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戲れ

〈メイデイの夏の薫りや(とき)の聲 涙次〉



【ⅰ】


 結城輪(ゆうき・りん)は、都内某處にある寄宿制髙校の2年生、17歳であつた。

 小學生と覺しき、或る少年に思ひを抱いてゐた。少年の名は分からない。

 車椅子に乘つてゐる。儚げな美貌。いつも膝に、フェレットのやうに見える小動物を載せて、少女と連れ立つてゐる。クラスメイトだらうか。

 輪には、美少年と戲れの戀がしてみたい、と云ふ願望があつた。寄宿舎で同室の同級生は、がさつで醜男(ぶをとこ)で、彼の趣味には合はない。

 少女が邪魔だな。彼らは戀人同士なのか。まだ稚なさが殘る顔- きつと淡い戀をしてゐる、彼らが羨ましかつた。じゆくじゆくに深い戀、と云ふのは、行き過ぎなやうな氣がする。「淡い」-仄かな戀心、と云ふのが、いゝ。

 さて、車椅子の少年、と云ふのは、田咲光流であり、連れ立つ少女が、杵塚由香梨であるのは、説明を俟たないであらう。輪の存在は勿論彼らは知らない。



【ⅱ】


 魔界壊滅の煽りを食らつて「はぐれ【魔】」化した【魔】たちの中に、*「魂コレクター」と云ふ者がゐた。じろさんに、「此井殺法」を仕掛けられ、全身の関節を外されて以來、なりを潜めてゐたが、これも「はぐれ【魔】」に、「接骨醫」と呼ばれる奴がゐた(柔道の試合中「蟹挾み」で落命した男の靈である)ので、彼に治して貰ひ、復活したのだ。女装趣味、スカした、魂の蒐集者。今では何を収入源としてゐるかは不明だが、人間界のマンションに棲んでゐる。そこに、ホルマリン漬けにした人間の魂である、彼のコレクションが置かれてゐる。


 彼は、輪の事を調べ上げてゐた。光流と云ふ少年に片戀してゐる。美少年好きは、「コレクター」も同好の士、である。早速、心が隙だらけの、輪の魂を盗んできた。



* 当該シリーズ第43話參照。



【ⅲ】


 同室の同級生が聲をかけても、輪の反應はない。授業にも出席しない。それでも、(病氣なのかな)程度で、野球に打ち込んでゐるルームメイトは、特に彼の異常を、スクールドクターや、舎監に訴える事はなかつた。


 で、「魂コレクター」は、お節介な事に、裸の魂同士として、輪と光流を添ひ遂げさせてやらう、としてゐる。次は光流の魂だ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈噎せ返る心要らぬと少年は淡き戀した年下の子に 平手みき〉



【ⅳ】


 だが、「コレクター」は、光流の事は特にリサーチしなかつた。それは彼の失態である。調べれば、光流のガールフレンドに、由香梨、カンテラ一味處縁(ゆかり)の者がゐる事は、すぐに分かつた筈だ。「コレクター」は、戲れが嵩じて、盲目になつてゐたのである。


 由香梨が登校しやうと、光流の家まで迎へに(最近は杵柄のバイクにタンデム、と云ふ事は已めてゐた。勿論、光流と同道する為である)行くと、母・節が「少し調子崩してゐるみたいなのよ。また今度ね」、と云ふ。由香梨は、「風邪?」と思つたが、それならよくある事で、一人で學校に向かつた。


 しかし、何日間も、光流は出て來ない。「もしかして、わたしの事、嫌ひになつたのかしら」由香梨は焦つてしまつた。だが、その事を杵塚に相談(色の道では、彼女の大先達なのだ・笑)すると、「それ、何か聞いた事あるな。【魔】ぢやないか?」との返事。急ぎ、じろさんに由香梨は打ち明けた。



【ⅴ】


 じろさん、由香梨に案内されて、光流の家まで行つた。節に問ひ質すと、「もう何日も魂が拔けたみたいに... 食事も摂らないんですよ」-「何故、私たちに相談してくれないのです? まんざら知らない仲ではないでせう!」じろさん、節を叱り付けた。


「全く、最近の親は... 子供を一體、何だと思つてる」帰り道、じろさんは怒り心頭である。「光流くん、だうしちやつたの、じろをぢさん」-「【魔】に魂を拔き盗られたんだ。『魂コレクター』だよ」



【ⅵ】


 テオ「僕が『コレクター』の居場處、確かめてみます。『ぴゆうちやん』に訊けば、分かるかも」-

「ぴゆうちやん」はテレパシーで(たづ)ねられ、「僕ニ着イテオイデヨ」。「魂コレクター」のマンションまで、じろさん、由香梨を連れて行つた。


「久し振りだな、『魂コレクター』よ。あんた惡ふざけもいゝ加減にしろよな」-「げ、此井!!」


「戀する氣持ちが分かるなら、わたしのやつた事の意味も分かる筈」-「邪戀だぞ、そんなの」押し問答も早々に、今度はじろさん、「コレクター」の頸椎を外した。これなら、どんな腕のいゝ「骨接ぎ」にも治せまい。


 光流と輪、その他の「コレクション」たちも解放された...



【ⅶ】


「僕が惡かつたのです。許して下さい。この通り」と頭を下げる輪ではあつたが、じろさん、彼の腕を一本、当分使へないやうにした。「このぐらゐのペナルティがあつて然るべきだ」-じろさん、立腹がまだ収まらない。


「光流くんに嫌はれたらだうしやうかと思つたの」由香梨は心底、それを懼れてゐたのである。淡い戀、などは、他人の勝手な想像の中にしか、あり得ない。本人たちは、必死で戀してゐるのだ。じろさんにはそれがよく分かるのだ。


 さあ、ゴールデンウィークだ!! と云つても、カンテラ一味の辞書には、連休と云ふ言葉はない・笑。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈燦爛と光る明日は夏暦 涙次〉



 と云ふ譯で、今回のキイマン(?)は「ぴゆうちやん」でした。因みに謝礼金は、解放された魂の持ち主の親族から入つてきた、のは云ふ迄もない。お仕舞ひ。



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