魔女子さんと大掃除
暫く使っていなかった携帯電話に同窓会の知らせが届いていた。葉書ではなくメールという連絡手段には時代を感じたがそもそもクラス名簿に記載してある住所から退去したのを知らせていなかったのだからメールが来るのは必然であった。
メールの差出人とは特に仲が良いとか悪いという関係性ではなく、ただのクラスメイトであっただけのため余計な文章は一切なく事務的な挨拶と同窓会を開催する旨、開催日時と場所が書かれており最後に参加するかどうか教えてほしいと記載されている。
日付は一年前、メールの受信日はその半年前。家の掃除をしていたら出てきた携帯電話が懐かしくなって電源を入れてしまっただけだ。私は案外義理堅いのでクラスメイトには悪いことをしたなぁと少しの罪悪感を抱きつつも返信はしなかった。今更返されても相手も困るだろう。
それにしても随分と前に携帯電話は解約したはずなのだがよく届いたものだ。一応過去に軽く魔法加工を施した記憶はあるがここまで効果が切れていないとは、電源を切っていたお陰か。写真フォルダには当時撮った写真が数枚入っているだけだがそれでも懐かしさと愛おしさに涙が出そうになる。
「あー! 掃除サボってる!」
「……ノスタルジーに浸ってただけだよ」
「のす……? む、難しい言葉を使えばボクが納得すると思ってるだろ!」
うるさいのが帰ってきた。粗大ごみを外に出すだけでどれだけの時間が掛かっているのだと詰りたい所だがサボっていた自分にも非があるので寛大な心で許してやろう。
「次はこっちにあるの全部ゴミ袋に詰めて」
「はいはい。まったく、ココってば使い魔遣いが荒いんだからさ!」
愚痴を溢しながらも小さい身体でテキパキ働く姿は死にかけていたとは思えない程逞しく成長した。あと数年もすれば立派な成人体になり、やれることも増えるだろう。
「あはは~。優秀な使い魔で御主人様は非常に助かってるよ」
「! ほ、ほめても何も出ないから!」
照れてる照れてる。たまには飴を与えておかないと、臍を曲げられても困る。因みにもう一匹の使い魔は猫だから掃除の手伝いなんて出来ないし大人しく店番をさせている。
一生懸命手を動かす使い魔を眺めながら、ふと手の中にある携帯電話に視線を落とす。
「……ねぇムム。プリンターってどこに仕舞ってたっけ」
「ぷりんたー? 店に置いてるのがそうじゃないの?」
「あれはファックス。まぁムムが知るはずないか」
ムムが使い魔になる随分と前に見た気がするのだが、確か物置部屋にしまっていたと思うのだ。この部屋の掃除が終われば次は物置部屋だ。
「むむむ。ぷりんたーって印刷機のことだよね? 何か印刷したいものでもあるの?」
「まぁ……想い出をね」
携帯電話にかけた魔法がいつ切れるとも分からない。魔女の寿命は長く、それ故に忘れてしまうことも多い。私は、あの時の気持ちを永遠に留めておきたい。