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4 戸惑いと心変わり (2)





 告白現場を垣間見てしまったあの時から、一週間が過ぎた。

 今日は天気もよく、空は抜けるように青い。午後もこの前とは違って雨の心配はなさそうだ。

 渡り廊下から中庭に咲いている紫陽花が見える。紫陽花って場所だか時間の経過だかで、色変わるんだよな。確か歌であった気がする。


 俺は目の前に自分の彼女がいるというのに、それも重大な事を口にしている筈なのに、うわの空で紫陽花を見ていた。


「え、ほんとに? 嘘」

「……ごめんな、悪いんだけど」

「な、何で? 美緒、なんかいけないことしたの?」

「そういうんじゃないんだけど、でもごめん。もう無理なんだ」

「やだ! やだよ。涼とずっと一緒にいる!」

 とうとう目の前の美緒は泣き出してしまった。

「美緒が悪いんじゃないんだよ。ごめんな? ほんとに」

「好きな子、出来たの?!」

「好きな子はいないけど、美緒とはいい友達に戻りたいから」

 さっきから口では謝ってるけど、心はこもってないし、すごい面倒に感じてた。嫌な奴だな、俺。

 美緒は涙を拭きながら、下を向いて言った。


「……わかった。あんまり我侭いって、涼の事困らせたくないから我慢する」

「ありがとう。これからも友達でいてくれよな?」

「うん。でもずっと彼女できなかったら、また美緒のところに戻ってきてね? 待ってるから」

「あー……待ってなくていいよ。もっといい彼氏作れよ。な?」

「涼以外の彼氏なんてやだよ」

 ふとその言葉を口にした美緒に対して疑問を持ち、聞いてみたくなった。


「……あのさ、何でそんなに俺がいいわけ?」


 そうだ、今まで付き合った子皆俺にそう言うんだ。けどこんな男のどこがそんなにいいんだかわからない。性格悪いし、調子いいし、こうして泣いてる女の子慰めるわけでないし。しょっちゅう彼女取り替えてさ、ほんと、どこがいいんだ?

 美緒は俺の顔をじっと見た。

「涼は優しいし、かっこいいし、頭も良くて、何でも出来て、友達もいっぱいいるし、それに、」

 そこまで言って美緒は急に目を逸らした。

「美緒わかってたけど、涼って女の子に本気にならないでしょ? きっとそこがいいんだと思う」

「……え?」

 何だそりゃ。

「本当は追いかけられたかったけど、美緒いつも涼の事追いかけてたんだよ? きっと今までの彼女も皆そうだよ」

「……」

 俺は急に何にも言えなくなった。本気じゃない? 本気って何だよ。

「俺……別に美緒の事遊びで付き合ってたわけじゃないよ。今までの子も皆」

「怒ったならごめんね。でも涼、自分で気がついてないだけだよ?」

「……そう、かな」

「そうだよ。美緒、涼と付き合えて嬉しかったけど、ずっと苦しかったもん。でも好きだから一緒にいたかったし」

 苦しい? 楽しくなかったのか? 何なんだよ。

「よく……わかんないけど、とにかくごめんな」


 そう言って、美緒から離れた俺。

 美緒と一緒にいて楽しかったし、このまま何となく付き合ってても別に良かったのかもしれない。けど、何かもう無理だった。それが何でなのかは、よくわからないけど。

 まあ美緒はもった方か。えーと四ヶ月くらいだったか?

 ほらな、こんなこと淡々と思ってる男のどこがいいんだよ。美緒には絶対もっといい奴がいる。


 それにしても……本気じゃないってどういう事なんだよ。付き合って苦しいって、楽しくはなかったのか? 女ってほんとよくわからない。


 俺は何となく校内の売店に向かって歩き始めた。





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