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爆音

昨日アップした「白い指先が辿る関節」を「爆音」と「白い指先が辿る関節」に変更しました。

「金髪でした。

 表紙のカラーみたいに肌真っ白で。

 背は190くらい。レンレンもそうですよね?」



 それ、外国人じゃね?

 京は更に情報を加える。



「レンレンっぽい服で、黒Tにシルバーのネックレスしてて。

 黒の短パンで、脚も真っ白でツルツルでした」



 レンレンは外見と言葉遣いがヤンキーっぽい。小さなころから平日も土日もバスケ一色で常にジャージ生活のはず。なのにファッションセンスと女にモテるスキルを持っている。要するに生まれついてのチャラ男。男の敵。



「きゃーーー♡ 生レンレン、見たい」


「14巻からの表紙みたいな紫の目ぇしてました」



 京は細かいところまで見ている。漫画も人も。



「きゃーーー♡ 探そ探そ、生レンレン」


「シオリン、元気出た?」


「うん。マイマイも一緒に探そ?」



 こら、人のカノジョを男探しに使うんじゃねーよ。.……思っていても言えない。小っさい男と思われたくないから。



「そだね。京くんのために、京くんの初恋の人を探しちゃお。ね、シオリン」


「京くんのために頑張ろ。ね、マイマイ」



 ももしお×ねぎまは顔を見合わせて首をこてっと傾ける。

 いやいや、2人とも「京くんのため」じゃねーじゃん。自分が生レンレンみたいだけだろ。


 無謀。この横浜でどーやって探すんだよ。人口370万人越え、そこに加わる莫大な観光客。横浜駅は乗り入れ鉄道会社6社というカオス駅。利用者数は日本5位以内。人人人で溢れている。京は横浜駅で生レンレンを見つけて追ったらしいが、それは運命的な奇跡。


 言われた京はやや引き気味。

 が、そこは聡い子。



「ありがとうございます」



 年上女子に敬意を払った。ももしお×ねぎまのふざけた協力を借りてでも見つけたいのかもしれない。

 しつもーん。



「あのさー、どーやって探すわけ?

 実物見たことねーじゃん」



 ももしお×ねぎまは何も心配していなかった。



「身長190の金髪イケメンなんてそんないないよ、宗哲クン」



とねぎま。



「生レンレンを探せばいいだけじゃん」



とももしお。



「絶対に視界に入っただけで分かります」



と京。


 そーゆーもん?

 ま、いっか。

 オレ、関係ねーし。


 ミナトはその先のことを尋ねた。



「万が一、あるとは思えないけど、億が一、横浜で見つけたとして、どーやって京くんの見た人かどうかって確認とんの? 京くんは千葉に帰るんでしょ?」



 確かに。

 もっともなことを言っただけなのに、ミナトは女子を敵に回してしまった。



「うっさいなー。

 細かいことはいーんだよっ」



 ももしおはミナトを睨み、ねぎまと手を取り合う。



「とにかく、生レンレンを探して拝みたいもん。ね、シオリン」



 この2人は基本、おもしろければなんでもいい。



「見つけたら教えてください」



 京まで便乗する。

 ももしお×ねぎまは「生レンレン探し」ミッションについて会議を始めた。アホくさ。

 オレはカヌレを食べながら、京に確認する。



「男より、女の方が好きなんだろ?」



 瞬間、京は頬を染める。当たり。



「いや、ま、そーっすけど」



 オレは見逃さない。京の視線は、ねぎまの推定Dの胸にコソコソと向けられていた。ももしお×ねぎまが自分の方を見ていないとき、めっちゃ胸見てた。小学生男子だって、女の子のあの膨らみには夢がある。いったい何が詰まっているのか。いつの日か要確認。

 ミナトもその辺は分かっていたらしい。男の勘ってやつだろう。



「ま、いーじゃん。ももしおちゃんが元気になったから」



 あだ名にちゃん付け。毛布に包まる。そしてまたまた大あくび。



「温泉卵食ったし、帰っか。

 ばーちゃん、ホテルで待ってっじゃん」



 オレは船のアンカーを上げた。

 Uターンして戻るのではなく、方向を変えずに京浜運河を進み、川崎に入った辺りで広い湾へ出る予定。

 発進するとすぐ、京が操舵室に飛び込んできた。



「宗哲ニキ、きらきらが。

 かたまって。

 マジで! 超いっぱい」



 尋常じゃない様子に、オレは一旦エンジンを止めた。



「どした?」


「そ、そこっ、建物ん中、きらっきら」



 京の指差す方を見る。でっかい温室。停泊しているときは工場の影に隠れて見えなかった。移動したから現れた。



「あー。あれ、温室。イグアナとか派手な鳥いんの」



 説明するオレに、京は目を見開いて訴える。



「めっちゃきらきら。詰まってる」



 オレの目にはただの温室が見えるだけ。きらきらなんてしていない。太陽が当たっている部分がそれなりに明るいだけ。



「どしたの?」

「何?」

「目ぇ覚めた」



 ももしお×ねぎまもミナトも京が指差す方を見た。

 


「この辺、電波悪かったっしょ。

 いっぱいきらきら飛んでるもん。

 ここにあったから。だからだって。

 天気と一緒に千葉までくるの、ここのやつかも。

 違う。もっとすっげーのがあるのかも。

 でもな、今日、土曜だし」



 京の言葉は意味不明。4人で呆然。



「京くん、ちょっと落ち着こっか」



 ミナトがペットボトルのポカリを差し出す。

 京はそれを一口飲んで項垂れた。



「やっぱ、オレしか見えないのか」



 その時。



バン!

シュバッ

ガタン

ガタガタガタッ



 物々しい音が響き渡った。



「「うわっ」」

「何何何?」

「え?」」

「うわっ」



 驚きの声を上げ、京とミナトは爆音に耳を塞いで蹲る。

 ももしおは即、釣った魚保存用のクーラーボックスの上に立って音の方を眺め、ねぎまは、ももしおが首からぶら下げていた双眼鏡を覗く。

 オレは船が揺れるかもと、反射的に身を低くして足を踏ん張った。



「シオリン、なんか見える?」


「マイマイは?」


「ここからは何も」


「なんか、白い煙みたいなの上がってる」


「え、煙? 湯気?」


「分かんない。

 船、もうちょい陸に近づてよ」



 ふざけるな。

 海は陸よりも低くて何も見えない。陸に近づければ、より見えなくなる。それなのに近づけろなんて、ももしおは上陸するつもり。



「嫌。船体が傷つく」



 断った。



「大丈夫、飛び移るからサ」



 ももしおは既に総打席の屋根の上に立っている。オーマイガッ。

 


「下りろ! 戻れ。ハウス」



 あまりの横着ぶりに頭にきた。



「靴脱ぐから」


「そーゆー問題じゃない」



 そんなやりとりをしているうちに、爆音第2弾。



 ガラララ

 ドドドド

 ガタンガタン



 何かがアスファルトかコンクリートの地面に崩れ落ちる音。

 耳を澄まして様子を見守る。

 やがて人の話し声が聞こえてきた。



「こっちだ」

「老朽化?」

「金属膨張もあるかもな」

「あー、ひどい」

「納期が」

「どうする、これ」

「消防署に連絡「するな!」

「温室、どうします。あっちは土曜、人いません」

「いーなー。土曜休みかよ」

「とりあえず、上に報告して」

「間に合うのか?」

「片付けるぞー」

「手で触るな。火傷する」



 物々しい。

 ももしお×ねぎまは、見たくてうずうずしている様子。

 


ゴボゴボボボ

ゴボゴボボボ



 妙な水の音が近づいてくる。それは工場の排水口の先の方から。

 何? げっ。

 近づいてきた水の音と共に、透明だった水が一気に茶色になった。とても温泉卵を作ろうとは思えない色。

 

 何か事故があったとしか考えられない。

 とにかく逃げよう。



「船出す」



 オレは操舵席に戻ってエンジンを始動させた。

 平和と平穏を愛する男。トラブルからは距離を置くに限る。

 スピードを上げて京浜運河を進む。エンジン音が一層けたたましく唸る。

 すぐ広い部分に出た。

 ここまでくれば大丈夫。


 スピードを落として振り向いた。

 そこにはいつもと同じ景色があった。空には羊雲。ウミネコが悠々と飛んでいく。



「宗哲、ちょい、止めて」


「ん」



 ミナトに言われ、往来する船の邪魔にならない場所に船を停めた。



「京くん、なんか話してたじゃん」


「そっか。そーだった」

 


 びっくりして、京の話忘れてた。

 デッキでみんなと輪になって座った。



「京くん、さっきの話の続き」



 ミナトが促す。



「オレ、なんか、空、ってゆーか空中に、きらきらしたもん見えるんです。

 おばー、えっと、祖母は、他の人には見えないから言うなって。

 それ、さっきんとこに、すっげーいっぱいあって」



 京は俯いて、自分のチノパンの膝をぎゅっと握る。



「見えなくても信じるよ」



 そう言ったのは、ももしおだった。慰めているわけでも同調しているわけでもない。本心。そーゆーヤツ。

 次はミナト。



「オレも。信じる。

 さっき、なんか壊れたのか爆発したのか、あったじゃん?

 あんなんあったら信じるって。

 なんか関係あるかもって思った」



 オレも全面的に京を信じることにした。



「温室見たとき、京の驚き方、あれはガチ。

 京には見えてんだな。なんか。

 さっきの音も気になるし」


「さっきの、なんだったんだろーね」



 ももしおが工場があった方を眺める。けれど、他の建物で見えない。工場も温室も乱立する建物の向こう側にある京浜運河の向こう岸。

 ねぎまはスマホを片手に報告する。



「事故とか音についてSNSにはナシ」


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