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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
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19 振り向かない背中





「涼、あの、おはよ」

 栞が俺の机に来て言った。


「……おはよ」

「ちょっと、いい?」

「何?」

「話が、あるの」

 ……振られるのかな、俺。面倒くさい奴だって、やっぱり思うよな。


 栞の後をついて屋上の踊り場まで歩く。栞の髪が日に当たって、茶色に光ってる……。こんなに好きなのに、逢いたかったのに、ここから逃げ出したい俺がいる。いつもの場所に着いた時、予鈴が鳴った。


「メールとかじゃなくて、顔見てきちんと言いたかったから」

 栞が俺を振り向いた。

「……」

「あの、桜井くんのことなんだけど」

「……」

「涼が言ったように、中学の時付き合ってたの、少しだけ」

「……」

「はっきり言わなくて、ごめんなさい。でも別にもう何でもないの。今はただの友達だし」

「……もっと早く聞きたかったよ、俺。栞の口から」

 俺の言葉に栞が顔を上げた。

「文化祭で桜井に会った時、言ってくれればよかったじゃん」

「言おうとしたよ? けど、」

「あいつ栞に俺と付き合うなって、泣かされるって言ってたの覚えてる?」

「……うん」

「何でただの友達が、そんな事言うんだよ」

 あいつはまだ栞が好きだって言ってた。さっきの桜井の言葉が頭の中に響く。泣いたって、何でなんだよ。それをあいつが知ってるって事は二人で会ってたのか? 


「ただの友達だよ? どうしてそんなこと言うの?」

「……桜井が、いろいろ言ってきたんだよ」

「多分、桜井くんはあたしの事心配して」

「何で、あいつのこと庇うんだよ?!」

「庇ってるわけじゃないよ。桜井くんは、」

 何度もあいつの名前を口にする栞の声を、もう聞きたくなくて彼女から目を逸らした。

「もういいよ。俺、栞の口からあいつの名前聞きたくないんだ」

「……」

「そうやって必死になって庇ってんのとか、見たくないし、聞きたくもない」

「涼、違うよ。聞いて?」

「……栞は、俺の事そんなに好きじゃないんだよ」

 妙に、自分の声も遠くに聞こえる。

「え?」

「いつも俺から連絡して、誘って……いつも俺ばっかり心配して一緒にいたいって思って、俺はこんなに好きなのに、栞は全然わかってないんだよ……!」

「涼」

「俺、無理だからそういうの」

「え、無理って……」

 もうこれ以上話してたら、もっとひどいこと栞に言うかもしれない。そう思ったら、栞を置いて駆け出していた。

「涼、待って!」


 教室に戻りたくなくて、階段を駆け下りて中庭に飛び出した。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、今言った事だって本当はあんまりよく覚えてない。ただ栞の声が耳から離れなかった。待ってって言われたのに、待てなかった。ひどい事たくさん言ってしまった。栞は謝ってくれたのに、俺、全然受け入れられなかった。今まで思ってた事全部、とうとう口に出して言ってしまった。女々しくて情けないこと言いたくなかったのに。こんな姿、絶対見せなくなかったのに。


 何が大事にする、だよ。

 何が絶対大丈夫、だよ。

 俺ほんと馬鹿だ。何で栞の言う事、冷静に聞けなかったんだ。頭ではわかってるのに栞の声を聞いた途端、あいつの名前を栞が口にした途端、我慢できなかったんだ。……栞を、傷つけてしまった。


 本鈴が鳴った。のろのろと歩き、その場を離れる。こんなに教室に行きたくないの初めてだ。


 教室に入ると栞は席に着いていた。またさっきと同じ様に、その背中を見て俺の胸がずきんと痛んだ。今度は目の前の椅子をわざと大きな音をさせて引いて、座る。


 けど、栞は振り向かなかった。


 授業が始まっても、

 休み時間になっても、

 栞は振り向かなかった。


 一日経っても、あれから一度も……栞は振り向いてくれなかった。





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