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第16話 箱の底に消えた命の灯

「――ハァ、ハァ!」


 暗闇の中、少女の荒い息遣いがダンジョンの静寂を切り裂いていた。

 うす暗い通路は不気味に湿った空気を纏い、足元の石畳に何度も足を滑らせそうになる。

 それでも彼女は、足を止める事なく必死に走り続けた。


 後ろを一瞬だけ振り返り誰も追ってこないことを確認すると、近くの曲がり角に身を潜め気配を殺して辺りを伺う。

 胸が激しく上下し、まるで心臓が飛び出してしまいそうだ。


「――ハァ、ハァ。まさか、こんなことになるなんて……」


 息を整えようとしながらも、少女は悔しそうに歯を食いしばった。


「お父さん、お母さん、ごめんなさい。私が……バカだった……!」


 涙声で呟き、首にかけていたネックレスを握りしめる。その冷たい感触だけが、今の彼女にとって唯一の拠り所だ。


 だがそのとき――遠くから聞こえてくる足音が彼女の耳に届いた。

 慌ただしく、重い足音。

 焦りに駆られ、彼女は再び駆け出す。


「――ッ!」


 いくつもの曲がり角を越え、少女はやがてまっすぐな廊下に出た。その暗がりの先に見えるのは――下層に続く階段。


「……しまった、この先は……!」


 戸惑い足を止める少女だったが、背後からはなおも近づく足音が迫っている。


「他に……道は」


 焦りに駆られた彼女の目が、ふと、通路の脇にある小部屋を見つけた。


 少女は考える間も無く部屋に飛び込むと、勢いよくドアを閉める。その際に、腰のポーチから溢れた道具がいくつか床に散らばったが、もはやそんな事を気にしている余裕も無い。

 外からの音がいくらか遮断されると、周囲の静寂が彼女を包み込み、鼓動が胸を締め付けるように速くなっていくのが分かった。


「ど、どこかに……隠れないと……」


 息を殺し、辺りを見回す。

 薄暗い部屋の中、目に入るのは壊れた家具や、ダンジョンにありがちな装飾品の数々。そんな中、彼女の目が捉えたのは――部屋の隅に置かれた、一際大きな箱だった。


「こ、これなら……」


 大きな箱の前に立ち、さっと覗き込む。

 箱の中は空っぽ。人ひとりがすっぽりと入るほどの広さだった。少女は一瞬ためらいながらも、全身をその中へと滑り込ませる。


「お願い……」


 蓋をそっと閉じながら、彼女は誰に向けるでもなく、祈るように呟いた。心臓の鼓動がますます速く、そして大きくなる。静寂の中、その鼓動だけが耳の奥で反響しているように感じた。


 部屋は不気味に静まり返り、耳が痛くなる程の静寂が辺りを包む。すぐ後ろまで迫っていたはずの足音も、どこへ行ったのか聞こえては来ない。

 少女は息を潜めたまま、箱の中で微動だにせず、必死に耳を澄ました。


(……撒けた……の?)


 彼女の心の中に、一瞬だけ希望がよぎる。


(よ、よかった。後はタイミングを見計らって、見つからないように入り口まで引き返せば……)


 そんな考えが頭をかすめた、その時――


『ギ……ギギギ……』


 耳元で響いた、異様な音。

 まるで何かが蠢くようなかすれた呻き声に、彼女は思わず体を硬直させた。


「――え?」


 そして、次の瞬間――箱が、大きく揺れた。


「な、なに……!?」


 身体が強制的に押し上げられるような感覚。

 箱全体がガタガタと小刻みに動き出し、その不気味な挙動に少女はパニックに陥る。


「え、ちょっと……」


 慌てて蓋を開けようとするが――開かない。それどころか、触れた蓋から伝わってくる生暖かく、柔らかな――まるで、何か生き物のような感触……。


「まさか……! 嘘、でしょ……!?」


 心の中に、最悪のシナリオが浮かび上がる。


「え、無理だって。い……いや――ッ!」


 時すでに遅し――。

 少女の悲鳴は、虚しくダンジョンの闇に吸い込まれていく。

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