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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
85/91

24 初雪





 何だこれは。


 栞と出逢ってから、何回この台詞を心の中で言っただろう。

 だってさ、キスってこんなんだったっけ? 栞に近付いて、そっと唇を重ねただけなのに。なのに、何だよこの気持ちは。


 胸の奥から来るこの気持ちは。

 こんなに好きなんだから、もうこれ以上なんてないと思ってたのに。それ、間違いだよ。もっともっと湧き上がる、好きだっていう気持ち。どっから来るんだよ、こんなにたくさん。


 それにどうして哀しくもないのに、涙が出るんだ。もう片思いじゃないのに。

 栞が許してくれたから? 嫌われてないってわかったから? こんな情けない俺の傍にいてくれてるから? きっとそれも全部その通りなんだろうけど、


 ただ、栞を好きなんだ。そう思うだけで、涙が浮かぶ。


 目を開けた栞が驚いて俺を見た。

「涼? 痛いの?」

 口を引き結んで、何も言えずに顔を逸らして慌てて目を擦った。み、見られた。何やってんだよ、俺は。

「違う。痛いんじゃない」

「……哀しいの?」

「違う」

「……」

「……」

 もう一度栞に顔を向けると、彼女が心配そうに俺を見つめている。


「やっぱし痛い」

「え、どこ?」

「怪我じゃなくて。胸の、奥が」

「え」

「栞を思うといつも痛くなるんだ、俺」

「……」

「いつもどうしていいかわからなくなる。片思いしてた時から今までずっと。栞のこと……好きすぎて」

「……涼」

「好きすぎて、付き合ってても自信が無くて、ずっと……片思いみたいに感じてた」

 俺の言葉を聞いて、栞が言った。

「もっと教えて」

「え?」

「涼の気持ち。もっと教えてくれなきゃわからない」

「栞」

「もっと話してくれなきゃ、わからないよ」

 そう言うと、栞は膝立ちになって俺の頭を抱き締めた。う、うわ……。どうしよう。む、胸が……!

「聞こえる?」

「え……」

「あたしの心臓の音」

 栞のセーター越しに、彼女の音が届いた。

「……聞こえる」

「同じだよ。あたしだって、胸が痛くなってたよ。涼のことが好きで、涼を思うと寂しくなったり、嬉しくなったり、涙が出たり……おんなじだよ」

 栞がそっと俺の髪を撫でてくれた。暖かくて柔らかい彼女の感触に、優しいその言葉に、また涙が出そうになる。

「だから、大丈夫だから。何でも言って?」

「……うん」

「あたしも言うから」


 栞が俺の額に自分の額をくっつけて言った。

「やっと涼と話ができた気がする」

「……俺も」

 二人で目を合わせて笑った。あーあ、良かった。

 栞がまた俺の胸に顔を埋めて、お互いにぎゅーっと抱き合った。いででで、身体中が痛い! ほんっと、冗談抜きで痛い。……でも、この痛みを忘れちゃいけないんだ。今日のこの痛みをずっと、さ。


 窓の外は、すぐに止んでしまいそうな白くて小さい雪が降り始めていた。


「まだ、いい?」

「え?」

「まだ栞のこと、離したくないんだ」

「……いいよ」



 電気も点いていない化学室の中は、もうとっくに薄暗くて、とても寒い。でも、どうしても栞を離したくなくて、ここから出たくなくて、いつまでも彼女を胸に抱いて、お互いの温もりを分け合っていた。





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