第21話 足りないピース
翌日。
「……昨日は、ひどい目にあいましたね」
「……まったくだ」
騎士団の詰所で、ラカンさんと並んでベンチに座る。私もラカンさんも、包帯や絆創膏だらけ。体中が痛む。
昨日、あのミミックから逃げる際に散々ぶつかったり、スライムを踏み潰して転んだり……とにかく大変だったのだ。
「それにしても……任務失敗ですね。ごめんなさい、足をひっぱっちゃいました」
ラカンさんに向かって頭を下げて謝る。
「いや、こっちこそだ。俺がついていながら、お前を怪我させて……悪かった」
ラカンさんも、私に向かって頭を下げる。お互い下を向いたまま、しばらく気まずい沈黙が続く。
「……でも、どうしましょうか、これから。騎士団内で仲間を募って、もう一度挑戦しますか?」
「それも考えてるが……実は気になることがあってな」
そう言うと、ラカンさんはポケットから何か小さな道具を取り出した。それは、見慣れない金属製の小さな棒だった。
「……何ですか、それ?」
「キーピックだ。例の部屋を調べてる時に、入り口の近くで見つけた」
「キーピック……? あぁ、宝箱を開ける時に使う道具ですね。でも、ダンジョンでなら落ちてても特に珍しくもない気がしますけど……」
首をかしげる私を見て、ラカンさんはキーピックの束につけられたプレートを指差した。
「これを見ろ」
「これって……あっ!」
プレートには、持ち主と思われる名前が刻まれていた。その名前は――まさに今回の被害者のものだ!
「こ、これって!?」
「ああ。まだ新しいし、錆びもない。ダンジョンに飲み込まれずに残っていたことから考えても、被害者が落としたもので間違いないだろう」
ラカンさんの言葉を聞きながら、私はキーピックを手に取り、じっと観察した。丁寧に手入れされているそれは、まだ温もりすら感じられるような気がする。けど――この持ち主はもう、昨日のミミックに襲われて……。
「――おかしいと思わないか?」
ラカンさんの問いに、私はハッと我に返った。
「え、な、何がですか?」
「これから宝を手に入れようと、仲間の静止まで振り切って部屋に入ってきた人間が、だ。大事な仕事道具を落として気づかないなんてことがあるか?」
「た、確かに……」
「特に初心者なら、宝箱を開ける前に道具を確認しろってのは口酸っぱく教わる基本だ」
ラカンさんのいうとおり、確かに何かおかしい。
「じゃあ、どうして……?」
「ダンジョンの中で、大事な仕事道具を落として気づかない状況なんて、限られるだろ。魔物との戦闘中か、あるいは……」
そう言ってラカンさんにじっと見つめられ、昨日のことを思い出した。
何を隠そう昨日、持って行った装備の半分以上を落として帰って来たのは、私だ。
「――何かから逃げているとき」
ラカンさん目をじっと見返す。
「そうだな。そして、もしそうだとすると辻褄が合わないことが出てくる。何でそんな状況の中、わざわざ宝箱にちょっかいを出して、ミミックに喰われるような真似をしたのか、だ」
「もしかして――箱の中に隠れようとしたんじゃ!」
我ながら鋭い推理だと思いラカンさんに視線を向けたけれど、小さく首を振られた。
「お前も見たろ、部屋の入り口にデカデカと書かれた『トラップルーム』の看板を。中にミミックがいる可能性は大だ。仮に隠れるにしても、昨日俺が見せたようにほんの少し観察すればミミックじゃない箱の1つくらいはすぐ見つけられる。その時間さえ惜しんで、一か八かで一番奥にあったミミックを選んで喰われるか?」
「そ、それは。よっぽど運が悪かったとしか……」
ダメだ。
何か重要な発見だったような気がするけれど、何かがまだ足りない。パズルのピースが揃っていないような感覚。
「……まあ、あくまでも推測に過ぎないがな。もしかしたら、ミミックに襲われたあと部屋の中を逃げ回って落とした可能性もある」
そういうと、ラカンさんはキーピック私に預けたままベンチから立ち上がった。
「あ、どこ行くんですか?」
「別の事件の調査だ」
「え、えぇ!? こっちの調査はどうするんですか!?」
「お前もこないだ言ってただろ。他にも仕事は山積みなんだ。ミミックが飲み込んだ物は、勝手にダンジョンに消えたりしない。こっちは手が空いたらまた部隊を整えて再調査に向かう。今回はここまでだ」
そう言うと、ラカンさんはそのまま詰所を出て行った。
私は一人、その背中を見送りながら、手の中に残るキーピックをじっと見つめていた――。




