き止めさせた。

「話を……話をお聞かせください。貴方様がお知りであることを、ぼ、私めに――」

「僕でよい」

 後姿のままザハトは鋭く訂正した。

「僕に、僕に聞かせたいというその話を……」

 イシュタトの訴えにザハトは何も答えなかった。

 ただゆっくりと息を吐いているようだった。

 しかし何故かその姿が膨らんだような、歪んだようにイシュタトには見えた。

 それは闇のとばりが降りてきている所為でそう見えたのか、それとも涙で歪んだ視界の所為せいだったのかも知れない。いやきっとそうだ。

 ザハトは再びイシュタトの傍に腰を下ろした。

「……私の一族はこのアンケヌの貴族でな。アムシュタルという。古くはアウラルにったが、元々の出はガニシュラだとも聞いている。王家と同じラムシャーン部族だが、このラムシャーン部族は更に大きなルメク氏族に属する。ルメク氏族の発祥地はルメクの町だと言われているが、ルメクとは古代イルメヤ語で『月の剣』という意味だそうだ。私の一族からは大臣はもちろん、宰相を何人も出していた。中でも私の家は王家とも縁を結んだ事もある家だった」

 相当な名門だということはイシュタトにも判った。

「しかしあの政変で私の一族は殺され、私だけが生き残った」

「ザハト様だけが……」

「そうだ」

 何故かそこでザハトは微笑んだ。

「私だけが生き残った。家族はもちろん、私に近しい一族の者達は皆殺された」

「……」

「ジヌハヌは猜疑心さいぎしんが強く残酷な男でな。私の一族を含め、殺された者達は皆(むご)たらしい最期を遂げたようだ」

 イシュタトにはジヌハヌという名前がすぐには判らなかった。少ししてそれが王の名前であると思い出した。王の名前はみだりに口にして良いものではないので、すぐにはそれと判らなかったのだ。

「母は王家の出だった。私は王子様方とは従兄弟同士の関係だった――」

 話はアンケヌの政変へと入っていった。

 ジヌハヌが如何いかにして王に取り入っていったのか。

 そして如何にして政変を起こし、王家とその一族を皆殺しにしたのか。

 ザハトの話は解り易く、丁寧なものだったが、違和感を抱かせるものだった。

 何だか学問について話しているようであり、感情というものが感じられないのだ。

 まさにその当事者であるのに、何だかまるで他人事のような話し方なのだ。

 けれどイシュタトにはその理由がよく解った。あまりにも理解できてしまう為に胸が痛んだ。まさにイシュタトがそうだったからだ。

 止まっていた涙がまた流れ始めた。苦しかった。色々な感情が襲ってきてどうしていいのか判らなくなった。

 それは話すべきものではないのだ。聞くべきものではないのだ。

 人は人にそういう事を聞いてはいけないのだ。

 だがイシュタトは話を止めてくれとは言えなかった。話を聞いて欲しいと言ったのはザハトだ。イシュタトに知って欲しいと言ったのはザハトだ。

 ザハトは淡々と話し続けた。

 王家の学問所の話、英明であったという第一王子、少し内向的なところがあったという第二王子、舞踊の名手だったという母親、謹厳だった父、古典学者だったという祖父。

 春になると杏子あんずの花を見に行き、鷹狩りもしたという王室の御苑、王家とその近しい者しか入れなかったという青の泉……ザハトの話は宮廷と、それを取り巻く生活を話す事で、当時のアンケヌの姿を浮かび上がらせるものだった。

「王室には直属の近衛兵団がいた。皆優れた技倆と学識を持ち、心の正しい最高の兵士達だった」

 近衛という言葉には聞き覚えがあった。

 イシュタトの表情の動きからザハトは察したのだろう。無言で頷いた。

「お前の父ギジムは近衛兵だった」

「父が……」

「お前があのれ者から何を聞かされているのかは知らぬ……察しは付くがな。お前は父親について何か憶えている事はないか?」

「父は……兵士だったと」

「ただの兵士ではない。近衛兵だ。百人に一人という狭き門を突破して初めてく事が出来る名誉ある兵士だ」

 言われてみれば心当たりがないではない。父ギジムは確かに周囲から尊敬され、敬意を払われていた。祖父ですら自分の息子である父ギジムに敬意を払っていたように思う。

 近衛だからか。近衛とはそれほどの職務だったのか。

「アンケヌが落ちたとき、私達は近衛に守られて宮殿を脱出した。しかし追っ手や、遭遇する敵兵達が流石に多くてな。勇敢な近衛と言えども、戦いの中で次第に数を減らしていった」

「……父もそのときに?」

「いや」

 ザハトは首を振った。

「ギジムはウルバと並んで特にすぐれた近衛だった。私や王子様方をまもって戦い、傷を負う事すらなかった。逃走の途中、私はギジムが一瞬で三人の賊を斬り倒すのを見た。あまりの技の凄さに何が起こったのか判らなかった」

 そこでザハトは水差しを手に取って口に含んだ。話し続けて咽が渇いたのだろう。

「……アンケヌを脱出するときにジュダル殿下は残られた。もはやこれまでと御自分で決着を付けられたのだ」

 英明であったという第一王子ジュダル。英明なだけでなく、勇敢であり、何より人の心をよく理解したという。

「立派な、本当に立派な御方だった。あのような政変がなければ、さぞや名君となられたであろうな」

 ザハトの声が沈んだ。初めて感情と言えるものが感じられた。残念そうな口調だった。

「お前の父は誠実で勇敢だった。罪など全く犯してはおらぬ。むしろこれ以上は望めぬほどの名誉ある兵士であり、立派な人間だった。お前はそれを誇るがよい。いや誇らねばならぬ。今までは癡れ者共が薄汚い虚言をお前の耳に吹き込んでいたであろうが、そんなものは地に叩き付け、踏みにじってしまえ」

 グヌグからは散々罵倒されてきた。自分の事、一族の事、そして一族破滅の切っ掛けを作ったという愚かな父の事を。

 だがそれで父を怨む程イシュタトは愚かではなかったし、子供でもなかった。

 政変が起きた時に、その異常を感じられる位の年齢にはなっていたのだから。

 グヌグが愚かで下劣な事は何よりもよく知っている。毎日見ていたのだ。嫌と言うほど知っている。

 だがグヌグの言葉が正しくはないだろうと考えてはいても、だからといって実際の父の姿を知っている、記憶しているわけではなかった。

 真実が判らないままずっと生きてきたのだ。

「ギジムには息子が二人いた。一人はお前だ。お前の弟が生まれたとき、私は母と祝いの品を持ってギジムの家を訪れた」

 記憶になかった。会っていないはずはないのだが。

「サフラに舞踊を教えていたのは私の母だ。あの娘は筋が良いとよく言っていたよ」

 イシュタトは驚いた。己の知らぬ所でザハトとは縁があったのだ。

 従姉いとこのサフラがまさかザハトの母親に舞踊を習っていたとは。

 美しく踊りの上手かったサフラ。ヤンギルの男達にはずかしめられた挙げ句、ばらばらに切り刻まれて死んだサフラ。

「あのギジムがな……」

 急に何か思い出したのだろう。ザハトはふっと笑った。

 何かを懐かしむような、何とも言えない微かな笑いだった。

「お前の父はお前たちを、家族を深く愛していた。心の底からな……だがギジムは近衛だった。そのことをよくわきまえていた。あの日、お前の父がお前たちの元に帰らなかったのはその為だ。だからどうかギジムを責めないでやってくれ。頼む」

 ザハトはイシュタトに向かって頭を下げた。

 驚いた。とても驚いた。

 立場が違いすぎる。これはあってはならない事だ。反射的にそう思ってしまう程イシュタトは驚いた。

「顔を、お上げください」

 イシュタトがそう口にしてやっとザハトは面を上げた。

 知性を感じさせる鋭い瞳がじっとイシュタトを見ている。

「父は……」

 判っているのに。結果は判っているのにその続きが言えなかった。

 沈黙が落ちた。ザハトは暫く黙っていた。

 薄暗がりの中でも際だって見える秀麗なその顔が、何かに耐えているようにもイシュタトには見えた。

「……残念だがお前の父は亡くなった」

 やがてそれだけを言った。

「立派な最期だったのですね?」

 ザハトは頷いた。

「それをお前に聞いてもらいたいのだ。私はギジムの最期を……どのように戦い、どのように死んだかを知っている。あの時の事を忘れた事はない。私は一度もあの時の事を忘れた事はない。そのことをずっとギジムの家族に、一族の者に伝えねばならぬと思ってきた。それは私に課せられた義務なのだと」

 そうだったのか。イシュタトはそう思った。

 理解の火が自分の心にともるのを感じた。

 ずっと奴隷として生きてきた。無論教育など受けていない。読み書きも出来ぬし、数もまともに数えられない。

 今の気持ちを言葉にして示すことなど出来ようはずもない。

 けれどザハトが自分に伝えたいと願ってきた、伝えなければならないと思ってきたものがある。

 そのことだけはイシュタトにも判った。

「もう誰も生きていないのではないかと諦めかけた事もある。そんな話は聞きたくないと言われるかも知れぬと恐れた事もある。それでも私はあの時のことを、何があったかを、そのまま風の中に散らすことは出来ぬと思った。ギジムの家族に語らなくてはならぬ、真実を伝えなくてはならぬ。そのことをずっと思ってきた。だからこれは私の我が儘だ。責めてくれていい。怨んでくれてもいい」

 この人は自分と同じだと思った。ずっと耐えてきたのだ。

 だがこの人は泣かないだろうと思った。己のように無様に涙を流したりはしない。

 耐えてきたのだ。ずっと。イシュタトにはその痛みが我がもののように感じられた。

 僕こそ、よくぞ生きていてくれたとあなたに言いたいです。

 あなたは生きて、僕の前に現れた。現れてくれた。

「そしてお前は生きていた。生きていてくれた。私はずっとこの日を待っていた。語らなくてはならぬのだ。聞いてくれるか?」

「はい」

 イシュタトは横になったまま、はっきりと頷いた。

「話してください。ザハト様が見たこと、お知りになった事、父の全てを」

 ザハトも頷き、そして目を閉じた。軽く息を吸った。

「……あの日、王宮では定例の祭祀が行われることになっていた」

 ザハトは話し始める。政変のあった日の事を。

 そしてギジムがどのようにして死んでいったかを。

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