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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
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13 胸騒ぎ





 最近何となくだけど、栞の様子がおかしいような気がしていた。


 昼休みも前より友達と一緒にいることが増えたし、授業中も何かの本を熱心に読んでいることがあって、俺の方は全然振り向いてもくれなかった。

 それはまあいいんだけど、帰りも急いでるからと言って、先に帰ってしまうことも度々あった。


 今日はようやく一緒に帰れる。土手沿いを歩くと、川からの風が冷たかった。

「涼のお兄さんって、」

「え」

「彼女とかいるの?」

 栞の言葉に心臓が嫌な音を立て始めた。何で急に突然そんなこと聞くんだよ。

「や、今は知らないけど」

「そうなんだ」

 できればあいつに興味を持って欲しくはない俺は、少しだけムキになってたと思う。

「あいつ、すっげー女遊びしてるから……!」

 足元の石を蹴りながら、大きくなった俺の声に栞が驚いて振り返った。

「え、そうなの?」

「そう。しょっちゅう彼女取り替えてたし」

「……」

「昔っから彼女いても告られまくってたし」

「……」

「彼女と別れても仲いいし」

 すると、黙って聞いていた栞が言った。

「それ、涼だよ」

「え?!」

「今言った事全部」

「……!」

 あ……そう言えばそう、かも。ってやばい、怒ってる?

「や、あの、それにあいつは、普通に二股とかしてたし、俺は絶対してないけど」

「ふうん」

 別に怒ってる風でもなく、普通に栞は頷いていた。

 それにしても何で兄貴のことなんか聞くんだろ。まさか……俺の知らない所で、知り合ってたとか? いや、それは有り得ないし、そんなことあったら栞が言うはずだし。それこそ俺の妄想だよ、妄想。

 

 俺も栞もバイトは無かったから、どこかに寄ろうと誘ったけど断られてしまった。……やっぱり、何か変だ。


 家に帰ると珍しくこんな時間に兄貴がいた。

「涼じゃん、お帰り」

「何でいるんだよ」

「自分の家なんだからいるに来まってんだろ」

 リビングのソファに座ってDVDを見てる兄貴に……聞いてみた。

「あのさ、兄貴って今彼女いんの?」

「え? 何だよ急に」

「いや、別に」

 兄弟で気持ち悪いな、もういいや。俺の言葉に暫く黙っていた兄貴が、画面を見ながら口を開いた。

「最近好きになった子ならいる」

「最近?」

「……そう。年下だけど」

 兄貴はローテーブルに乗っていたコーヒーを口にする。

「……年下って、いくつだよ」

「ん? 涼と同じ」

 同じ? ……嫌な予感がした。

「俺と同じなんて、いつ何処で知り合ったんだよ」

「お前はかーちゃんか。お前には別に関係ない……ことも無いか」

 兄貴は、少しだけ笑みを浮かべた。この表情、ろくでもない事考えてる時の顔だ……!

「……」

 俺は黙り込んで兄貴を凝視した。

「何だよ。知りたいの?」

「……」

「知らない方がいいと思うよ?」

「何で」

「……さあ、何ででしょう」

 兄貴はDVDの画面に顔を向けたまま、またコーヒーを口にした。

 

 やばい、もしかして、いやもしかしなくても……まさか栞のことなんじゃ……。


 自分の部屋に駆け込み、鞄をベッドに投げる。

 嘘だろ? 俺の妄想だよな? でもさっきの口ぶりは、絶対怪しい。いつだよ。いつの間に知り合ったんだよ……!

 まさか、栞も? さっき兄貴に彼女がいるかって聞いたのも、もしかして。いやまさか、大体そんなこと俺に聞くわけないじゃん。けど、栞の様子も最近おかしかったし……。


 慌ててケータイをポケットから取り出し、栞に掛ける。

「え……」

 話し中だ。まさか……! リビングに戻ると、兄貴がケータイで話をしている。俺が来た途端、兄貴は声を小さくして話しながら立ち上がり、その場を去ろうとした。


 ……何だよそれ。


「誰と話してんだよ!」

 思わず兄貴の腕を掴んで、ケータイを取り上げた。

「もしもし?! 栞?! 何で兄貴、と」

『……涼? どうしたの? お兄ちゃん出してよ。今日の夕飯のおかず買ってきてもらうんだから』

「へ?」

「ほら貸せよ」

 呆然としている俺の手からケータイを取り上げ、兄貴が言った。

「うん。車出すからいいよ。何、鳥のから揚げ? あとは?」

「……」

 兄貴はケータイを閉じて、こっちを見て言った。

「お前、お袋相手に何やってんだよ」

 頭にかーっと血が上った。うわあああ、これはやばい、恥ずかしすぎる。

「あ、わ、悪かったよ」

「さっきの年下ってのは嘘。これが俺の同い年の彼女。二年前から付き合ってんだよ」

 兄貴がケータイの画像を俺に向けた。兄貴と二人で仲良く並んでいる女の子が写っている。

「お前がこんな嘘に引っかかって、そんなに焦るとはね」

 兄貴がケータイを閉じてにやっと笑って言った。

「栞ちゃんって言うんだ、ふーん」


 ……俺、ほんと馬鹿みたいじゃんかよ。思わずへなへなとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。

「お前、ふざけんなよ……」

 俺の言葉に、頭の上から兄貴が言った。

「俺がかわいい弟の彼女に、手出すと思った?」

「思うに決まってんだろ」

 一番敵に回したくない相手だからな。

「いやだねー、俺はもう真面目にやってんだから心配すんなよ」

「……」

「今度俺の彼女に会わせてやるよ」

 兄貴はそう言うと、またDVDを見始めた。


 その後、栞に電話をすると、当たり前だけど普通に出てくれた。もちろん帰りの話は兄貴の事を話題に出しただけで、知り合いでも何でもなかった。

 ああ心底安心した。よく考えてみりゃわかるだろっつーの。ほんと馬鹿みたいだ俺。


 相沢の事といい、兄貴の事といい、何こんなに焦ってんだろ。一人で空回りしてるのはわかってる。けど、けどさ……栞が急に俺から離れているような気がして、不安でしょうがないんだ。

 何で最近一緒にいる時間が減っているのか、いくら考えてもわからない。俺、嫌われるような事したっけ? しつこかったのかな。それともこの前のデートの時、なんか嫌だったのかな。相沢の隣の席で、またあいつの事好きになったってわけでも無さそうだし。やっぱり俺の思い過ごしなのか? だったらいい。だけど今の電話だって……忙しいからとすぐに切られてしまった。



 ケータイを握り締めながら、初めて感じる不安を胸に抱いて、制服のままベッドに突っ伏した。






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