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日本転生― Sphere Japan ―  作者: 進学したスライム
器の準備

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8/11

第七話「気分反転」

(俺の火は、人を守れるのか)

全てを焼き尽くすのではないかと恐れていた自分の力が、ここでは「希望」として機能している。

その事実に、灰は小さく拳を握りしめた。

じわりと胸が熱くなる。これは体温ではない。喜びだ。

その時、ポケットの中で硬い何かが指に触れた。

「ん?」

無意識に取り出してみる。

それは、泥のついた**「ドングリ」**だった。

丸々としていて、どこか艶がある。瓦礫の山であるこの駅周辺では、まず見かけない自然の種子だ。

なぜこんなものがポケットに?

さっきの幻覚のような少女――座敷童子がいた場所を振り返るが、やはりそこには誰もいない。

(……お礼、なのか?)

灰はそのドングリを、親指の腹でそっと撫でた。

不思議と、指先の震えが止まる気がした。

これが後に、彼の命を救う**「小さな幸運ラッキー・チャーム」**になるとは知らず、灰はそれを大切にポケットの奥へと仕舞い込んだ。

「やるじゃないか、リペアマン」

背後から、パンと背中を叩かれた。

振り返ると、ウズメがニヤリと笑っている。

「へっぴり腰だったけど、筋は悪くないよ。破壊しか能がない脳筋かと思ってたけど、意外と繊細な指先してるんだね」

「……褒めてるのか、それ」

「最大限の賛辞さ。この世界じゃ、壊す奴より直す奴の方が希少価値が高いんだ」

ウズメの視線が、一瞬だけ灰のポケット――ドングリを仕舞った場所――に向けられた。

彼女の鋭い勘は、そこに微かな「霊的気配」を感じ取ったのかもしれない。

だが、彼女は何も言わず、ただ面白そうに口角を上げただけだった。

「さあ、働き詰めじゃ体が持たない。休憩にするよ」

ウズメに連れられ、灰はコンコースの一角にある休憩スペースへ移動した。

ドラム缶の焚き火を囲み、配給された缶詰を開ける。

中身は正体不明の肉だったが、空腹の灰には極上のステーキに思えた。

味は、腹が減っていたせいか一番好きだった豚肉の味がした…この謎肉いける!

「で、どうする? カイ」

ウズメが神機スマホの画面をタップしながら尋ねてきた。

画面には、名古屋駅周辺の3Dマップが表示されている。

「ここを拠点にするなら、もっと安全地帯セーフティ・エリアを広げなきゃならない。今のままだと、いつ奥から『デカいの』が湧いてくるか分からないからね」

彼女が指差したのは、駅の地下へと続く階段部分。

マップ上では真っ黒に塗りつぶされている**「未探索エリア」**だ。

「地下街……か」

「ああ。名古屋の地下は迷宮ダンジョン化してる。でも、そこを制圧できれば、もっと多くの人が住めるし、資材も手に入る」

灰は缶詰を置き、立ち上がった。

腹は満たされた。失っていた自信も、少しだけ取り戻した。

なら、やるべきことは一つだ。

「行こう。俺の『火』がどこまで通用するか、試してみたい」

「ハッ、言うようになったねえ!」

ウズメは嬉しそうに鈴を鳴らし、立ち上がった。

「よし、ちょいと肝試しといこうか。奥のシャッター街あたりを調査するよ」

地下への階段を降りると、空気は一変した。

湿気と、カビと、そして濃厚な「死」の匂い。

ウズメが踊るように指を鳴らすと、彼女の周囲に小さな光の玉が浮かび、ランタン代わりに辺りを照らす。

「気をつけな。この辺りは『はぐれ悪魔』の通り道だ」

慎重に進む。

壁には無数の爪痕が刻まれ、床には乾いた血痕が黒くこびりついている。

灰は拳に熱を集め、いつでも『火』を放てるよう構えていた。

だが、妙だった。

静かすぎる。

魔物の唸り声も、気配すらもしない。

「……おい、ウズメ。何か変じゃないか?」

「ああ。私の『反響定位ソナー』にも反応がない。まるで、誰かが掃除した後みたいに……」

その時、角を曲がった先で、二人は足を止めた。

そこには、想像していた戦闘バトルではなく、一方的な**「処刑」**の跡があった。

「なんだ、これ……」

通路の中央に、巨大な魔物が転がっていた。

全身が岩石でできたオーガのような怪物だ。灰がまともに戦えば、苦戦は免れない相手だろう。

だが、その怪物は死んでいた。

それも、ただ死んでいるのではない。

バラバラだった。

頭、胴体、腕、足。

まるで積み木を崩したように、切断面が地面に散らばっている。

灰は思わず息を呑み、その断面に近づいた。

(焼けてない……叩き潰されてもいない)

切断面は、恐ろしいほど滑らかだった。

鏡のように磨き上げられ、血管の一本一本までが、スパッと寸分の狂いもなく断ち切られている。

血さえ流れていない。

斬られたことに気づかず、細胞が活動を停止しているような、神業の斬撃。

「……真空のエア・ブレードか」

ウズメが低い声で呟いた。彼女の表情から、いつもの余裕が消えている。

「カイ、離れな。これは魔物の仕業じゃない」

彼女は周囲の闇を睨みつけ、警告するように言った。

その声には、明らかな警戒の色が滲んでいた。

「ここには、私たち以外の**『誰か(イレギュラー)』**がいる」

灰はゴクリと喉を鳴らした。

熱き炎の拳を持つ自分。

だが、目の前の死体を作ったのは、熱も痛みも置き去りにする、冷徹で圧倒的な「速さ」だ。

背筋に、冷たいものが走るのを感じた。

この名古屋には、まだ見ぬ怪物が潜んでいる。


場所の良くわからない暗闇の中、恐ろしく断面の綺麗なバラバラ死体、いるかも知れない怪物、肝試し…良く言ったものだ。

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