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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
続編 涼視点
72/91

11 恋人同士





 シーバスを降り、山下公園に入る。


「氷川丸、5時までだったね」

「また今度来た時、見よう」

 山下公園に停泊している氷川丸は、中が見学できるようになっていた。大きな船はライトアップされ、山下公園の象徴的存在だ。


 この時間になると、公園内はさすがにカップルが多い。ベンチもあちこちあるし、海を眺めながらくっついている二人もたくさんいた。

「あたしたちも、恋人同士が歩いてるように見えるのかな」

「え……見えると思うよ」

 な、何を急に言い出すんだ、栞は。

「絶対恋人に見える条件て何だろうね」

「うーん。手を繋いでるとか?」

 俺達みたいに。

「ああいうのとか?」

 栞が前を行く二人を小さく指差した。男が女の肩を抱いて、女は男の腰に手を回している。

「……ああ、まあ完璧そうだね」

 思わず自分たちに当てはめて、急に恥ずかしくなる。でも、いいな。今日肩くらい抱けないだろうか。キスもまだ未遂だし。


「じゃあ、あれは?」

 栞が別の方を見た。え……あ、あれは、ちょっと……うわ、すげー、って栞ちゃん! 栞はまだじっとそっちを見ていた。

「あんまし、見ないの」

 繋いでいた手を離し、彼女の後ろから手を回して目を塞ぐ。

「……はい。ごめんなさい」

 う、何その受け答え。可愛い。ん? そうだ、この手をこのまま肩に下ろせば、さっきのカップルみたいに自然に肩が抱ける……! 俺は栞の目を塞いでいた手を、そっと肩に下ろした。

「きゃっ!」

 え、何なになに!! 俺? 思わず肩から手を離す。

「なんか踏んで、ちょっと滑っちゃった……」

 栞の足元を見ると何かがたくさん転がっていた。暗くて良く見えない。

「何だろう、これ」

「?」

 良く見ると、大量のどんぐりだった。おーまーえーはあああ! どんぐりの分際で俺の邪魔しやがって! 池じゃなくて全部海に投げてはまらせてやるぞ。さあ大変どころじゃねーからな!

「これどんぐりの樹なのかな」

 栞が上を見上げる。

「いっぱい落ちてきたら痛いよね。……いこ!」

 栞が俺の左腕にしがみついてきた。う、腕組んでる……! そのまま小走りで青になった信号を渡り、中華街へと向かった。


 中華街へ入ると、人も多く賑やかで、あちこちからいい匂いが漂っている。

「俺、豚まん食いたいな」

「あたしも食べたいけど、一個は無理かな。さっき甘いのいっぱい食べちゃったし。涼、あたしのも半分食べてくれる?」

「食べる!」

 この辺りで売られている豚まんは結構大きい。値段も高いんだけどやっぱり美味しい。俺は一個じゃ足りないからちょうど良かった。二個買って、比較的人通りの少ない路地に入る。


「じゃあ、はい」

 栞がホカホカの肉まんを半分にして俺に差し出した。何だ? やけに顔に近すぎる気がする。

「え」

「……あ、ごめん。はい」

 栞が急に目を逸らして、今度は低い位置に差し出した。

 あ……もしかして、わあああ! 馬鹿、馬鹿、俺の馬鹿!! これは、あーんだ! 食べさせてくれようとしてたんだよ、ああ、どうしよう!

「ごめん! あの……もう一回いい?」

「え、もういいよ」

「お願い」

 何お願いしてんだ、俺は。けど、まさか栞がそんな事するなんて思わなかったんだ。

「……はい」

 栞が恥ずかしそうにまた豚まんを俺の口元に持ってきた。

「……ありがと」

 でもやっぱ、大きいなこれ。一口じゃ絶対無理だし。この後何口分もやってくれるんだろうか。さっきの様子からして、もうやってはくれなさそうだ。なるべく大きい口開けるか。

 肉まんのいい匂いが鼻先をくすぐり、そのままぱくっと口に入れた。

「!」

 栞の肩がびくっと揺れた。え……これ。栞の指も少しだけ口に入ってしまった。やばいちょっとだけ舐めちゃったよ。ど、どうしよう。

「ご、ごめん」

「ううん」

 嫌われた? いや、わざとじゃないし、これはアクシデントって奴だから大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。


「美味しい?」

「うん」

「涼、幸せそうだね」

「う、うん」

 そりゃ……そうだよ。栞は俺の顔を見て笑っていた。美味しいし、食べさせてもらったし、栞は可愛いし、うん……ほんと幸せだ。今まさに、さっき栞が言っていた、絶対恋人同士に見える瞬間なんじゃないかな。

 結局そのあと、栞の半分手にしていた肉まんを一口だけ俺が食べさせてあげた。やっぱりお互い恥ずかしかったけど、でも楽しかった。


 中華街を抜けて、駅に向かう。

 ずっとこうしていたいけど、遅くなるのも家族が心配するだろうし、ちゃんと帰してあげたいから、早めに電車に乗って栞を送った。


 栞と別れてから、すぐにメールをする。

 冬の夜道は寒くて寂しい筈なのに、メールの返事と今日の彼女の顔を思い出すと幸せで、暖かくて、家までの道のりがあっという間に感じた。






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