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遊ぶってのも難しい

「なんだ、誰もいねえ」


 小学校に着くと亮兄ちゃんは残念そうに言った。

 この時間ならば誰かしら遊んでいるかもしれない。そう考えて僕を連れて来てくれたらしい。


「みんなに紹介するのはまた今度だ」

「うん」


 僕は曖昧に返事をする。

 少し残念なような、でもホッとしたような複雑な気分だ。


 小学校へ向かう途中で「この時間まで遊んでるヤツは面白い。家でゲームをするより外で遊んでるのが好きなヤツだから、お前とも気が合うはずだ」そう言われた。

 僕としてもせっかく岩手まで来たんだから、家でゲームをするより外で遊びたい。亮兄ちゃんの友達だと色々な遊びを知っていそうだから、遊び相手としては文句のつけようがない。でも僕より歳上になってしまう。

 従兄弟の陽平を連れて僕の友達と遊んだことはあるし、友達の親戚と一緒に遊んだこともある。そうなると、いつもは僕が知っている人の方が多い事になる。今回はその逆だ。

 明日遊ぶぞって言われたら気持ちの整理もつけやすい。どういう風にしたらいいか色々と考えられるし、相手がこんな感じだったらこうやろうなんて想定もできる。


 小学校に着くまでの短い時間では考えをまとめられずに、どういう態度で会えばいいか相談したら、「お前いちいちそんなことを考えてんの?」って笑われた。


「難しく考えずに適当でいいんだ、適当で。違う事が起きたらどうすんの?」


 あっちゃんに言われそうなことを亮兄ちゃんに言われた。


 確かにそうだなとは思うけれど、言われて直ぐにできるものでもないし、僕はそんなに器用じゃない。

 こんな気持ちのままだったから、ホッとしたって方が強いのかもしれない。


 誰か来ることを期待して二人でしばらく遊んだ。


 おいかっけこは亮兄ちゃんの足の速さに全然追いつかないから、一回やって諦めた。ブランコに乗ってどっちが遠くまで飛べるか競争したけれど、亮兄ちゃんの方が大きいからどうしても勝てない。遠くまで飛ぶんじゃなくて靴飛ばしに変えても、運良く勝てるのは亮兄ちゃんが失敗した時だけだ。


 校庭にある築山から滑り降りても、乾いた草の上ではスピードも出なくて全然面白くない。それならばと、でんぐり返しで転げ落ちるのは面白かったけれど、楽しさ以上に体へのダメージが大きすぎて何回もやれない。

 自分では制御できない予測不能の体の動きや天地がひっくり返ったようなドキドキ感と、頭や体へ蓄積される痛みとを比べたら段々と痛みの方が勝っていく。「さっきの動きは何だ!」と囃し立てる仲間の声で心が奮い立ち次もやる勇気が湧いてきて、友達がやるのを見ている時間があるからこそできる遊びだ。


 他にも新しい遊びを考えるけれど、二人だとどうしても上手くいかない。遊具以外に何もないだだっ広い空間では二人で遊ぶことは限られる。

 段々と僕達の熱は冷めていく。


「つまんね、帰るぞ」


 僕達は落ちてた木の枝を拾って背の高い雑草を切りながら、来た道を戻って行った。


 遠くからハンドルの前にカゴが付いている自転車に乗った男の子がこちらに近付いてきた。男の子の背丈と比べるとやや大きめな自転車を、体を揺すりながら器用に乗っている。


「おい、翔」


 男の子を亮兄ちゃんが引き止める。


「あ、亮君」

「お前、どこさ出んの?」

「佐々木のおんちゃんとこ。親戚が送ってきたもの分けてくれるってから取りさ行く」

「何だお使いか」


 亮兄ちゃんは遊び相手が見つかったと一瞬嬉しそうだったけれど、家の用事を任されていたためどうにもできないと諦めた様子だった。


「コイツ従兄弟の寛明。お前と同級生」

「寛明って言うの?」

「うん、よろしく」

「俺、翔平。どっから来た?」

「千葉の館山」

「千葉ってどこさ?」

「東京の隣」

「何だ、えーふりすんな、か」


 東京って聞いた途端に、興味を失ったように翔平君の態度が変わった。


 えーふりすんなって何だろ?


「東京の隣っていっても、僕の住むところは全然離れてるけどね」

「ふーん」


 さっきのは気のせいではないのは、この言い方からでも分かる。


「亮君、行くよ」

「んだばな」

「だば」


 翔平君はペダルに足を掛けもう一方の足で地面を何回か蹴ると、さっきと同じように器用に自転車を漕いて行ってしまった。


「なんか悪いことしたかな?」


 翔平君の態度が気になった僕は、亮兄ちゃんに聞いてみた。


「何もねぇ、気にすんな」


 そう言って亮兄ちゃんは歩き出した。

 気にするなと言われたけれど、あの態度は気になってしまう。

 胸にモヤモヤを抱えながら、僕も歩き出した。


「ただいまー」


 玄関に入ると、僕はたまらず鼻から大きく息を吸い込む。それと同時に急速にお腹が刺激される。

 美味しそうな匂いのお陰で、さっきのことなどどこかへ行ってしまった。


 二人して洗面所で手を洗う。


 亮兄ちゃんの後ろについて歩いて居間に向かう途中で台所を覗くと、テーブルの椅子に座りながらお母さん達と楽しげに会話している人の姿が目に入る。


 パッチリとした二重は年相応に垂れて、少しふっくらとした顔に優しげな皺が刻まれている。白髪のないフサフサした黒髪を頭の上で結っていて、長年農業に携わっていたから腰が曲がっているのが座っていても分かる。


「おばあちゃん、こんばんわ」


 岩手んばぁに会えて嬉しかったから、ついつい声が大きくなってしまった。

 ちょっとびっくりさせてしまったかもしれない。


「あんらヒロ君、おばんでがんす」


 よかった。岩手んばぁも嬉しそうだ。

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