表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

第19話 はじめてのダンジョン

「キャーー! ラカンさん! 今そこ、何か通りました!」


「うるせぇな。ただのラージラットだ。襲ってきやしねぇから、気にするな」


 ラカンさんは呆れた様子でそう言うけれど、私は今にも心臓が飛び出しそうだった。暗いダンジョンの中、外では見た事のない生物の往訪に、今にもパニックになりそうだ。


「いやぁーー!! でっかいクモが!!」


「クモくらい、詰所の倉庫にも出るだろうが」


 ラカンさんは私を置いて涼しい顔で先に進んでいく。背中に嫌な汗がじっとりと浮かぶのを我慢しながら、駆け足でラカンさんに追いつく。


「あ、あれ? ここ、さっきも通りませんでしたっけ?」


「んな訳ないだろ。ちょっとマップ見せてみろ」


 ラカンさんにマップを渡すと、すぐに顔をしかめた。


「……おまえ、なんだこのマッピングは!? なんで途中で進路が飛んでんだよ!」


「す、すみません……」


 私が描いたマップは、自分で見ても寝落ち寸前に書いた落書きのようにフニャフニャで、何が書いてあるか分からない。正直なところ、平常心を保つだけでも精一杯で、マッピングなんて途中から忘れていた。


 今日は早起きして、万全の準備をしてきたつもりだったのに……。緊張して寝不足だったのか、ずっとこんな調子でラカンさんの足を引っ張りっぱなしだ。


 今日は太陽よりも早起きをしてバッチリダンジョン探索の準備をしてきた……というか、緊張して眠れなかっただけなんだけど、とにかく予想通りというかさっきからラカンさんの足を引っ張りっぱなし。


 一方のラカンさんは、さすが騎士団のベテランというべきか、危なげなく私を連れてダンジョンを進んでいく。

 私とラカンさん二人だけでこの任務に行くと聞いたときは、さすがに不安だったけど――誰も止めなかった理由がよく分かる。途中で出てきたスライムやインプも、ラカンさんの見事な剣捌きの前では、まるで相手にならなかった。


「おい、そこ! 触るなよ、トラップだ」


「え、えっ!?」


 慌てて手を引こうとして、かえって壁にあった変な出っ張りを押してしまった。次の瞬間、どこからともなく弓矢が飛んできて、私はギリギリのところでラカンさんに腕を引っ張られる。もう少しで、お尻に矢が刺さるところだった。


「あ……ありがとう、ございます」


「ハァ……。どういたしまして」


 ラカンさんが本日何度目かの小さな溜め息をつく。


「そ、それにしても……私たち以外、誰もいませんね」


 辺りを見回すと、静まり返ったダンジョンだけが広がっている。

 初心者向けのダンジョンだと聞いていたから、もしかしたら他の冒険者に出会うこともあるかと思っていたけど、今のところ誰一人見かけない。


「まあ、あまり人気にんきのないダンジョンだからな」


「え? ダンジョンに人気とかあるんですか?」


 思わず聞き返すと、ラカンさんは呆れたような顔をしながらも、しっかり説明してくれた。


「お前な、それくらい知っておけよ。うちの街の近くじゃ、初心者向けならハジメテーノ草原の洞窟の方が圧倒的に人気だ。強い魔物はいないし、素材も集めやすい。それなりの財宝も手に入る。だが、このコナレータ神殿は、難易度が少し高い上に、これといって目立った収穫もない。だから、あんまり人が来ないんだ」


「それなら、あの冒険者たち、何でわざわざこんなところに来たんでしょう?」


「まあ、ライバルが少ない方がやりやすい、とかじゃないか」


 そう言いながら、ラカンさんは通路の先を指差した。


「ほら、そこの角を曲がったら、いよいよ件の部屋だ」


 ラカンさんの指示通り分岐路を曲がると、真っすぐな廊下が続いていた。先が見えないくらいに長い廊下を進むと、奥には下層へ続く階段が見える。

 そして、その階段の手前に、不自然な部屋がポツリと一つだけあった。


「ここだな」


「確かに、ここで間違いないみたいですけど……何ですか、これ?」


 その部屋のドアには、独特な色合いの金属製のプレートが掲げられている。そこにははっきりと「注意! トラップルーム」と書かれていた。


「見ての通りだ。ここも昔はもう少し人気のあったダンジョンでな、それなりに冒険者も来てたんだ。それで、このあからさまに怪しい部屋でやられる冒険者が多かったんで、こうやって警告を付けたんだ」


「こんな便利な看板があるんですね……」


 私が不思議に思ったのは、確かダンジョンというのは「生きて」いて、外から持ち込んだ道具は長くは置いておけないと聞いていたから。不思議な力で侵食されてすぐにダメになってしまから、案内板などは設置できないはずだけど――


「普通は無理だな」


「えっ? じゃあ、どうして……?」


「オーランドの特製アイテムだ。俺が頼んで作ってもらったんだ。何年も前の話だがな」


「あぁ、オーランドさんの……」


 そう返事をしながら、あの不思議で不愛想な道具屋の顔が、ふと脳裏に浮かんだ。事件以来、一度も顔を合わせてないけれど、どうしているのだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ