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片恋~かたこい~  作者: 葉嶋ナノハ
番外編 栞編
37/91

4 見たくない表情





 今日は抜けるような青空の、気持ちがいいお天気。


 お昼休み、愛美と絵梨と三人で教室でお弁当を広げる。絵梨は二年になってからの友達。愛美同様何でも話せて、相沢くんに振られた事も知っている。私達三人とも、ついさっきまで別クラスの友達みんなと話していたから、食べるの遅くなっちゃったんだよね。クラスの皆はもうほとんど食べ終わっていた。


「鈴鹿さん、ちょっといい?」

 ドアの近くの席で食べていたから、入り口の所から声を掛けられた。

「杉村さん」

「相沢くん、呼んでくれる?」

「あ、うん」


 杉村さんは、別クラスだけど私達と同じ委員会だ。相沢くんの席は窓際だったから、ここから呼ぶのは無理だもんね。席を立ち、相沢くんの方へ向かう。

 相沢くんの席には他にも何人かの男子がいた。……声かけるの、ちょっといやだな。ううん、しょうがないじゃない。仕事なんだから。

「あの、相沢くん」

 一斉に男の子達がこちらを見る。その時だった。


「ねえねえ、涼別れたって!」

「えー! ほんとに?!」

 女の子達の声が上がる。……涼って吉田くんだよね? その声に目の前の男の子達もそちらに注目した。あ、助かっちゃったかも。今だ。

「杉村さんが呼んでるよ」

「ああ、ありがと」

 相沢君はすぐに席を立った。


 正直、杉村さんと一緒に居る相沢くんを見たくはなかった。何となく、何となくなんだけど、いつもあまり笑わない相沢くんが、杉村さんと一緒だとよく笑うような気がしていたから。

「鈴鹿さん、ありがとね」

 笑顔でお礼を言う杉村さんに、

「ううん」

 と返事をして、二人を背にして席に戻った。

 杉村さんは優しくて、明るくて、私にも相沢くんにも分け隔てなく接してくれる。素直で一生懸命で、ちょっとドジなとこもあって可愛い。そう、すごく可愛い人なんだ。


 お弁当、進まないや。だいぶ残してしまった。いつもなら大好きなエビフライなんだけど。お母さん、ごめん。

 もう振られたんだから、気にしてもしょうがないのに。

「栞、もういいの?」

「うん、なんかお腹いっぱい」

「……平気?」

「え、うん! もう全っ然平気だし! ダイエットだよ、ダイエット!」

 そう自分に言い聞かせる。二人を心配させちゃ駄目だ。


 愛美と絵梨もお弁当を食べ終わり、お弁当箱を袋に入れている時だった。

「じゃーね」

 杉村さんの明るい声がした。振り返ると、そこには杉村さんに手を振り、柔らかい表情で教室に入ってきた相沢くんがいた。


 あ、駄目だ私。どうしよう、ここにいたくない。咄嗟に財布を持って立ち上がる。

「ちょっと飲み物買ってくるね」

「……ん、行ってらっしゃい」

 二人は私の気持ちを察してくれたのか、何も言わずにいてくれた。


 昇降口の自販機へ急ぐ。もうすぐ授業だけど、でもやっぱり教室にはいたくない。相沢くんのあの表情を見たくない。私の勘違いじゃなければ、相沢くんはやっぱり、ううん、あの二人は……。

 胸の中がざわざわする。こんなこと思いたくないのに。


 廊下はひんやりとしていて、昇降口に向かうにつれて人が少なくなる。急ぎ足で歩いていると、女の子二人が赤い顔をしながら私の横を走って通り過ぎた。

「絶対聞かれてた!」

「でも笑ったよね?」

「もう、めちゃくちゃかっこいい!」

 どうしたんだろう?

 自販機の方を見ると、背の高い男の子がいる。



 私が振られた事を黙っていてくれる人……吉田くんだった。





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