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10 恋患い




 

 三時限目の休み時間、俺は一人屋上に居た。もう梅雨も明けたのか、強い日差しが背中に照り付けている。柵に寄りかかり、校庭を見下ろしながら頭を抱え込んだ。


 恋わずらい 恋わずらい 恋わずらい


 何だよそれ!

 この俺が……あんなにたくさんの女の子と付き合ってきたこの俺が、今更、いまさら……。

 ちょっと待て。という事は、今まで本当に好きになった子はいなかったって事か?そうだ。美緒にも言われたじゃんか。本気になってないって。


 今までずっと告白されっぱなしで、皆俺に夢中で俺から好きになったことは一度もない。けど、好きだって言われて俺も好きになったと思ってたんだ。一緒にいれば楽しいし、退屈凌ぎにもなる。だからこんなもんだと思い込んでたんだ。


 ――全然、違うんだな。


 よく胸が痛くなるとか何とかさ、歌の歌詞とか本読んだりマンガとかDVDで見て、そんな事当然知ってたけどさ。本当にあんなに痛くなるなんて思わなかったんだよ。女の子と一緒にいてドキドキすることは勿論あった。ドキドキっていっても、何と言うかわくわくに近いもんだった気がするけど。とにかくああいう、苦しさみたいな痛みは知らなかった。

 小学生か俺は。情けない。マジで心配した。今まで一度もこんな風になったことが無いなんて、逆に貴重だよ。


「はあ……」

 何故か溜息しか出ない。


 予鈴が鳴り、校舎に入る。教室に戻るまで何人かの女子に声を掛けられたけど全てうわの空だった。もう誰が誰だか、どうでもいい。名前も覚えられない。必要もない。

 俺の目は、どうしたことか鈴鹿さんしか探していないみたいだった。誰を見ても彼女じゃないかと勘違いし、似た後ろ姿を見ただけで駆け出したくなる。


 お、落ち着け!!

 どうしたんだよ、本当に。

 これが恋ってやつなのか。


 教室に入ると、また心臓が……! でもとりあえず原因はわかったから、自分を宥め落ち着かせる。

 居た。彼女は自分の席で友達と話してた。そうか、予鈴鳴ってるしな、教室に居たんだ。……冷静になって考えりゃわかるだろ。

 どうしよう。いやどうもしないけど、けどどうしよう。どうしたらいいんだ、こういう場合。駄目だ。さっきは夢中で探してたくせに、今度は彼女を正視できない。


「おい、涼」

 急に高野に声を掛けられて必要以上に驚く。

「な、何だよ!」

「どうしたんだよ。具合でも悪いのかよ。何か変だぞ」

 えええ! 人から見てもおかしいのか。やばすぎる。

「別に、何でもねーよ。……そんなに変?」

 否定しつつ、横目で高野を見る。

「大丈夫ならいいけどさ。さっき廊下で女子に聞かれたから」

「何て?」

「涼が、ぼーっとしてて、どっかにぶつかりそうになったと思ったら急に駆け出したり、溜息吐いて下向いたりとにかく変だってよ」

「なっ……!」

 何でそこまで見てるんだよ! つうか何だ俺、その行動は。

「だ、大丈夫、大丈夫。何でもない」

 自分にも言い聞かせるように繰り返す。

 好きになっただけなんだ。彼女を。ただそれだけの事なんだからな。


 そう、ただ……それだけの事なんだよ。


 ふと前の方の席を見ると、相沢が目に入った。そうだ、彼女は相沢が好きなんだよ。振られたけど、でもきっとまだ好きなんだ。

 心臓の痛みが、なんだかちょっと違う痛みに変わった。苦しくて、切ない。



 苦しいって、こういう事だったのか。






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