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ストーブの温かさ

「釜石線て冬になるとストーブが焚かれるのもあるのよ」

「何それ!」


 お母さんの何気ない一言に、僕のレーダーが反応する。

 思い出袋をいそいそと整理する。


「こっちの冬は寒いでしょ?車内を温めるためにストーブを焚いて暖をとるのよ」

「本当に?」

「本当よ」


 聞き返してみたけれど、疑ってはいない。ここは別世界だ。

 僕の知識や常識なんて何の意味もない。


「ストーブ列車っていうので、PRもしてるくらいに有名なのよ」

「そうなの?」

「岩手のおばあちゃんが若い時には、ストーブでスルメを炙る人もいて、電車の中に入ると匂いが充満してたって笑い話で言ってたよ」

「本当?」


 実に面白い。


「本当よ。岩手についたら聞いてみるといいわ。それを肴にお酒を飲む人もいたりしてね。日常の風景の一つだったって」

「へー」


 列車にも面白い歴史があるんだなと思った。


「坊主、その話は本当だぞ」


 隣のボックス席に座っていた、顔を赤らめたお爺ちゃんに近いおじさんが話しかけてきた。


「ここいら辺はおんちゃんみたいな酒飲みが多くてよ、ストーブの周りに一升瓶を抱えた人が座ってたもんだ」

「そうみたいですね」


 お母さんが愛想よく答える。


「国鉄時代にはこんないい列車は走ってなくてよ。椅子も固くて背もたれもまっすぐでな、長く座ってると腰を痛めたもんだ」


 おじさんは調子良く話を続ける。


「どこどこの誰が酒に酔って喧嘩をしたって話をよく聞くもんだから、ガキん時は身体がしばれてストーブにあだりたくども、近くにいる人がおっかねから近寄れなかったんだ」

「お母さんが、「親戚のおじさんが酒に酔って車内でくだ巻いてるのをみたぞ」って同級生に揶揄われたって言ってました」

「酒癖の悪い奴は、今も昔もいたからな」


 おじさんは自分を指さした後に、少し薄くなったごま塩頭をひと撫でした。


「体もおがって周りの大人の事をおっかねぇて思わなくなったら、今度はストーブの近くさ、わざわざ寄ってったりしてな。そうすっと酔っ払いが「ほれ」って湯呑みを出すもんだから「すいません」って頭を下げてよ。酒を注いでもらうわけよ。俺もいける口だから、何回もそんな事をするうちに顔さ覚えてもらってよ。列車に乗る俺を見かけると、「こっちゃこい」って手招きしてくるほどに仲良くなってな。あの人達にはよぐしてもらったなぁ。家に帰ると酒臭いってお袋に怒られたけんどな」


 おじさんはワハハと笑った。


「スルメはそのまま炙るより酒にぺっこ漬けてな。反ってくるのを上からぎゅーって抑えんだ。釜石で獲れたヤリイカなんかを一夜干しにして炙るのもいいぞ。ぷくっとしてきたのを、あがふむずら口に放り込んでキュってやんだ」


 おじさんは人差し指と親指をCの形にすると、親指を唇に当てクイッと人差し指を立てた。


「しばれた身体に染み渡って。うんめぇぞー」


 クーっと声が聞こえてきそうな顔で目を瞑り、ゆっくりと手を下げる仕草を見ると、本当に美味しいんだろうなと思ってしまう。

 ビールのプハーに日本酒のクーッ。大人は謎の多い生き物だ。


「古き良き時代でしたね」

「ほんだな。今じゃいっちょめになるまえにやったら御上にごしゃがれっけどな」

「確かにそうですね」

「さて、おどげんのはこんぐれぇで、そろそろいがねばよ」


 おじさんは、よっこいせと立ち上がる。


「昔話として聞いておげよ。時効ってやづだ」


 そう言って宮守という駅で列車から降りて行った。


「面白い人はどこにでもいるね」

「う、うん」


 僕は呆気に取られていたけれど、お母さんは笑ってた。


 前に僕が待ちぼうけするぐらい長い時間、楽しそうに仲良くおしゃべりをしている人がいて、知り合いか聞いたら知らない人って答えて驚いたことがある。こうやって知らない人とすぐに仲良くなれるって、何かしらの能力者だと思う。


「昭和は豪気な人が沢山いたからね。それに、あの話はおじさんの冗談だから、おなたは真似しちゃダメよ。まあ、そんな人は今の時代いないと思うけどね」

「分かってる」

「日和は人懐っこいから心配だけど、その点について、ヒロは心配いらないか」


 僕が小首を傾げて紅茶を飲んだ時みたいな顔をする。

 その顔にお母さんはウィンクを返してきた。


 特殊能力だけじゃなくて、一言余計ってスキルも持っているみたいだ。


「もう少ししたら面白いものが見られるよ」


 列車が駅を出発すると、お母さんは僕の機嫌を取るようなことを言ってきた。

お詫び:方言については朧げのため、ネイティブの人に確認をとってもらっています。確認が取れ次第修正をさせていただきます。それまでは雰囲気でお読みいただければ幸いです。

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