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二人の過去改変者のいい未来の奪い合い

月島さんのおかげと過去改変ニチャァざまぁを傍から見た場合の着想で作ってみました

あなたはイチロウとジロウ、どっちに共感します?


 あ、ありのままに起こった事を話すぜ。

 俺の名は英沢イチロウ、イケメンで大学卒業後は上昇企業に就職して結果を出して昇進、美人な嫁さんと可愛い息子を持つ順調な人生を歩んでいたはずだったんだ。


 だが、ある日空間が揺らいだと思った次の瞬間、俺は生活保護区にいた。

 身に覚えのないボロ服を着ていてどうなっているんだ?と困惑したさ。

 ドッキリかと思って家に戻ると驚くことに家の名札が微島になっていた。


 玄関が開いて中から家族が出てくる。

 一人は俺の嫁、アナコだ。

 もう一人はブサイクなオーク体系の男、そして最後にそいつに似た息子だった。

 3人はまるで夫婦のように仲睦まじくハグしあっている。

 おいおい、何の冗談だよアナコ。

 俺というものがありながら……


 ドッキリだとしても胸糞悪い。

 俺は家の庭に入り、オーク男に文句を言う。


「おい、あんたここは俺の家だぞ、なにやっている」


「は? 何を突然言っているんですか? 新手の嫌がらせなら止めてください」


「とぼけるな。アナコ、お前もお前だ、こんな男相手に何の冗談をやっている? 脅されているならそれこそ警察に行こう」


「え、なんで私の名前知っているの? ストーカー」


 アナコの表情は騙すにしては迫真のもので俺を本気で知らぬ男のように怯えてい見ている。


「っ、いい加減にしろ。ジュウイチはどうなった?」


「ジュウイチ? 誰それ」


「俺たちの子供だよ」


「ちょっと待ってください、何を訳の分からないことを。私あなたとなんて今日初めてあったばかりで。ジロウさん、信じて。私はあなただけとしか……」


「ああ、信じているよ。アナコは俺だけの女だ。これ以上は本当に警察を呼びますよ」


「呼んでみろ! 詐欺師め。どうやってアナコを洗脳した?」


 俺は激高しオーク男を殴ろうとした。

 だがそいつは体系に見合わぬ俊敏さで回避し俺を突き飛ばす。


「くそっ」

 俺は立ち上がりふたたびオーク男に襲い掛かろうとする。

 しかしその直前に後ろから駆け付けた警察に取り押さえられる。


「そこまでだ、住居不法侵入と暴行未遂の現行犯で逮捕する」


「な、なんでだ、俺の家なのに、俺の妻なのに、うわあああああ!」


 俺は悲痛な叫びをあげた。

 するとオーク男はニチャァとした表情をして俺を見下していた。


「はっ!」



 ……留置所に入れられた俺はそこで状況を整理することにする。


 取り調べの際に何度も刑事には自分の事情を説明した。

 しかしあの家は元々、微島ジロウの持ち物で、俺は底辺の生活保護受給者という記録で間違いないそうだ。

 そのことから俺は他人の人生を自分のものだと錯覚した精神障害の可能性があると判断されてしまうことになった。


「あのニチャァっとした表情、あのオーク男、間違いなく俺のことを知っている。あいつが何かして俺の立場を奪いやがった! くそ、ドッキリじゃないとしたらなんなんだ? 洗脳や記録改竄、そんな力があるってのか」


 それから俺は精神障害者扱いで治療を受けたのちに釈放される。

 すぐに家に戻ってどうにかしたかった。

 だが、同じ結果になるだけだ。

 だからまずオーク男の素性について調べることにした。


 微島ジロウ、俺と同じ29歳で高校大学も同じ出身、そして働いている会社や役職まで同じときた。


「ん、微島ジロウ……どこかで」


 そこで俺は高校生時代を思い返す。

 インキャキモオタのクラスで浮いていた奴がそんな名前で、そいつは「俺の知っている最近」では無敵の人として暴れてニュースで晒されていたんだった。


「……おいおい、笑えねぇよ。なんであいつが俺の立場に成り代わってんだよ。ふざけんなよ。アナコまで奪いやがって」


 それから友人周りにも聞き込み入れる。

 覚えはないが俺は大学で麻薬販売関係者だって扱いになって退学させられた。そしてそのまま落ちぶれて今に至るようだ。

 彼らの反応を見るに本当にそう認識している。


「つまり、未来が捻じ曲げられたってことか」


 答えに辿り付いた俺の前に翼から天使の羽が生えた白スーツの男が現れた。


「理解されたようですね」


「あんた何もんだ?」


「私は天使、神の使いにして邪悪を払う者」


「俺は邪悪だから消しに来たってことか?」


「いいえ、そうではなく邪悪を払うお手伝いをしていただきたい。我ら天使は神の使いとして現実に干渉するものの、その存在はできるだけ秘匿したい。ですからさらなる使いを必要とするのです。微島ジロウ、あやつは邪悪なる悪魔に踊らされた愚か者。このまま未来が固定されてしまえば世には愚か者が蔓延しやすくなるでしょう。だからこそあなたには未来を取り戻していただきたい。あるべき本来へと」


「SF染みた話は好きじゃないが実際に未来改竄を体験してしまっているんだから戻す方法もあるんだろうな」


「ええ、今からあなたを過去に送ります。そして過去を改竄しようとする微島ジロウの暗躍を阻止しながら本来の未来を辿ってください」


「分かった」


「では、ご武運を」


 意識が歪んで遠のていく……


     ◆


 ……目を覚ますと驚くことに高校生時代へと戻っていた。


「本当に戻った」


 肉体も若くなっているし高校の制服を着ている。間違いない。

 俺は本来の未来に繋がるようにできるだけ同じ生活をしつつ、暇な時間に微島タロウを校舎裏へと呼びつけた。


「な、何かな、こんなところに呼び出して」


 オーク体系だが仕草はザ・インキャって感じだな。

 キョドってるし、猫背で覇気もない。


「なに、そう難しい話じゃねぇ」


 俺はジロウを壁へと追いやって顔面の横に拳を打ち込む。


「ひっ」


「お前、大学は県外にしろ。就職先もだ」


「は? 意味が分からないよ」


「分からないでいいんだよ。ともかく俺に関わらないように逃げてりゃそれでいい」


 十分に脅しはかけた。

 これで未来も変わるだろう。

 俺は安堵して背を向けると背中に重量あるタックルをかまされて吹き飛ぶ。


「ぐはっ、お前まさかもう……」


「そういうお前こそ、まさか過去に来ているとはな」


 演技か、ジロウは未来で俺に見せたニチャァとした表情を見せつける。


「まあいい、これで聞きたかったことが聞ける。お前は悪魔に力を借りて過去に戻って俺の人生を狂わせた。間違いないな?」


「ああ、そうだ。アナコはいい女だったよ。流石お前が嫁に決めるだけあるな。それが俺だけの者にすり替わっている。クク、イケメンから女を奪えるのは最高だ」


「外道が、そんなんだからモテねぇんだよ」


「何を言ってる? 僕はモテたんだよ。だからアナコをプロポーズで落とせている」


「どんな卑怯な手を使った?」


「リサーチしまくっただけだ。努力の結果なんだよ」


「何が結果だ、本来の結果を受け入れられずに無敵の人になった奴がエラソーに」


「む、むむむ、無敵、それを言うなぁああああ!」


 ジロウは地雷を踏まれたのかまたタックルしてくる。

 勢いあるが単調なため俺は足を使ってひっかけ転ばせる。

 肉団子が砂煙あげながら地面を転がるのだから迫力あるもんだ。


「ぐふっ、僕は護らなきゃいけないんだ。未来の息子を、ニジュウジを。そのためにもお前をここで倒す」


「は? 護るだ? 俺の息子ジュウジを消し去っておいて。この人殺しが。やっぱお前は無敵の人だわ。自分が良ければそれでいいって他人の被害なんざ考えてない。クズ野郎だ」


「クズはお前だ、アナコを俺から奪いやがって」


「奪ってんのはお前だろ。どうせ遠くからアナコ眺めてシコって俺のもんだと思い込んでただけだろう」


「ち、違う。高校卒業してから働いて彼女と知り合いになったんだ。お前より先に。それで告白しようと思っていたらお前が先に手を出した。許さないぞ!」


「許さねぇのはこっちだ。お前がくたばれ」


 それから俺たちは決死の覚悟で本気の殴りあい続けた。

 やがてそれは他の生徒たちにバレて教師たちの介入によって止められてお互いに停学処分となったのであった。


 それから1週間後、俺たちは学校に呼び出されて相互謝罪と今後暴力を振るわない誓約書を書かされることになるのだが、当然納得などできるわけがない。

 しかしまた暴力の展開になれば退学になりかねない。

 だから俺は疑問が残っていたことを解消しようと問いかける。


「……なあ、なんで俺の記憶を保持させた? そうじゃなきゃお前は勝っていただろ」


「そんなことは分かっている。けれどそれじゃお前に勝っているって照明ができないだろ。お前が惨めに悔しい思いをしている顔を見たかったからお前の記憶だけは残すように悪魔に依頼したんだ」


「ガチで腐ってんな。インキャは根絶やしでいいだろ」


「ぐっ、お前のそういうところが気に食わないんだよ。イケメンだからって上から見下ろしやがって」

「そりゃ見下ろすだろ。考え方が陰湿なんだよ」


「自分が正しいなんて押し付けるな」


 いがみ合いになると、校長が険しい顔で止めるように促してきたため従う。


「……」


「……」


「……はぁ、これからアナコの奪い合いでお前とずっとやりあうとか割に合わねぇ」


「それはこっちのセリフだ」


 好きな女を自分の元へ納めることは大事だ。

 だがそのためにこんなことをしていたら身が持たないのは互いに理解してしまった。

 その上で互いに関わらないようにするためには本末転倒だが「この選択」しかなかったのだろう……


     ◆


 10年後、俺は本来の未来に似た仕事に就いていた。

妻もいる。

 しかしそれはアナコではない別の女だ。

 だから当然、生まれた子供もジュウジではない。性別も違う女の子だ。


 ジロウもまた本来の未来に似た職業に就き、そして妻を持っていた。

 その妻もアナコではない別の女だ。


 そう、俺たちはアナコに互いに手を出さないことで互いにマシな幸せを得るという選択をしたのだ。


 どっちも幸せにすると誓っておきながら別の女を選ぶとは酷い男たちだろうな。

 だが、アナコなら別の男を見つけられるだろうし幸せになれないってこともないだろう。


 そうそう、天使からすればこの結果はそれはそれでいいとのことだ。

 愚か者の勝ちにはならなかったからな。

 いや、無敵の人からまともに働いて嫁さんがいるようになったんだから十分勝っているだろうと思うがそこは重要じゃないらしい。

 つまりジロウ自体が愚か者から脱却したということなんだろうが、あいつの内面がどう変わったかなんて俺には分かりようもない。


 まあ、過去の改竄バトルなんてやらないに尽きる。

 自分に都合がいい未来の奪い合いなんて決着つかなくて不毛だからな。

 SFで未来警察なんてもんがあるのはきっとそれが理由なんだろうな


 そこまで考えてみると確かに天使の言うようにこの結果でいいってのも分かる。

 自分の都合がいいように改変するのが正しいって肯定には繋がらなかったからな。

 つまり世界中にいる過去を変えようと思っている奴らに「変えて問題ない」と促せるような材料にはならなくなった。


 ったく、人生2度手間でやってられないぜ


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― 新着の感想 ―
アナコとその子どもが少しかわいそうではあるんだけど、 この世界だと「自分を取り合って退学寸前の喧嘩をやらかしたちょっとヤバい奴ら」なので関り合いにならなくて良かったのかもしれない
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