表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/91

3 戸惑いと心変わり (1)





 昼はあんなに晴れていたのに、午後には急激に天気が悪くなった。放課後、廊下や階段で何人かの女の子に一緒に帰ろうと言われたけど、一応断る。昇降口で待っているからと美緒みおからメールが入っていた。さっきまで高野達と話しをしていて少し遅くなったから急ぎ足で向かう。


 美緒は今の彼女だ。俺とは別クラス。髪が長くて先っちょがくるくるしてる。顔も、まあ可愛い。なんていうか、少し我侭でよく甘えてくる、そんな感じだ。結構男に人気あるんだよな、これが。

 雨の匂いと湿った空気が混ざり、人気ひとけも少なくなった昇降口で、美緒は声を掛けてきた。

「あ、涼! 遅いよー」

「ごめん」

「雨降ってきたからさ、傘一緒に入ろうよ、ね?」

 美緒は嬉しそうに俺の腕に触ってきた。何か、今日どうしたんだろ俺。美緒ですら……駄目だ。

 

 下駄箱から顔を上げて外を見ると、ガラス戸越しに昼間俺が告白の現場を見てしまった鈴鹿栞、彼女がいた。彼女も帰りが遅くなったのだろうか、一人庇の下で立っていた。傘、ないのかな。俺、確か今朝持ってけって言われて、鞄に折りたたみ入ってたな。

「美緒、傘あるんだろ?」

「うん」

「じゃ、ちょっと待ってて」


 俺は靴に履き替え、折りたたみ傘を取り出し、彼女に渡そうと外に出た。その時一人の男が俺と同じ様に、彼女に向かって歩いてきた。

 あ、相沢?


「鈴鹿さん」

「あ……」

「傘ないなら、どうぞ。俺もう一本あるから」

 そう言われた彼女は顔を真っ赤にしていた。

「……いいの?」

「うん」

 彼女に折り畳み傘を渡した相沢は、普通の傘を差し彼女に背を向けた。

「今日、ごめんね。急にあんなこと」

「……別に構わないよ。じゃあ」

 相沢はにこりともせず、そのまま立ち去った。


「あ、ありがとう」

 彼女はもう聞こえないだろう距離にいる相沢に、小さい声でお礼を言った。そして傘を広げるわけでもなく、相沢が帰っていった方を見つめていた。

 ずっと。


 少しずつ雨足が強くなってきた。俺は足早に彼女の前を通り過ぎる。

 何やってんだろ俺。

「涼、待ってよ! どうしたの ?!」

 美緒と一緒の傘に入りたくなくて、さっき渡そうとした折り畳み傘を広げ、自分で差して歩いてた。後ろから美緒の不機嫌な声が聞こえる。美緒に待っててと言いながら、勝手に歩き出してるんだから怒るの当たり前だよな。でも、美緒の事よりも相沢から傘を受け取った彼女の事で頭が一杯だった。

 俺がもう一度聞きたいと思っていた言葉は……あいつに向けられたものだった。


 何だよ、ちくしょー。

 あいつ、彼女の事振ったんだろ? それもさっき振ったばっかりで、何でああいう事するんだよ。だったら振るんじゃねーっつうの!

 別に俺には関係ないけどさ。何でこんなに腹が立つんだ?


 いつの間にか隣にいた美緒は、俺に合わせて無言で歩いていた。いつもだったらすぐに謝ってご機嫌取る俺なのに、美緒はちっとも悪くないのに、いつまでも雨の中を俺は口も利かずに駅に向かって歩いた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ