表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

烏帽子岩には冬に行け

15話の「濡レルト弱イ?」を変更しました。

研究所を訪れた人を、陽キャ大臣→ししやのマスカット羊羹の人に変更しました。

「なんでここに?」



 みんなで首を傾げる。



「ここでなんかヤバい研究してんだよ。人体にチップ入れるとか暗号資産盗むとか」



 ももしおが声を低くする。それ、もう犯罪だから。

 ミナトが尋ねる。



「ねぎまちゃん、ここも登記簿、調べた?」



 ねぎまは期待を裏切らない。



「いったん国有地になった過去がある土地。今は『アヤC』ってIT企業の研究所。


「聞いたことないよね」



 みんなも、ももしお同様、社名を聞いたことがなかった。 



「『アヤC』は政府からの業務委託が多いってのが売りみたい。転職サイトにあったよ」



 ねぎまは転職サイトまでチェックした模様。

 

 政府からの業務委託、永田町限定のししやのマスカット羊羹、環境だかどっかの大臣が注目ーーーここから推測すると、「知らないおじさん」は政治に関係のある仕事をしている。ただし、文部科学省ではない。


 何が目的で訪れたのか、45分後には再び研究所の前にタクシーがやって来た。建物から出てきた知らないおじさんを乗せ、タクシーは走り去った。


 16時50分。小学生の京は帰宅時間。

 4人で京の背中を見送った。



「アイツ、大丈夫かな」



 小学校最後の夏休みにずーっと温度を測っていたなんて。オレの心配をねぎまが不思議がる。



「なんで?」


「いや、友達とか、いるかなーって」


「私、もう、京くんと友達だけど」


「私もー」



 ねぎまの隣でももしおが挙手。



「いや、同い歳のさ。賞とかとっちゃうくらい頭いーんだろーけどさ」



 オレの老婆心はねぎまに一蹴された。



「それって宗哲クンの価値観でしょ? 子供は群れて元気に遊べって」


「……」


「やりたいこと追求してる京くん、いいと思う」


「そーだそーだ! だからうんこ宗哲なんだよっ」



 ももしおが横からオレをディスる。



「宗哲、懐かれて親目線んなった?」



 ミナトのコメントは慈悲深い。



「ねーねーねーねー、なんか食べよー」



 弁当を1番食っていたももしおの訴えで、小っさいオレの話は流された。レンタサイクルを返却し、本日2度目のファーストフード店。昼より席が空いている。


 小腹が膨れ、ドリンク以外を平らげたももしおは、リュックの中からパソコンを取り出す。



「ももしおちゃん、こんな遠くまで持ってきてたの?」


「軽いからへーき」



 ミナトに言われながら、ももしおはパソコンを開く。起動したパソコンに、ももしおは#横浜イケメンのページを表示する。



「社会人って、あんまり投稿されてないよー」



 がっかりするももしお。



「投票結果は?」



 ねぎまの問いに、「ふつー」とももしおが力なく答える。表現の意味が分からん。ねぎまには通じたのか、「ふーん」とつまらなさそうに頷いている。



「あそこにいる人、研究所の人じゃね?」



 ミナトが少し離れた窓際のカウンター席に目配せした。裏寂しい喫煙所にいたメガネの男。



「聞く?」

「何を」

「いきなり変」

「#横浜イケメンみたいに」

「イケメンちゃう」



 ももしお×ねぎまはコソコソと失礼発言を繰り広げる。結果、話しかけるのはナシ。



「お仕事中だしね」

「だね」



 メガネの男はパソコンに向かってキーボードを打ちながらのコーヒータイム。


 しかし、ももしおは意味ありげに無言で人差し指を立てた。黙って見守ると、設定画面で近くのBluetoothを表示させる。そこに男の名前が表示された。辺りを見回しても、Bluetoothの範囲内にいるのはメガネの男のみ。

 "カルロス雨宮"

 どう見てもカルロス的要素は感じられないが、それが男の名前っぽい。ニックネーム?


 ももしおはカルロス雨宮の名を検索した。

 SNSに彼の名前があった。まさかの本名。自己紹介はエンジニアとだけ。ももしおは名前をアルファベット表記にして検索。出てきた。論文4つ。論文は英語で書かれている。英語が苦手なももしおは、パソコン画面をオレたちの方へ向け、机に突っ伏す。



「シオリン、要約、後で喋るね」



 言いながら、ねぎまはメガネの男の背中を見た。ここでの会話は聞こえる可能性があるから声に出せないのだと。

 論文の内容は、どれもセキュリティについてのものだった。


 ねぎまはスマホで何かを調べている。



「何してんの?」


「なんか、見つけた」



 それは、数年前のインタビュー動画。世界的な企業に就職した日本人にインタビューするシリーズだった。場所はカリフォルニア。カルロス雨宮はアメリカのIT企業に就職した人としてインタビューを受けていた。



「すげっ」



 企業名にびびって思わず声を出したオレに、ねぎまは「シーッ」と人差し指を口の前で立てる。びびるって。世界経済を牽引するアメリカの大企業。就職できるのはトップオブエリートエンジニア。その人が日本のI市にいるのはなぜなーぜ。あ、でも、知らないおじさんがししやの手土産を持って来たくらい。大事なことしてるのかも。


 結局、研究所は何をするところなのか謎のまま。


 核心に近づけなかったことにほっと胸を撫で下ろす。


 もう1つほっとしたこと。それは、死体とか事件とは関係なさそうなこと。



 帰路に着いた。


 電車からTDLの花火を見られるよう時間を選んだ。


 花火の後、ももしお×ねぎまは眠ってしまった。


 そりゃそーだ。連日、きらきらについて調べまくってるんだもんな。


 ねぎまの女神のような寝顔を、いつかベッドの上で見られたら。



「宗哲、ニヤついてる」



 寝顔を見て微笑んでいると、ミナトから指摘された。微笑んだつもりなのに。



「……」


「宗哲、『烏帽子岩には冬に行け』って知ってる?」



 唐突なミナト。



「何それ」


「『麦わら帽子は冬に買え』のデート版」



 烏帽子岩とは、湘南にある海面から突き出ている岩。



「季節外れがいいってこと?」


「うぃぃ。あの辺、夏は渋滞で人だらけじゃん。夏すぎると人いなくて、いー感じ」


「へー。今度行ってみよ」



 ねぎまと。



「お勧め」


「ミナト、行った?」


「ドライブで」


「いーじゃん」



 普通の顔できてるか、オレ。ドライブってことは、それ、相手の車じゃん。高校生のミナトは免許持ってねーもん。どこで車持ってる歳上と出会うわけ。いー感じになった後、どこ行ったんだよぉぉぉ。


 横浜で解散。




 家に帰ると、ミナトからメッセージが届いていた。


『赤テスラあった』


 ミナトに電話したけれど、繋がらなかった。

 もっと情報を書けよ。どこにあったんだよ。いつだよ。どーして電話に出ない。

 寝よ。




 土曜、部活に出かけるとき、ミナトに電話してみた。



『んー。宗哲?』


「おはよ。部活行く?」


『行かね』


「昨日の『赤テスラあった』って、どこ」


『マンションの駐車場』



 ミナトが「マンション」と言うのは、みなとみらい付近にある、親が所有している賃貸マンションのことを指す。現在入居者がいない為、ミナトが使いたいときに使っている。オレたちが遊びに行くこともあるが、多くは女関係で利用。


 マンションの駐車場は地下。車を運転しないミナトは駐車場に行く必要はないはず。察するに、烏帽子岩の女が車を停めたと思われる。おそらくビジター用の駐車スペースを使ったんだろう。



「マンションに来てたってこと?」



 オレはミナトの女のことを聞いたつもりだった。そしたら、



『住んでるわ、生レンレン。

 このマンションに』



 と返ってきた。「この」ってことは、今、ミナトはマンションにいるってこと。ってことは、ミナトの横に烏帽子岩の女がいるってこと。どーゆーことだよ。オレら、未成年なんだからな。テニス部もサボるって? 羨ましすぎるだろ。



「ももしお×ねぎまに知らせる?」


『あ”ー。今日はやめて。ゆっくりしたい』



 そーかよ。烏帽子岩の女とかよ。オレは健全な青少年として部活行くし。

 半ばやさぐれながら、オレは部活へ行った。




 急展開。

 生レンレンの住んでいる場所が分かった。


 しかしオレの頭の中は格差社会について考えていた。



「なー。格差を感じる」



 オレはテニス部でダブルスを組んでいる相手に絡んだ。



「今更」


「モテか非モテかで、人生って変わると思わん?」


「宗哲、カノジョいるじゃん。オレもいるけど」


「無制限にモテたい。無限大にモテたい。したら自尊心アゲアゲでモチベ変わるっしょ。モテるやつは経験値を上げて更にモテてさ、格差ってどんどん広がるじゃん」


「宗哲、お前、好きでもない女にモテてみ? すっげーめんどいから。顔合わせたくないのに会いに来るし、傷つけないようにしないと後で市民権奪われる可能性あるし、何もなくてもカノジョに後ろめたいし。オレ、格差あっても、どーでもいい女にモテたくねー」



 くっ。コイツ、実はモテヒエラルキーの上位者だったんだな。超具体的。



「そっか」


「でも、めんどくなくて、後腐れなくて、可愛くて、おっぱいでかくて、バレない女の子だったらヤリた……じゃなくて、モテたい。かも」



 録音してカノジョに聞かせてやりたいセリフ。

 格差の前に煩悩ありすぎて草。


読んでくださる方、ありがとうございます。とても励みになります。毎日嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ