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30 最悪の誕生日





 屋上で空を見上げながら一人、いろんな事を思い出していた。


 栞ちゃんの告白現場を見てしまった事、一緒にここで青空を眺めた事、初恋に気づいて裏庭で泣いた事、初めてメールをした日、金魚をあげた夜。自転車での帰り道、パン屋で会ってお昼を一緒に食べて……俺の顔についたコロッケ、笑って取ってくれたっけ。

 もう戻りたくても、戻れない。


 突然、屋上の扉がばーんと開いた。

「あー! 涼こんなとこにいた!」

 同じクラスの女子が二人と、別のクラスの女子が一人。ずかずかとこちらへやってきた。

「探してたんだよ! 一緒にお昼しよ」

「今日誕生日だもんね。皆で一品ずつ作って来たんだよ」


 あ、俺今日誕生日か。忘れてたそんな事。だからいろんな子に、帰りに渡したいものがあるからって声かけられたのか。全部断ったけど。


 最悪な誕生日だな。


「あー……サンキュ、な」

「どしたの、最近。具合悪いの?」

「何か元気ないよねー」

 頼む、どっか行ってくれ。今日の俺は一人でいたいんだ。と言う間もなく、目の前に弁当を広げられた。

 おお、すごいな~。確かに美味そうだ。けど、中々手がつけられない。全然食欲が無い。さっきから胃が痛くて、頭もまだズキズキ言ってる。

 そうだ、恋わずらいだよ。今日は一番ひどいやつ。俺はもう一生、この病気から抜け出せないのか。


「涼、ほんとにどうしたの?」

「いや……食べるよ」

 何となく、寄りかかっていた鉄の柵を振り返り、裏庭を見た。


 三人の男女が居た。その中の二人は、

 ――栞ちゃんと、相沢?! 二人じゃなかったんだ。そうか、委員会だ。その仕事だったんだ。

 まだ二人が付き合ってるって決まったわけじゃない。そうだ、本人の口から聞くまでは諦めるな、涼。まだ好きだって伝えるチャンスはある。

 俺は突然立ち上がり、下を凝視した。

「悪い! ごめん、俺行くわ!」

「え? 涼?!」

「ほんと、気持ちだけもらっとく! ありがとな!」


 行儀の悪い事に弁当を飛び越え、屋上のドアを勢いよく開け、階段を三段ずつ下りる。彼女を好きだというだけで、どうしてここまで必死になれるのかわからない。

 周りの皆が驚いて振り返る。自分を呼ぶ声が何回か聞こえたけれど、全て無視してとにかく走った。


 裏庭に出て、茂みから静かに近付く。

 どうやら委員会関係で、裏庭の整備をさせられていたようだった。一人は、この後先生に呼ばれているからと言って、その場を後にした。栞ちゃんと相沢が、残っていた。


 そこは以前、彼女が告白した場所だ。

 俺は前と同じ様に、樹の陰でこっそりと二人の会話を聞いていた。


「あー、やんなっちゃうね。昼休みに」

「うん」

「相沢君、あの……あたしもう好きな人できたから、だから気にしないでね」

「え、」

「だから、もう気使わないでね」

「そうか。俺も……彼女出来たんだ」

「……そうなんだ。良かったね」

「うん」

「ね、もうここ、後はやっておくから相沢くんはいいよ」

「そう?」

「うん、後ちょっとだし。先行ってて」

「わかった」


 相沢は一歩足を踏み出して、そこで立ち止まり栞ちゃんを振り返った。

「俺、こんなこと言える立場じゃないけど」

「え?」

「……頑張って」

「……うん」

「お幸せに」

 にこりと笑って、また何事もなかったかのように、相沢はその場から去って行った。


 今、何て言った?

 好きな、人? 相沢の事じゃないのか? どういう事だよ、それ……。



 俺の頭が、またガンガンと音を立て始めた。






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