余計な心配
地の文を一切書かずに、会話文だけで情景・状況描写にチャレンジです。
「や、やあ。やっぱり来たんだね。さっきはごめん。メールに気づかなくてさ」
「ごめんなさい、こんな遅くに」
「いいさ。明日は休みだし、まだ11時だから、どうってことない」
「颯ちゃんが帰ってなければ、そのまま戻るつもりで来たんだけど、明かりがついてたから」
「うん。寒かったろ? ともかく入って。この冬は深夜になったら連日、氷点下だ。どうかしてるよ。えーと、はい、コートはこのハンガーにかけて」
「うん、ありがと」
「泊まっていくんだろ?」
「いいの?」
「いいさ。実は、りっちゃんからのメールに気づいたのは、ついさっきでさ」
「ほんとに? あたしがメールを入れたのは8時よ。ああ、あったかい」
「携帯を会社に忘れちゃったんだよ。で、それを取りに戻ったら途中で中島と会ってさ。居酒屋でどうしてもって言うもんだから。あ、適当に座ってて。コーヒーでいいかな?」
「うん。あ、いい。あたしが淹れてあげる」
「そう。じゃあ頼むよ。中島のやつ、仕事のミスが続いたもんだから、すっかり落ち込んじゃってね」
「なに、これ。食器、洗ってないじゃないの。しようがないわね」
「いや、そいつは明日、洗うからいいよ。それでね。辞めようかと思うんですなんて弱気なこと言い出したもんだから、見捨てても置けなくてさ。先輩として元気づけてやってたんだ」
「あなたは、後輩には優しいものね」
「うん。まあね。僕だって、たまには先輩らしいところを……えっ? なに? そこで、なんで笑うかなあ。そんなに可笑しい?」
「あははっ、そうじゃないの。そうよね。颯ちゃんは正統派の草食系男子だものね。あたしったら、バカみたい。なんか余計な心配しちゃった」
―了―