日本転生― Sphere Japan ―序章
今後ともヨロシク
序章:球体日本
空を見上げると、そこには大地がある。
かつて青空と呼ばれた場所には、今、逆さまになった廃墟のビル群が張り付き、錆びついた鉄塔が雲を突き刺している。
地平線は緩やかにカーブを描き、そのまま頭上へと競り上がって、空を一周していた。
あの日、日本は地球から引き剥がされ、ひとつの「球」になった。
北の天頂には、人工太陽が照らす管理された楽園、京都。
南の底には、重力とヘドロに沈んだ魔界、出雲。
そして中央には、鉄と蒸気が唸りを上げる機械都市、東京。
47の都道府県はバラバラに砕かれ、無理やり継ぎ接ぎされて、この歪な球体を作り上げている。
人口は4分の1に激減し、紙幣はただの紙くずとなり、命の値段は「縁」と呼ばれる硬貨一枚に変わった。
ここは、逃げ場のない空中の箱庭。
神と悪魔と人間が、互いの領土を奪い合う、終わらない戦争の檻。
それから、3年の月日が流れた――。
***
かつて愛知と呼ばれた場所。
今はどの勢力にも属さない、無法の荒野。
崩れ落ちた大学病院の地下深く、瓦礫と鉄骨が幾重にも重なる暗闇の中に、その「繭」はあった。
青白い炎で織り上げられた、高熱の繭。
周囲の瓦礫はドロドロに溶け、冷えて固まり、ガラスのようなドームを形成している。
その中心で、止まっていた心臓が、ドクンと跳ねた。
熱い。
血管を流れるのは血ではない。溶岩のような熱だ。
3年間の眠りから、依代が再起動する。
ジュッ……。
繭に亀裂が入る。
隙間から漏れ出した青い光が、闇を切り裂いた。
硝子の心臓と、鋼の肉体。
全てを焼き尽くす「神の炎」を宿した少年が、ゆっくりと瞼を開く。
「……ここは」
掠れた声とともに、彼――**榊 灰**が息を吐くと、その吐息すらもチロチロと青く燃え上がった。
世界の形が変わってしまったことなど、まだ何も知らない。
ただ一つ、強烈な喉の渇きと、燻るような「怒り」だけを抱いて、最後の希望が目を覚ました。
(序章・完)




