序
おお、アルシャンキ! アルシャンキよ!
天と地を結ぶ神よ、天の水の支配者、白き星の主人よ
偉大なる調停者アルシャンキよ……
ウルディシュ碑文より
そこには砂と、砂が作り上げる波と丘しかなかった。
これほどまでに砂が多い砂漠も珍しい。
しかもその砂によって生み出される景色は、ひとときも定まることなく刻々とその姿を変えていく。
その場所はアウラシールの東方ハルジットの更に東、ドゥルーダ山脈の北だった。ここより先はトゥライ、そして魔の樹海しかない。
人の暮らすオアシスは遥かに遠く、四方を見回しても砂、砂、砂。
目を上方へと向ければ空が見えるが、空はただそこにあるだけで何の変化も齎らさない。
それよりも風と共に姿を変え続ける砂の方が多くを語ってくれる。
天空では、昼は全てを焼きつくす無慈悲な太陽神が、夜には優しき月神と星々が変わらず巡り続けるだけだ。
地上にあって間断なく姿を変え続けるが、その実不変な砂の地平。
天上にあって真実不変な空。
ここにはその二つしかない。
だからどちらかと友達になるしかないが、さてどちらを選ぶべきなのか。
俺はずっと砂を見ていたように思う。
空を高いと思ったことはない。いつかそこまで手が届くだろうと確信もしていた。
それでも砂を選んだのは何故だろう。
風に鳴る砂の音を耳にする度に、そのことを考えるのだ。
血は血によって清められ、しかるのちに水が流れるだろう。
そうでなければ棗椰子が茂り、緑多き土地が現れることはないだろう。




