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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
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15 囚われた心





 元彼……あいつが。

 

 あいつと付き合ってたのかよ。だから栞にあんなに馴れ馴れしかったのか? 

 俺は桜井を凝視した。


 見れば見るほど、ほんと上手いじゃんかよ。しかも爽やかだなこいつ。ちょっと童顔だけど、まあまあかっこいい。上手いくせに、みんなに気い使って盛り上げてるし。相沢と全然違うタイプだな。


 その時、栞が上げたボールで桜井がスパイクを打ち、決まった。

「よっしゃ!」

「桜井くん、やった!」

 大きな歓声の中、二人は笑顔でパンと片手を合わせた。もちろん二人だけじゃなくてそのすぐ後、チーム皆で順番に手を合わせていったんだけど。

「……」

 けど、たったそれだけの事なのに俺、また頭が痛くなってきた。妙に落ち込んでる。落ち込むだけじゃなくてすごくイライラする。

 結局その後も、桜井の活躍でそのチームが勝ち、何と優勝した。最後、チームみんなで抱き合ってるよ、おい。


 俺……変だ。

 さっきのイライラが全然治まらない。いつまで経ってもこの変な気持ちが何処かへ行ってくれない。


 試合が終わり、観客もまばらになって栞がこちらへ向かってきた。あ、声かけよう。お疲れ様って言ってあげよう。

「し、」

「鈴鹿!」

「あ、桜井くん?」

 栞は桜井の呼びかけに答えて振り返る。

「上手くなったじゃん」

「そうかな。でもサポートいっぱいしてくれたもんね」

「まーな。お前相変わらず、トス下手だし」

「ひどい。でもそのお陰で決まったんでしょ」

 二人は笑って話を続ける。


 ……何だよ。何なんだよ。

 何お前とか言ってんだよ。

 何楽しそうに話してんだよ。俺がここにいるのに気がつかないのかよ。

 栞もなんだよ。俺の事好きって言ったのアレ何なんだよ。


 ふと、栞が振り向き、俺と目が合った。あ! と言う顔をしてこちらへ向かって来る。駄目だ。今は、俺……。

「涼! 見てくれた?」

「あ、うん」

 目が合わせられない。体操着から出ている彼女の右腕を何となく見ていた。

「優勝しちゃった! すごい?」

「……おめでと」

「さっきね、あたしも応援行ったんだよ。涼かっこ良かったね!」

「でも負けたし」

「あー……それは、しょうがないけど、でも頑張ってたもんね」

「……」

「あたしも全然自分は活躍できなかったけど、他のみんながすごく上手だったから、得しちゃった」

 そこでようやく栞の顔を見る。無邪気な笑顔が胸に痛かった。


「……あいつがいたから?」

 何……言おうとしてるんだよ、俺は。

「え?」

「あいつ、今しゃべってた奴」

「あ、桜井くん?」

 目の前でそいつの名前を口にされて、無性に腹が立った。

「そう、桜井って……元彼なんだろ?」

「え……」

 一瞬だけ栞の表情に動揺が浮かぶ。やばい。俺、何だよこれ。もう何も言うな。涼、黙れ、黙っとけ!

「涼、あの」

「良かったじゃん、一緒に優勝できて。楽しそうだったし」

 こんなこと言いたいんじゃない。

「俺もう行くから。じゃ」

 彼女から目を逸らして、その場を離れた。後ろから栞の声が聞こえたけど、聞こえない振りをして走った。


 だから、何なんだよこれは……! どうしてこんなにイライラするんだ。栞におめでとうって笑って言いたかったのに。この後だってずっと一緒にいるはずだったのに。全然違う自分がいるみたいに、思ってもない事ばかり言ってしまった。


 胸の中になんか嫌な感じのものが入り込んで、ちっとも出て行かないで留まっている。



 兄貴の時も、相沢の時も、あれは俺が一人で勘違いして空回りしてただけだって思えるのに。なのに今度は今まで全く知らなかった何かに囚われたまま、どこにも動けない自分がいた。






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