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大学ノート

「うわー、うめーーー」

「だな。これは当たりだ」


 あっちゃんと僕は顔を見合わせて頷く。


 僕は再びストローを勢いよく吸う。シャリシャリの氷が口の中に入ってきたと思ったら、マンゴーの甘さが口一杯に広がる。飲み込む度に、昼間陽の光を沢山浴びてほてった体が嬉しいって言っている。

 あっちゃんが一番大きいやつを買ってくれたから、残りを気にせずにこの幸せを十分楽しめる。

 もう限界、喉が痛い。ってなったところで僕はプハーと息を吐く。少し成長した自分へのご褒美として、大人の人がビールを飲んだ後にするやつを少し真似をした。

 横に座っている朱音ちゃんが、それを見て驚いた顔をした後にニコッと笑った。


 近くにある木の葉がカサカサと音を立てると、さーっと気持ちい風が吹いた。遠くに見える家や街灯の光がキラキラしている。

 僕達は、僕の住む街を見下ろしながら、三人並んで座っている。


 みんなの飲み物を買うためにお店の駐車場に着くと、「店で飲むのも味気ねえし、最近あそこに行ってねえから、久しぶりに行ってみる?」ってあっちゃんが朱音ちゃんに言ったら、「いいね!そうしよう!!」って朱音ちゃんは嬉しそうに答えた。


 ここは二人の秘密の場所らしい。


 後から知ったことだけれど、あっちゃんが夜遅くに帰って来た時は、ここにいる事が多かったらしい。朱音ちゃんからその時の会話をこっそり教えてもらったけれど、耳が赤くなった。

 実はあっちゃんてロマンチストなんだって。でも、これは朱音ちゃんと僕だけの内緒話。


「朱音ちゃんのはどう?」

「こっちのも美味しいよ」


 朱音ちゃんは、マンゴティーを注文した。


「紅茶が好きなんて、朱音ちゃんはすごいね」

「紅茶好きってすごいのかな?」

「すごいよ。だって紅茶って渋くって口の中が辺になるんだもん」

「そうだな、子供には分からねえ味かもな」

「またそうやってバカにする」


 僕はあっちゃんから顔を背けると、朱音ちゃんと目が合った。


「いつまでも子供扱いしないでよねー。今日なんてかっこいいお兄ちゃんだったよね」


 うん、と僕が頷くと、今度はあっちゃんが「けっ」て言いながら反対を向いた。

 僕は朱音ちゃんに向かって歯を見せる様に笑うと、朱音ちゃんは肩を竦めて笑い返してくれた。


 朱音ちゃんはいつだって優しい。

 虫嫌いだってことを忘れてカブトムシ捕りの成果を自慢したのに、楽しそうに相槌を打ってくれた。

 日和のなりたい女性ランキングだと、堂々の一位を獲得している。


 それから、あっちゃんがいつものように冗談を言って僕達を笑わせた。


 兄弟の中で一番虫捕りが上手かったのは父ちゃんらしい。秘伝の書に書かれているやり方は、ほとんど父ちゃんが考えたみたいだ。それを教わった二番目のおじちゃんが弟達に教えるために秘伝の書を作って、それに自然遊びが得意な三番目のおじちゃんとあっちゃんが書き加えていったみたい。

 虫取りや水切りの極意、父ちゃんの父ちゃんに怒られない方法。「この世の全てが記されている。それこそが秘伝の書」あっちゃんは自慢気に語っていた。


 僕は頷くだけだったけれど、思い出話はどれもすごく面白かった。ミミズにおしっこをかけた話は、少し下品だったけれど。


「蝉にカブトをいったら次はトンボだな」


 帰りの車の中で次に手に入れる財宝の相談をすると、答えてくれた。


「そろそろトンボが山から降りてくる時期だから、田んぼとか池の近くを飛び回ると思うぞ」

「トンボかぁー」


 秘伝の書の中にトンボのページがあったのを思い出す。次のターゲットはトンボに決めた。

 あっちゃんは、トンボについても色々と教えてくれた。最後に「まあ、こんなもんだな」って言って話を終わらせた。その横顔を少しの間眺めてから、使い古されてセロハンテープで補修されているノートを見る。


 間違いなくこれは、『それを手に入れたら世界を手にしたと同じ事になる』漫画の世界だったら間違いなくそう呼ばれる代物だ。

 それが今、僕の手元にある。


 被っていた帽子をダッシュボードの上に置いて、朱音ちゃんから麦わら帽子を借りて被ってみた。これで気分は海賊船の船長だ。

 友達を誘ってどんどん外に遊びに行きたい。僕の心はうずうずしている。


 心配はいらない、新しい冒険のやり方はここに書いてある。どこからかそう聞こえた気がした。


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