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右と左           :約1000文字

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/01/27

 ……右と左って、たまにどっちがどっちだかわからなくなるとき、ありません?

 いやいや、もちろん、落ち着いて考えればちゃんとわかるんですよ。

 ただ、ほら……あるでしょう? 疲れているときとか、緊張してるとき、もしくは一瞬で判断を迫られるような場面で。「左!」って言われた瞬間、なぜか体が右を向いてしまったりして。あの一秒の裏切りは曲者ですよねえ。

「いや、利き手のほうが右なんだから簡単だろ」って思うでしょう? ええ、わかります。でも私、もともとは左利きだったんですよ。それが頭の奥から、ふいに顔を出すことがあるんです。まあ、手なんですけどね。

 幼い頃に無理やり直されたんですけどねえ。いやあ、あの先生は本当に厳しかったなあ。鉛筆を左で持つたびに、ビシッと叩かれて、今でも手の甲にうっすら傷が残っているんですよ。消えないもんですねえ。ほんと。


 私の母はね、左利きだったんですよ。母が子供だった時代は、今ほど厳しくなかったらしくて、特に直されることもなかったみたいなんですねえ。もっとも、大人になるにつれて、仕事の都合やら何やらで右手のほうが器用になっていったようですけどね。

 父は右利きですが、思想はけっこう左寄りでしてね。平等とは何か、自由とは何か、そんな話をよく私に語っていましたよ。

 母はどちらかと言えば右寄りですかね。保守的というか、慎重というか。ああ、ほら、ここでも右だの左だの、ややこしいですよね。


 車の運転だってそうですよ。右折してください、左折してください。焦っていると、一瞬頭が真っ白になるんですよ。もっと直感的な言い方はないんですかね。こっち曲がれとか、そっち曲がれとか。ははは、それじゃわかんないか。

 しかも右と左って、相手の立ち位置によってまた意味が変わるじゃないですか。相手から見て右なのか、それとも私から見て右なのか。英語では、右がライトで左がレフトでしたっけね。なんかこれも語感が似てますよね。ライト、レフト。ははは、どっちがどっちなのやら。

 イヤホンのRは右? Lが左? その一瞬の迷いが決定的なズレを生むんです。もういっそ、この世界から右も左もなくなってしまえばいいのに。ねえ、そう思いませんか? ははは、なんて言い訳がましいですよねえ。こんな話を聞かせたところで、助かるわけないのに。ははははははははは、はははははははははははははは! おしまいおしまいおしまいおしまい!





「……おい、あれは何だ?」

「は、何だと申されますと……」


「あの兵士、隊列を乱しておる」

「あ、本当だ……。大変申し訳ありません、閣下。すぐに摘まみ出します」


「いい。ライフルをよこせ」

「ははあ……。あっ、逃げ出しましたよ」


「問題ない。あの阿呆、まっすぐ走っておる。狙いやすいわ」

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