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ブレないね、生レンレン





「おばーちゃーん。温泉卵!」


 

 ぽかり桟橋に迎えに来ていたばーちゃんに、京は温泉卵を掲げる。

 京の吹っ切れたような笑顔は、光の中で眩しいほど輝いている。

 ガキんちょはガキんちょらしく笑ってるのが1番。


 老婦人は、またまたオレたちにお土産をくれた。それは中華街の食事券。

 ねぎまは丁重に断っていたが、押し切られた。



「孫を保護してくださったこと、本当に感謝してもしきれません。

 誘拐や事件に巻き込まれてもおかしくなかった状況です。

 それを、こんなによくしていただいて。

 お食事をご馳走したいところなんですが、おばあちゃんと子供につき合わせるのも気が引けるので、こちら、皆さんで好きに使ってください」



 ってことで。

 マリーナに帰って休憩。

 とりあえず、いただいた食事券を山分け。



「増えちゃったね」

「いっぱい」



 ももしお×ねぎまが食事券をトランプの様に扇形に広げる。

 ももしお×ねぎま、ミナト、オレは様々な食事券を使う。多いのは大手チェーン店の株主優待の食事券。少ないお小遣いでやりくりする高校生の味方。

 中華街の食事券を片付けながら、ねぎまはスマホに画像を表示する。



「京くん、こんな風に見えるんだね。

 船から見上げた空は、こーんな感じ。

 で、温室は、こーんな感じ」



 1枚目の画像は、青い空。よく見ると、点々とオレンジ色の粒がある。粒に向けての矢印と「もっと小さい」の文字入り。

 2枚目の画像は、温室の画像がオレンジ色に塗りつぶされ、そのオレンジ色は炎が舞い上がるように周辺の上空をオレンジ色にしている。



「炎上してっじゃん」



 オレが言うと、ミナトは「この辺はなんか火の粉」と画像の空の部分を指した。

 注意書きあり。『後ろの景色ははっきり見える』



「京くん、言ってたよね。ホントはオレンジ色じゃなくって、収穫前の麦の色みたいに光ってるって」



 京から速攻、生レンレンに乗り換えたももしおが、スルメを齧りながら話す。口からはみ出たスルメの足がぴょこぴょこと動いている。


 3枚目の画像は、どこかから拝借した少女漫画のレンレンにオレンジ色がまとわりついている。霧吹きでぶっかけたかのようなオレンジ色加工。レンレンは炎上状態。というか、レンレンが燃えたままバスケしている感じ。これはこれで闘志に燃えて神がかったプレーをしているように見える。



 ぶぶー



 みんなで画像を覗き込んでいる最中に京からメッセージが届いた



「こっちで見るよ」



 メッセージが届いたのはオレが作った5人のグループトークルーム。ミナトは自分のスマホをタップした。



「車じゃん」



 メッセージと共に届いたのは、車の窓がオレンジで塗りつぶされた画像。ミナトはその画像を4人の真ん中に置いた。赤い車の中がオレンジ一色。

 少女漫画のレンレンは高校生の設定だが、生レンレンは成人していそう。車を運転できる歳。


 ももしおが興味本位で『生レンレンは何歳くらい?』と質問のメッセージを送ると、『大人です。大人の歳はよく分かりません。若い人とおじさんの間くらい』と返ってきた。



「小学生って、見た目で歳、分かんねーの?」



 オレがなんとなく発言すると、ももしおは教えてくれた。



「私、今も分かんない。若い人とおじさんの間ってのが、私には1番分かり易い」



 じゃ、聞くなよ。無駄な質問じゃん。



「25から35くらいなんじゃない?」



 ねぎまは具体的な数字を出してくれた。が、幅広っ。



「車、テスラじゃん」



 ミナトが指摘。斜め前からの写真、よく見るとフロントにテスラのロゴマークがある。



「派手っち」



 思わず本音。いかにも他と違う形でまっ赤。



「ただ、赤い車ってことで使っただけかも」



 ももしおの疑問はその場で解消された。ねぎまが即、チャットで聞いたから。



「赤のテスラだって」


「ここまで目立つ車を選ぶって、すげ」



 ミナトは感心。白なら分かるとか言ってるし。



「ヤバみ。 

 この車から生レンレン出てきたら、私にもきらきら見えちゃうかも」


「ブレないね、生レンレン」



 ももしお×ねぎまはきゃいきゃい騒ぐ。

 そうかも。190くらいの金髪なんだろ? イケてるカッコして。ネックレスとかしちゃって。


 ねぎま、そーゆーのがいいのか? 

 オレと真逆じゃん。チャラいとかカッコつけるとかいかにもオシャレなんて。オレも髪、少しは茶色くした方がいい? 服もGUやユニクロら辺から卒業した方がいい? やっぱ、イケてる男は黒? オレと全然ちげー。あ、でも共通点ある。ツルツル。確か、京が生レンレンの脚はツルツルって言ってた。オレ、まだ体毛薄いんだよな。成長期が遅かったから。それと、チャリ、赤に塗り替えとくよ。



「探し易いんじゃん ん〜」



 ミナトは言いながら伸び。

 ももしおはスルメを食べ続け、ねぎまはスマホと睨めっこ。騒ぐものの、女子2人はさほど生レンレンに興味はないのかもしれない。



「でかい音のこと調べてんの?」



 ねぎまに尋ねてみた。



「ん? 温室ってなんなのかなーって」


「あの工場のなんじゃね? ほら、工場の排水で温室温めてるとか?」


「んー。でもね、地図だと工場の敷地じゃないの」


「じゃ、かもめプラザホール?」



 温室に入ったのは小学生のとき。かもめプラザホールの外の芝生でお弁当食べることになっていた。しかし、雨。かもめプラザホールの屋内は飲食禁止。急遽、温室でお弁当を食べることになった。



「かもめプラザホールでもないみたい」


「そーなんだ」


「でね、あの温室、工場の向こうっ側の施設の一部みたい。名前は分かんない。地図アプリで歩いても、建物の名前、車で隠れてる」



 ももしおが楽しそうに首を突っ込む。



「廃工場とか怪しい倉庫とか軍事施設とか」



 手にはエアーピストル。周りに2発撃って、銃口を口でフーッとやっている。



 ぶぶー



 再び京からデータが届いた。

 それは、京の夏休みの研究16ページ分。そして、データ改竄された16ページ分も。

 京は父親が捨てた紙を写真に撮っていたらしい。出来杉くん。


 ねぎまは熱心にデータを見始める。



「廃工場いいよねー。犯人が人質と一緒に逃げ込むなら廃工場っしょ。拳銃の弾が金属の階段に当たってカンカンゆーの」



 ねぎまが相手にしてくれないからか、ももしおはオレに絡んでくる。2発撃たれた。

 


「うっ」



 撃たれた演技をしてやったのに、ダメ出しされた。



「2発撃ったんだから、ちゃんと2回撃たれて」



 そして演技指導。1発目の弾で右肩を反らせ、2発目で左肩を反らせて後ろに倒れる。或いは、1発目で片方の肩を反らし、2発目を胸か腹に喰らって前に倒れる。或いは、、、以下省略。

 ももしおって、絶対、京よりも精神年齢低いと思う。



「こんな感じ?」


「そ。合格。

 ねーねーねーねー。

 怪しい倉庫もいくない? 麻薬の密売。警察犬が束になって犯人に飛び掛かったりして。

 軍事施設だったら最高。世界の危機を救うFBIとか、ど?」



 ドラマの見過ぎ。まあ、そーゆーの多いけど。麻薬の密売現場には麻薬探知犬、束で行かないんじゃね?

 軍事施設は奇想天外。横須賀や富士山の麓じゃないんだから。でもって、FBIは絡まないんじゃね?

 いつもはももしおに共感するねぎまが静かなまま。データに夢中。



「そーいえば、小学生んとき、温室で白衣の人見た。試験管持っててかっけーって思った」



 オレが話すと、



「単純」



とデータを見ながらねぎまが一言。そこは「かわいい」って言うとこじゃん。カレシの少年時代なんだから。愛が足りない気がする。


 オレ、寝よっかな。温度調べに興味ないし。こーゆー調べものはねぎまの大好物。任せた。

 ミナトが包まっている毛布の端っこに頭をのせ、ごろんと寝転ぶ。揺れる船って心地いい。



「なんかさー、指で変なふうに数えてたじゃん?

 あれ、ちょっとは分かった?」


「えーっと。どーだったっけ。忘れちゃった」



 ウソだ。絶対に覚えている。



「ん?」



 オレにはお見通しだと察したのか、ねぎまは諦めた。


 

「1、きらきらがあると電波は悪くなる。

 2、天気と一緒に千葉の方に来るっぽい。

 5、1年以上前から見えてた。

 6、生レンレンのきらきらもそれ」



 番号抜けてる。


 1年以上前から言えてたのか。京がマジで調べたかったのって、温度じゃなくて、きらきらだったのかもな。本当にやりたいことがあったのに、ばーちゃんブロックがかかった。諦めきれず、夏休みを使って観察した。そんなだったのかもしれない。



「8は何?」


「え?」


「指で8数えてた」


「だっけ?」


「怖い顔して」


「怖い?」


「いえ、ナンデモアリマセン」



 一瞬、ねぎまの垂れた目が一直線になった。聞くのやめよ。


 そんなふうにだらだらしていると、、、



「お腹すいたー」



 ほぼ途切れることなく食べ続けていたももしおが訴えた。



「ももしおちゃん、健康だね」



 ミナトは呆れている。



「何食う?」



 オレが聞くと、ももしおが「豚まん!」と挙手。

 それに賛同して、オレたちは下船し、桟橋を渡る。

 船を係留しているマリーナは中華街へ歩ける距離。

 4人で朱雀門に向かって歩き始めた。





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