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協力関係

「藤峰君」

「兄さん」

「な、何ですか」

 休日、俺は乃亜と空の二人に呼ばれて、乃亜の部屋にやってきた。そして今俺は二人の女の子に詰め寄られている。二人は私服姿で、わりと薄着のため視線のやり場に困る。そもそも女子の部屋に入ったのは空の部屋を除けばこれが初めてで落ち着かないし、すぐ側には普段乃亜が寝起きしているだろうベッドがあるので尚更。そして二人の距離が近い。すごく顔が近い。シャンプーの匂いだろうか、いい匂いも香ってきて、少しクラクラする。

 などと、嫌な予感を無理矢理に甘酸っぱい方向に持っていこうとしたけれど、

「殺される前に」

「殺してしまいませんか」

 という次の二人の言葉でその努力は霧散した。これは青春ラブコメではなかったのだ。

「な、何ですと」

 分かっている。可能性のことだ。予感が的中してしまった。まさか二人揃って話してくるとは思わなかったけれど。

「だから、殺される前に殺して、生き返らせて万事解決ってことです。説明したでしょう?」

 乃亜が当然という顔をしてとんでもないことを言っている。

「兄さん、私にもできることがあったんだよ。二人で、いや三人で仇を討とうよ」

 空が俺の肩を揺すぶって言う。その顔はいたって真剣で、ちょっと怖い。

「いや、だから、ちょっと、二人とも落ち着いて」

 まずいことになった。二人がすでに結託しているということは、あとは俺をどうにか銃に変身させることができれば、本当に可能性を実行してしまう。二人のいずれか、あるいは両方を人殺しにしてしまう。すでに乃亜をそうさせておいてなんだけれど。

「言っている意味が分かってるんですか。人殺しをするってことですよ」

 どんな大義名分があっても、それは変わらない。殺されるくらいなら先に殺す。なんて物騒な発想なんだ、と俺は思う。もっと他に可能性はないのか、と。

「考え直しましょう、もっといい方法があるかもしれない。要は犯行を未然に防げばいいんでしょう? だったら殺さなくても」

「そんな悠長なことは言ってられません」

「そうだよ兄さん、いつまた事件が起きるか、私たちみたいな思いをする人が生まれるか、分からないんだから」

「で、でも、いくらなんでも人殺しは」

「私が必ず生き返らせるから大丈夫です。任せてください」

「私もきちんとその人の願いを聴き分けてみせるよ、安心して」

「そういう問題じゃないと言いたいんだけど……」

 だめだ、二人ともすでに覚悟が決まっている風だ。そりゃ、彼女らと俺とでは動機がまるで違う。実際に家族を殺されている身からすれば、条件が整った今、それを実行しないわけにはいかないのかもしれない。でも、

「普通の生活を送れなくなるかもしれないんですよ。それで本当にいいんですか」

「もとよりそのつもりです」

「今さらだよ、兄さん」

 もう後戻りはしない、そんな二人の引き締まった表情に、俺はため息をついた。

「じゃあ、言わせてもらうけど、」

 そんな前置きをして、

「俺には何のメリットがあるんだ?」

「に、兄さん?」

 空の目をじっと見据える。

「勘違いするなよ空。今となっては俺も、犯人を許せない気持ちくらいある。だけど、それ以上に危険なことに空を近付けさせたくない。そして、」

 今度は乃亜の目を見据えて、

「俺は平穏な人生を送りたい。たとえ殺人が身近で起こったとしても、それは警察がどうにかすることで、俺たちの役割じゃない。それについてはどう思う?」

 俺はあえて挑発的に乃亜に言った。

「仰っていることは理解しています。その上で、協力をお願いしています」

 それも意味がなかったようだ。だが、

「だったら、俺にもメリットが欲しい」

 結局のところ、俺はお人好しでも、正義漢でも何でもなく、ただの損得で動く、信念のない人間なのだった。そんな俺に、二人は容赦がなかった。

「兄さんの借りを返してよ、変身の魔法使いさん」

「命を助けた恩を、返してくれても構いませんよ、猫さん」

 俺が二人の言うことを聞くとしたら。そう決めていた話をストレートに投げ込まれて、俺は何も言い返せず、

「……はい、分かりました」

 と、言ったのだった。

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