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23 はじめからわかってた





「涼」

 二時限目の休み時間、渡り廊下で後ろから声を掛けられた。

「美緒」

 振り向くと、久しぶりに会う美緒がこちらへ歩いてきた。同じ学校とはいえ偶然会うことは少ないし、別れてからは気まずさもあってか見かけてもお互い話しかける事はなかった。


「なんか久しぶりだね、こうやって話すの」

「うん。元気?」

「もちろん! 彼氏もできたし」

 美緒の声は無理してるわけではなく、心の底から元気な声で俺も何だか安心した。

「そっか」

 俺が返事をすると、美緒は中庭に視線を移した。


「ね、涼。ずっと聞きたかったんだけど……」

「何?」

「涼、好きな女の子できたんじゃない?」

「え」

「何だか雰囲気変わったよね」

「……なんで、わかった?」

「だって、元カノだもん。わかるよー」

「……」


 俺も中庭に目を向けた。

 そう言えば美緒と別れ話をしてた時、紫陽花が咲いてたな。随分前の事みたいだ。まだ半年も経ってないのに。

「付き合ってないの?」

「……うん」

「告白は?」

「できないんだ」

「どうして?」

 美緒の問いかけに、俯いて答える。

「……怖くて」

「え?」

「笑っちゃうだろ? 怖くて告白できないんだよ、俺」

「涼……」

「友達の関係をさ、壊したくないんだよ。もし嫌われたらとか情けないけどさ、そう思ったら何もできないんだ」

 自分で言っておきながら、何だか違和感を感じた。確かにその通りだ。その通りなんだけど……。


「涼、本気なんだね」

 その言葉に、美緒と別れた時の事を思い出す。

「美緒に……謝らなきゃいけないよな、俺。本当にごめんな。俺全然わかってなかったんだよ」

「……」

「みんなこんな思いして、好きだって言ってくれてたなんて気がつきもしなかった。俺と同じで、軽いノリでさ、付き合ってって言ってるのかと思ってたんだよ。皆に謝って回りたいくらいだよ」

「大丈夫だよ、涼」

 美緒は笑って言った。

「きっと皆わかってるよ。涼、今女の子達から何て言われてるか、知ってる?」

「?」

「落ち着いて、前よりももっとカッコ良くなったって言ってるよ。女の子達の告白もずっと断り続けてるんだって?」

「うん」

「好きだから、その人以外はいやなんでしょ?」

「……うん」

「応援するよ。涼がやっと本気になったんだから」

「美緒」

「大丈夫だよ、涼。きっとその気持ちが伝わる時が来るよ」

「そうかな」

「そうだよ。頑張れ、涼」

 美緒の励ましに、少しだけ笑顔になれた。


「じゃあ、行くね」

 俺から離れた美緒の背中に声をかけた。

「美緒、ありがとう」

 美緒は少しだけ振り向いて頷くと、校舎に入っていった。


「復縁か~?」

 出たよ、高野。いつからいたんだお前は。

「んなわけあるかよ」

「美緒ちゃん、何だって?」

「頑張れってさ」

「鈴鹿さんのこと?」

 俺は無言で頷いた。

「涼、もうお前さ、告ればいいじゃん」

「……」

「何がお前をそこまで頑なにさせてんの?」

 高野の言葉に目を伏せる。

「もし駄目でも、彼女は今まで通り友達でいてくれると思うけど、俺は」

「……」

「告ったからって距離置かれるとか、嫌われるとかそんな子じゃないだろ? それは涼が一番よくわかってんじゃないの?」

 そうだ。栞ちゃんはそんな子じゃない。俺が好きだと言ったからって友達関係まで壊す子じゃない。

「それにさ、上手くいくかもしれないだろ。彼女だってお前の事好きかも、」

「いや、それはないよ」

 高野の言葉を遮った。


「さっき美緒と話しててわかったんだ。俺、やっぱり怖いんだよ。嫌われるとか何とかじゃなくて……振られるのが。絶対に振られるの、わかってるからさ」


 初めて、それを口にした。本当はずっと心の底で思っていた事だった。初めから、わかっていた事だった。

 彼女に出逢った時から、彼女は相沢が好きだった。その後も、きっと今までだってずっと。昨日の図書室で、彼女が誰かにお菓子をあげるとわかった時の表情が決定打だった。あれは好きな奴を思ってる顔だ。そしてそれはやっぱり相沢で、決して俺の事じゃない。けど、俺自身それを認めるのが怖かったんだ。

「涼」

「でも、もっと怖いのは何も伝えられないで終わることだと思う」

 高野は黙って聞いている。

「だから俺、言ってみるよ。好きだって」

 認めたら、何だかすっきりした。俺が振り向いてもらえる可能性はゼロだけど、彼女には伝えたい。初めて本当に好きになった女の子だから。


「泣くなよ、涼」

「泣いてねーよ! うっさいな、お前は!」

「まあ、振られたら俺と原で慰めてやるからさ」

 高野はバンバンと俺の背中を叩く。


 いってーな。痛いんだよ、すごく。

 痛いから、だからちょっとだけ、目の前にあった今は咲いていない紫陽花が滲んで見えた。それだけだからな。






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