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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
81/91

20 経験者





 栞にひどい事を言ってしまってから三日が経った。もう自分じゃどうしようもなくて、放課後高野の席に行く。


「高野、お前今日帰り空いてる?」

「え? 何だよ急に」

 座っていた高野が俺を見上げた。

「都合悪かったらいいんだけどさ」

「いや、別にいいよ。ちょっと待ってろよ」

 俺の顔を見て何かを察した様に高野はケータイを出して、彼女に今日は一緒に帰れないとメールした。

「俺んち来いよ。原も呼んどく?」

「……悪いな」


 高野の家は少し年代もののマンションだ。ここに来るのは三回目くらいだったと思う。

「ただいまーって誰もいないか」

「お邪魔します」

 玄関の扉を開けて中に入る高野の後に続く。人の家の匂いがした。これ皆あるよな。自分ちだけわかんないけど。

「お兄ちゃん、お帰り」

「何だよ、亜由美、部活は?」

「今日はお休み。……あ! こんにちは!」

 高野の妹が俺に頭を下げた。

「どーも。ごめんね急にお邪魔して」

「い、いえ、ちっとも! ずーっといてください。ほんとに」

「何赤くなってんだよ。涼、こいつお前のファンなんだってさー」

「え……」

「ちょっと、お兄ちゃん! やめてよ」

「いてーよ、お前は!」

 妹が高野の背中を叩くと高野が妹のおでこを叩いた。結構仲がいいんだよな、この兄妹。

「涼、俺の部屋行ってろよ。飲みもん持ってく」

「ああ」

 高野を待ってると、原も後から部屋に来た。


「で? 何なんだよ」

 高野がヒーターの電源を入れた後、音楽をかけた。

「あのさ……」

 俺は正直に話した。桜井のこと、二人が仲良くしているのを見てしまってから、イライラしてそのまま上手くいっていない事。元彼だってわかった途端、栞と一緒にいるのがつらくなって、ひどい事言ってしまった事。何で栞に対してこんなこと言ってしまうのか、全然わからないこと。


「ふーん。で?」

 高野が音楽のボリュームを調節しながら聞いてきた。

「完璧嫌われた、と思う」

「ま、普通引くわな」

「ドン引きだよ、ドン引き」

 原も隣でゲームを手にしながら頷く。う……やっぱそうだよな。その通りだと思うから何も言えないで、小さくなるしかない。

「また別れんの?」

「俺は別れたくない、絶対。でもどうすりゃいいのか、本気でわかんないんだよ」

 高野は持ってきたジュースを半分飲んで言った。

「まあ、お前がただヤキモチ妬いて拗ねてるってだけの話なんだからさ、謝れば済むんじゃないの」

「え?」

「そ、だからそれだけのことなんだからさ、」

「……ヤキモチって誰が?」

「あ? 誰がってお前がだろ?」

「待ってくれよ。何で俺がヤキモチ妬いたことになってんだよ」

「……? だって、え? 違うの? 何、俺が間違ってんの?」

 高野はコップの氷をカラカラさせながら、焦った顔で原と顔を見合わせた。


「桜井に……怒るんだったらわかるけど、何で栞にイライラしたり怒るのがヤキモチなんだよ」

 そうだよ。栞は何にも悪くないのに。そこにヤキモチとかそれはおかしい。

「……涼。お前、頭大丈夫か?」

 高野が俺をまじまじと見つめた。

「な、何だよ。大丈夫に決まってんだろ」

「いや、だからさ、お前今まで……えーと鈴鹿さんは抜きな? 今までの彼女に対してそういう風に思ったことないわけ?」

「何を?」

「だから、他の男と二人で楽しそうにしゃべってたり、仲良くしてたら彼女にも腹立つじゃん、普通」

「別に……」

「なかったの? お前」

「……全然、なんとも思わなかった」

 高野は大きなため息を吐いた。

「……あのな、涼。俺小学生と話してるんじゃないんだぞ? いや、今時小学生の方が理解できてるな」

 また小学生扱いかよ。と思っていたら高野が頭を掻きながら、俺の傍に来た。な、何だよ、ちけーよ。


「いいか? 好きになったら、他の奴に取られたくない、それはわかるな?」

「お前、馬鹿にしてんのかよ」

 俺がムッとすると、高野が続けた。

「いいから聞けよ。で、鈴鹿さんにちょっかい出す男に頭に来る。これもわかるんだろ?」

「……わかるよ」

「そしたらさ、何で桜井なんかと仲良くするんだ! 俺がいるだろうが、俺が!」

「え……」

「栞、お前あいつの方がいいの? 何楽しそうに話してんだよ。俺はここにいるんだぞ。俺のこと気付かないのかよ。俺の事好きだって言ったのアレ何なんだよ! し、」

「わ――っ! 待て待て待て!」

「って思ったんだろ、お前? そういうの立派なヤキモチっつーの。で、そいつと鈴鹿さんの過去も気になるんだろ?」

「な、何でわかるんだよ……!」

 俺の心の台詞まで。エスパーかお前は。

「それが、嫉妬って奴」

 横から原が言った。

「嫉妬……」

 俺、嫉妬してたのか。そっか、だからそっか。これ、嫉妬か。そっか……。

 って、俺は恥ずかしくて顔を上げていられなくなった。もう頭から火が出てるよ。だって俺、そんなことも気付かないで栞にイライラぶつけてたんだ。


「お前さあ、ほんっと、今までつまんない付き合いしてきたんだな、女の子と」

 高野が呆れた様に言った。

「まあ、そういうことなんだからさ、自分が悪かったって素直に認めて謝ってこいって」

「……」

 黙って俯く俺に、原がゲームをやめて声を掛けてきた。

「涼、俺言ったじゃん。言わないと溜まるって。喧嘩するって言ったろ?」

「うん」

 喧嘩っていうか、俺が一方的に怒ってんだけど。

「ちゃんと言わないからこうなるんだよ」

「……よく、わかったよ」

 情けないけど。でも原の言う通りだった。

「それに、俺から言わせればさ、自分の事棚に上げて何言ってんだって感じだし」

「え……」

「さんざんお前だって女の子と付き合ってきたんじゃん。それでも鈴鹿さんは何も言わないんだろ?」

「俺のこと、たいして好きじゃないのかもしれない」

「は?」

 俺の言葉に原が呆れた様な声を出した。

「だから何も言わないんだよ」

「涼、お前はったおしてやろうか?」

「だってそうだろ。俺がこんなになってたって栞は何ともないんだよ。二人でいた時美緒に話しかけられたって、何ともないって言ったんだよ、実際」

「バーカ! お前心底馬鹿だな!」

 高野が怒ったように俺を睨んだ。

「嫌に決まってんだろ。けどそんなこと言ってたら、お前の場合キリないじゃん。元カノなんかいっぱいいんだろ? お前がどういう付き合いしてたかしんないけど。だから我慢してるんだよ。そんなのもわかんねーのか、お前は」

「……」

「ま、自分がヤキモチ妬いてんのすらわかってないんだから、鈴鹿さんの気持ちなんかわかんねーよな」

「栞の、気持ち……」


 口に出して、急にその言葉が胸に刺さった。俺、今まで自分のことばっかりで、栞の気持ちなんて全然聞かなかった気がする。

 そう思った途端、急にもやもやしたものが晴れた。そうだ、俺も言わなかったことがたくさんあったけど、栞だって俺に言いたいことたくさんあった筈だ。

「……俺、栞とちゃんと話してみる」

 もう遅いかもしれないけど。今度こそ本当に振られるかもしれないけど。


「ま、俺たちの方が先輩だからな、経験者として」

「何でも相談しなさい。はっはっは」

 二人は勝ち誇ったように言って、両側から俺の肩を叩いて思いっきり掴んだ。

「いっ……!」

 いてーよ。けど、それが何か嬉しい。

「うん。ありがとな、ほんとに」

 俺が頭を下げたと同時に、二人は俺から手を離し後ずさった。二人でおんなじリアクションすんなよ。

「俺、今寒気がした」

「素直な涼とか、勘弁なんだけど」

「いや、ほんとに感謝してるよ、お前らにはさ。いつも……いろいろ教えてもらって。迷惑かけて、ゴメン」

 栞と出会うまで、いろんな女の子と付き合って、全部わかった気になっていた俺は、本当は何も知らなかったんだって、片思いの時から思い知らされていた。今回の事も。ちゃんと自分の彼女と長く付き合えてるお前らはさ、ほんとすごいって思うよ。


 高野が入れてくれたジュースは、氷が融けて随分薄くなってたけど、最近何を口に入れても何の味もしなかった俺が、久しぶりに美味しく感じた味だった。






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