表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き笑いの奴隷拳闘士 ~殺しを禁じた戦士による世界一幸福な復讐劇~  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話

 自然に囲まれた小さな村。

 赤髪の少年リアムは籠一杯に木のみを抱え、道を走っていた。


「とうさん、かあさん!」


 小屋の前で手を振る家族。

 そこへ向かう途中。

 馬の嘶きが響き渡る。


 リアムはそちらを見る。

 里の入口に、重厚な鎧を身に纏った騎士が五十程馬に乗った姿を見せていた。


 その十分後。村は炎によって焼き払われる。

 リアムの父を含め、騎士の命令に背いた者はその場で殺された。

 また抵抗の意志を見せなかった者は騎士達に拘束され、荷物用の馬車に詰め込まれて輸送される事となった。



***



 太陽の国、ソルディーヌ。

 戦の国としても知られる大国。その辺境の地で息を顰めて暮らす少数民族がいた。

 剣と魔法が存在する世界の歴史で、その優れた身体能力と武術だけで敵を圧倒したとされる戦闘民、その末裔。

 フィリースと呼ばれる民族はその能力を狩りなど、家族や同志の生活の為に活用していた。

 しかしフィリースの里はある日、武装した騎士達に攻め込まれ、抵抗した者は殺され、生き残った者達は囚われてしまった。


 フィリースの捕獲を命じたのはソルディーヌ現国王。

 戦と賭け事を好む彼はフィリースと凡人では倒せないような獰猛な野獣を戦わせることでより白熱した試合を観戦できると考えた。


 生き残ったフィリースは奴隷の印である入れ墨を入れられ、特殊な術を施され、世界一の闘技場で恐ろしい魔物と戦う使命を負わされた。

 闘技場へ詰め込まれた一週間の内に、三十人いた拳闘士は二十人にまで減っていた。


 一般人では剣や魔法ですら苦戦するレベルの魔物の相手を強いられるのだ。当然の事であった。



***



 闘技場に設けられた地下牢。

 食事すらまともに取れない空間でリアムは寒さに耐え、小さく丸まっていた。


 鉄格子を隔てた先では騎士が何かを話し、リアムの母や彼女の友人が何かを懇願している。

 しかしまともに取り合っては貰えず、リアムの母はその場に泣き崩れる。


「……かあさん」


 リアムは母に近づき、彼女の涙を拭う。


「どうしたの? どこかいたいの?」

「ッ、リアム……!」


 母はリアムを強く抱き寄せ、泣きじゃくった。

 我が子の小さな頭を何度も撫でる手は優しさと共にやるせない悲しみを抱えていた。


「ごめんね……母さんが弱かったせいで。ごめんね」


 まだ六歳だったリアムは母が何故泣いているのか、謝っているのかもよくわからなかった。




 夜。リアムは言い争う声で目を覚ます。

 母と他の大人達が何かを言い争っていた。


「自分の子だぞッ!? アンタ、何してるんだ!」

「だって! このまま明日を迎えてもあの子はあっという間に死んでしまう! だったら今! 何も知らないまま眠らせてあげる方がきっと幸せよ!」


 リアムの頭は未だ上手く働いておらず、うつらうつらとしていた。

 ぼんやりとしている彼から離れた場所で大人達は黙りこくっていた。

 母のすすり泣く声だけが静かに響いていた。


「あの……さ」


 沈黙の中、一人の女性がおずおずと手を上げる。


「正直な話、こんな事になっても生きたいって思ってる人、どれだけいるワケ?」

「アンタまでそんな事を……ッ」

「違うって。とにかくまずは、私の質問に答えて欲しい。正直に」


 若い男が咎める声を女性は遮り、仲間達を見回す。

 誰も手を上げなかった。


「それが答えでいいんだな」


 女性は溜息を吐く。


「なら、思ったより話は簡単だ。足掻いてやればいい」


 声が潜められた。

 女性は鉄格子の先に見張りがいないことを確認してから続ける。


「アタシたちは誇り高いフィリースだ。肝心な時に戦わず、子供を売り渡すような部族じゃない。戦いが娯楽になり得ない事も分かっている。なら……その誇りを背負って、決断をすべきだ」

「……足掻くったって、全員で逃げ切るなんて不可能だぞ。全滅の可能性だって大いにある」

「わかってる。だからさっき聞いたんだろ? あの子を連れてここを離れる。それがどうしても難しいってわかった時は……」


 女性は話しながらリアムへ視線を送る。そしてそこで漸く、彼が目を覚ましたことに気付いたらしい。

 彼女は驚いたように目を丸くした後、リアムへ近づくとその頬を優しく撫でた。


「……良い夢を見せてやればいい」



***



 地下牢を見回る騎士がリアム達のいる部屋の前を通り過ぎる。


「なぁ、薬をくれないか。彼女が苦しそうなんだ」


 先程話の主導権を握っていた女性が騎士へ声を掛ける。

 女性の傍ではリアムの母が腹を抱えて蹲っていた。


「ああ……? 奴隷に寄越す薬なんてある訳ねーだろ」

「ならせめて様子だけでも見てやってくれ。感染症何かだったらアタシたちは漏れなく使い物にならなくなる」

「ッ、チ……面倒だな。おいお前、前に出ろ」


 鉄格子を開けなかったのはフィリースの武力を警戒してのことだろう。

 その警戒心は正しかったと言える。正しくなかったのは――

 ――鉄格子を開けなければ問題ないと思い込んだ事だった。


 騎士の前に出たリアムの母は次の瞬間、眼光を鋭く光らせて騎士の首に手を伸ばす。


「ギッ……ガァッ」


 片手で相手の首を掴んだ母はそのまま力を籠め、男の首を容易く握り潰した。

 肉が潰れる音と骨が粉砕する音が同時に響き渡る。


 あっという間に息絶えた騎士。

 その様子を確認した母は息を吐くと鉄格子の傍にそれを転がし、服をまさぐった。


 そして鍵束を見つけ出すとそれを女性へと渡す。


「よくやった」


 女性は器用に鉄格子の鍵を開けると仲間達へ目配せをする。


「行こう」


 視界を隠すように男性に抱き上げられていたリアムは何が起きたのかもわからず、大人達と共に地下牢を飛び出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ