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生涯消えぬ罪を抱いても、私は。
目覚めた私は、祖母の病室にいました。父の膝でうたた寝をしていた、そう言われました。
トイレに行くと告げて向かった彼女の部屋は、すでに慌ただしく医者や看護師が往き来しています。
チラリと見えた彼女の顔は驚くほど綺麗で……やはり微笑んでいました。
本人が望んでいたとはいえ、夢の中だとはいえ、確かに私が殺した人……
今も鮮明に覚えています。肉を貴く鈍い弾力を。人を殺した感触を。
この両手は、私は、人殺しの罪にまみれて穢れています。
けれど、私は彼女を殺した事を後悔した事はないのです。
罪を背負った事を後悔した事はないのです。
ただ、穢れている私が、幸せを望んでいいのか、わからないのです。
穢れた手だとしても、あの二人のように誰かと愛しあえるのか、わからないのです。
殺した事にはかわりないから……法的に罰せられなくても、誰も責めないとしても、罪にかわりはないのですから。
けれどその一方で、私は死を終わりだと考える事が出来ません。
死ぬという事は、この世界で会えないだけで、魂は別の世界で生きているのだと……
何故ならかみさまのように、この世界に存在しないと言われている人の存在を、私は知っているから……
この考えは人の常識から外れていますから、私はやはり普通ではないのでしょう。
そんな私は誰かの幸せを願う事すら赦されないのかもしれません。
それでも、あの二人を思い出すたびに、春になるたびにそっと願うのです。
――どうか、優しき桃の香に眠れ、と。
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これにて『桃の香に眠れ』は完結となります。
『私』がこれからどのように生きていくのか、それはまた別のお話です。
『私』にとって京子は同じ存在であり、先輩であり、はじめて自覚したかけがえのない存在でした。
『殺す』という行為が京子にとって『救い』とわかったからこそ、『私』は京子達を手にかけます。
京子の最後の言葉が『ありがとう』なのは、いつか『私』が京子を憎めるようにという、最後の優しさでした。
この言葉が『私』のこれからに大きく関わっていく事になりますが、この話はここでおしまいです。
成長した『私』に早く会いたい、という方は、お気軽に催促して下さい。
もちろん『私』の考え方への賛成、反対の意見もお待ちしています。
それでは、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。




