ちょっとした奇跡
奇跡が起こった。
朝のトーストが信じられないほどおいしく焼けているのである。 外はカリッと、中はもちっと。よく聞くフレーズだとは思うが、幾度となく繰り返した朝に数え切れないほど食べたトースト達とは比べ物にならないほど、圧倒的に、超常的に、神々しくさえもあるほどにおいしく焼けているのである。もはやハチミツなどこのトーストの本来の味を邪魔する存在だ、などと思えてきた。
これを奇跡といわずなんと言おう。
一週間の苦労をねぎらう日曜日にそんなトーストに出会えた私はきっと天から祝福されているのだろう。そしてその日の私は素晴らしかった。トーストのカリッっとした食感のおかげで一瞬にして覚醒した私の脳内では月曜日にやるべき仕事の超効率的なやり方が弾き出され、もちっとした食感に包まれた私の体にはそれをこなすだけの体力が満ち溢れてきたのである。
そして私はトーストを食べ終え、歯を歯ブラシで迅速に磨き上げ、寝汗にまみれた寝巻きとおさらばし、一気に仕事に取り掛かった。
するとどうであろう、月曜日にやるはずであった仕事が日曜日の正午過ぎには終わってしまったではないか!
そしてまだまだ活力が溢れている私は家でじっとなどしていられず、今まで行ったことのなかったオシャレなカフェへと足を運んだ。もちろんスキップで、だ。
私はアイスコーヒーを飲みながら、朝の奇跡を思い出し、神とオーブントースターに感謝していた。
その時である。
「あれ、もしかして・・・」
そんな声をかけられた。とても心地がよく、そして聞き覚えのある声であった。
振り返るとそこにいたのは学生時代の親友であった。
まさかこんなところで会えるとは、なんとゆう奇跡であろう!
そして私達は長い間思い出話に花を咲かせた。たっぷりと話した。
そして最後、これだけは伝えなければと思い出し、唯一昔の話ではない、朝のトーストについての話を心を込めて話した。すると親友は苦笑しながら、
「相変わらず幸せそうでよかった。」
と言った。
確かに朝と昼に、素晴らしき奇跡に出会えた私は幸せものだ。 そしてそんなことに気づけたことも、きっと奇跡なのかもしれない。時刻は夕方だった。
私は親友と別れ、夜にはどんな奇跡が待っているのだろうと胸を躍らせながら、帰り道をスキップしていた。
特に大きな事件なども起きない話です。
ただ、こんなありそうな奇跡がおこる一日があればいいなぁと思い、書きました。
もしもこんな奇跡が自分におこったらどう思うだろう?なんて一瞬でも考えてくだされば、それだけでとてもうれしいです。