表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
82/91

21 試された後悔





 高野と原に相談して、栞と話をしようと決めてから一週間が過ぎ、もうすぐ球技大会のあの日から一ヶ月になろうとしていた。


 栞に片思いをしていた最初の頃と似てる。

 彼女の姿を見ると心臓が鷲掴みされた様になって、さんざん家で練習してくるのに、情けない事に緊張して声すら掛けられない。どうして自分からこんな風にしてしまったのかって、いくら考えてもしょうがないのに後悔ばかりして、そんな事をしている内に栞がどんどん遠くに行ってしまう気がして……結局何もできないでいた。


 今日はやけに寒い。天気予報でも、もしかしたら初雪になるかもしれないと言っていた。

 帰りには絶対声を掛けようと思っていたのに、ちょっと目を離した隙に栞は鞄を机にかけたままどこかへ行ってしまった。今日はどのクラスも掃除の無い日だ。栞は日直でもない。どこ行ったんだよ。また、駄目か……。もういい加減栞と話がしたい。


「いいの?」

 帰り支度をしていた相沢が、振り向いて話しかけてきた。

「え」

「このまんまでいーの?」

 相沢が栞のいない隣の席を指差した。目の前にいるんだから、俺達の様子がおかしいのはとっくに知ってるよな。

「いいわけ……ないじゃん」

 俯いて頭を抱え込む。もう俺だって限界なんだよ。

「もう飽きたとか、また別の女の子がいいとか、そういうんじゃないんだ?」

「……ふざけんなよ……!」

 思わず相沢の制服を掴んだ。けど、その手を相沢にゆっくり外された。

「呼び出されてる」

「?」

「鈴鹿さん。桜井に」

「え! ど、どこ!」

「多分、音楽室……か、家庭科室か、化学室か、図書室か、視聴覚室か」

「……適当なこと言ってんなよ」

 俺が溜息を吐くと相沢が続ける。

「俺の彼女から、桜井と鈴鹿さんのことは聞いてる」

 桜井と相沢の彼女は同じクラスだ。

「呼び出されてるのは、ほんと。俺の彼女が、鈴鹿さんを呼び出すように桜井に頼まれたメモ、さっき渡したから」

「!」

「彼女は鈴鹿さんにそれ渡すつもりなかったんだけど、俺が預かって鈴鹿さんに渡した」

「な、何でそんなことすんだよ……!」


「吉田」

 相沢が俺の顔に向き直った。

「もしまだ鈴鹿さんと別れたくないんだったら、早く行けよ。あいつ本気で鈴鹿さん狙ってる。どうでもいいなら、ほっとけばいい」

「どうでもいいわけないだろ!!」

 俺は椅子から立ち上がり、机に足をぶつけながら駆け出した。栞、どこに呼び出されてんだよ……! 廊下に出て走り出した途端、後ろから相沢の声がした。

「吉田! 化学室!」

「え?!」

 振り返ると、教室の出入り口から顔を出していた相沢がニヤリと笑った。は、早く言えよ、お前はあああ!! 

 けど……もし俺がこうして飛び出さなければ、栞の事をもうどうでもいいって思ってたら、呼び出された場所も教えなかったんだろうな。

 相沢は俺を、試したんだ。

「わかった、ありがとな!」

 相沢に礼を言って、そのまま廊下を真っ直ぐ走る。


 化学室は別の校舎だ。階段を駆け下りて今度は渡り廊下を走る。途中で何人かにぶつかってしまった。もう皆帰るか、部活に行くんだよな。化学室は二階だ。栞に袖のボタンを付けてもらったことを思い出す。

 頼む、間に合ってくれ。頼むから……! でも、間に合ったとしても、俺は振られて栞は桜井の所へ行ってしまうかもしれない。……それでも栞に伝えなきゃならないことがあるんだ。


 この階は、普通の教室が一年の二クラス分だけで、あとは美術室、物理実験室、進路指導室だのが並んでいる。その中の一つ、科学室の引き戸が開いていた。もうその階にほとんど人の気配は無い。

 いた! 桜井はこっちに背を向けている。あいつの正面に立つ栞の顔がチラリと見えた。



 その時桜井が栞の腕を掴んで……彼女を自分の方へ引き寄せようとした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ