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第17話 形だけの救助要請

「――はい、書類はこれで大丈夫です。では確かに、ご依頼は騎士団でお受けいたします」


 依頼書にサインを済ませた私は、微妙な緊張感を感じつつ、机の向こう側にいる二人を見た。気の強そうな女性と、その隣に座る目つきの悪い男性。本人たちは新米の冒険者だと言っていたけれど、それにしては何だか……態度がキツイ。


「……それで、どれくらいで着手して貰えるんでしょうか?」


 男性が鋭い声でそう言うと、私は思わず視線を彷徨わせた。こういう質問には、いつも返答に困る。正直に答えてもいいのだけど、すぐに着手できるかといわれると……。


「え、えと、それは。他の案件との兼ね合いもありますので、厳密にお答えすることは――」


 私が言葉に詰まると、男性の目が、まるでこちらを睨みつけるように鋭さを増した。

 その威圧感に、つい目を逸らしてしまう。


「ちょっと! 後回しにする気じゃないわよね!?」 


 隣に座っていた女性が、追い打ちをかけるように机に身を乗り出して迫ってきた。その勢いに、思わず後ろへ仰け反る。


「そういうつもりじゃ……」


「じゃあどういうつもりよ! あなたたち騎士団は、市民のためとか言いながら、いっつも王宮や貴族優先じゃないの!?」


 その言葉に、一瞬だけ反論しようと口を開くが、勢いに圧倒されて上手く言葉が出ない。焦りながらもどうにか宥めようと試みる。


「そ、そんなことはありませんから。どうか落ち着いてください……」


 それでも、彼女の勢いは止まらない。むしろ、さらにエスカレートしているようだ。


「私たち冒険者だって、ちゃんと税金払ってるのよ! この税金泥棒! たまには私たち善良な一般人のことも――」


「――ですから、その善良な一般人の方々のご依頼を公平に、順に処理していますので。どうか大人しく待っていただけませんか?」


 突然、部屋のドアが開き、低く落ち着いた声が響いた。


「ラカンさん!」


 部屋に入ってきたラカンさんは、一瞬にして状況を把握したのか、やや鋭い視線で二人を静かに見据えて黙る。


「そ、そうはいっても……こっちも事態が事態なんです!」


 男は一瞬たじろぎながらも、ラカンさんに食い下がろうとするが……ラカンさんの静かな威圧感に、さっきまでの勢いは完全に失われていた。

 ラカンさんは少し間を置いた後、険しい表情を崩さないまま返事を返す。


「状況は理解できます。しかしですね、あなた方としても、罠にかかった仲間を置いて逃げ帰ってきたんでしょう? それを直ぐに助けにいけとは……冒険者界隈のことに関してはあまり詳しくありませんが、それではいささか身勝手ではないでしょうか?」


 ラカンさんは溜息をつき、頭をかきながら言った。


「だ、だって仕方ないじゃない! 私たちは何度も止めたのよ! なのに、あの子ったら宝に目が眩んで、無茶してトラップルームに突っ込んだんだから!」


 女性が声を荒げながら立ち上がって、ラカンさんに向かって食いかかる。自分達に非は無いとでも言いたいんだろうか。男性の方も、後ろめたい気持ちを隠しきれないようで、ついに立ち上がって抗議を始めた。


「俺たちだって必死に助けようとはしたんだ! でも……俺たちみたいな新米じゃ、《《アレ》》には勝てないって!」


 二人はラカンさんに向かって交互に言い訳を並べたてる。私は勢いに少し圧倒されながら、その場を静かに見守ることしかできなかった。


「……分かりました、分かりましたから。どこまでやれるかは分かりませんが、明日、私が直接現場に向かい様子を見て来ます。それで良いですか? お約束通り、手数料として、お仲間の持っていたという戦利品や装備は、騎士団で徴収させていただきますからね」


 ラカンさんが淡々と話すと、二人はホッとしたように頷いた。


「ああ、それで構わない」


「その代わり。こっちも約束通り"ネックレス"だけは譲ってちょうだいよ! あの子が大切にしていた形見だから。どうしても私たちが持っておきたいの」


 女性が真剣な表情で言う。

 この期に及んで"形見"とは……。救援要請を提出しておきながら、彼女たちも状況は理解しているという事だ。

 どうにも腑に落ちない気持ちになりならがらも、黙って話を聞いた。 ラカンさんも、少しだけ眉をひそめながらも、頷いて承諾する。


「了解です。……それでは、本日はもう遅いので、お引き取りください。後日、進展がありましたらこちらからご連絡差し上げます」


 その後、二人は不安そうな表情を浮かべながらも、ようやく部屋から出ていった。

 二人の後ろ姿を見送り終えると、ラカンさんが私に目を向ける。


「――エレナ。お前はもう少し騎士としての威厳を持て。いっぱしの冒険者に舐められるようじゃ、まだまだだぞ」


 その言葉に、思わず肩をすくめる。


「す、すみません……」


 私が俯くのを見て、ラカンさんはもう一度、深いため息をついた。

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