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プロローグ①

よろしくお願いします

 中学2年生のクリスマスイブ、俺は幼稚園からの幼馴染、山野こはるに遂に告白する決心をして彼女をデートに誘った。


「集合時間の10時まであと20分か、緊張するなぁ。」


なんて考えながらスマホの画面を見て少し整えてきた髪型をいじっていると、


「ひなた―!おはよー!!」


といつもと同じような快活さで彼女は走ってきた。スッとスマホから視線を外し彼女のほうを見ていつもみたいに挨拶を返そうとすると、いつもの制服とは違う、陽を反射する白いコートを纏った笑顔が目に入って思わず息を呑む。顔が赤くなるのを自覚したので目をつぶり一度深呼吸をしてから彼女を迎える。


「お、おはよ……こはるのことだからもしかしたら制服でくるかもとか思ってたけど、案外おしゃれするんだな」


「当たり前じゃん!せっかくのクリスマスなんだから私だって可愛い恰好したいよ!」


 そこで一度言葉を切ると、彼女は俺の姿を見てニマニマと笑みを浮かべ出す


「そっちもなんかいつもと違う恰好してるじゃん。普段と違いすぎて三十分くらい陽太かどうか迷ってたよー」


嘘つけ走ってこっちに来たくせに。わざと大きくため息をついて歩き出す。


「はいはいどうせ俺には似合わない恰好ですよー。行こうぜ、そろそろ電車来るから」


彼女は「もー拗ねないでよー」とか言って笑いながら駆け寄ってくる。俺も軽く笑い返して二人並んで歩く。

 

 勝負の一日の始まりだ。


 今日のデートは地元の駅から電車に乗って約一時間のところにあるちょっとおしゃれで人気な喫茶店でお昼を食べてから、夜までその近くの遊園地で遊ぶ。最後にそこのイルミネーションを見ながらプレゼントを渡して告白する予定だ。彼女にはお昼を食べて遊園地で遊ぶとだけ伝えてある。


「それにしてもひどいよねー煉も。私たちより彼女とのデートなんて優先しちゃってさ。早く爆発しちゃえばいいのに!」


「ほんとにな。今頃藤崎とイチャイチャしてるんだろうな」


と彼女に合わせて愚痴を言うが、煉に今日彼女と過ごしてもらうように、というより俺とこはる二人でデートさせてくれと頼んだのはほかでもない俺なのだ。あいつは何も言わなかったら俺たちを優先するか、もしくは「ダブルデートだー!」とか言って彼女も連れてこようとするようなやつだ。憎らしいことこの上ないがほんとに世話焼きでモテるやつだからついでに今日のデートプランからプレゼントまで一緒に考えてもらった。


「俺が手伝うからにはフられて三人の居心地が悪くなったりしたら許さねえからな!」


とプレッシャーのかかる励ましまで寄越してきた。


「………だよね?」


ここにいないもう一人の幼馴染に思いをはせているうちにこはるが何か俺に同意を求めていた。


「ああ…そうだね」


と適当な相槌でごまかすと、なぜか彼女は照れ臭そうに「えへへ」と笑った。


 


 駅に着き、普段は感じない都会の浮かれた雰囲気の中を歩く。そんな空気に二人でいるせいか、その辺に歩いているカップルみたいに手を繋いだりはもちろんしない(できない)が、それでもどこか自分たちの間に流れる空気もいつもとはなんだか違う気がする。彼女も何かを感じているのか普段のような調子で話しかけてくることはなかった。

 人気の喫茶店についた。横にいるこはるを見ると鳩が豆鉄砲食らったような顔で看板を見ている。三人で出かけるときの昼飯はいつもファーストフード店やラーメンで済ませることが多かったから驚いているんだろう。


「……ぇえ!?ここで食べるの!?」


「おう。予約してたんだ。入ろうぜ、今日は特別に奢ってやるよ」


と自分も少し気圧されながらもできるだけ自然な挙動で店に入る。

予約していた二人席に案内され、向かい合って座るとすぐに彼女が少し笑みを浮かべて訪ねてくる


「煉が来ないことになったのってちょっと前なのに、よくこんな人気なお店を二人分で予約できたね?」


ほんと目ざといなコイツ…うまくごまかす言葉も見つからない。


「俺の父ちゃんの弟の息子のおじさんがこの店の店長と知り合いなんだよね。そんなことよりサンドイッチ食おうぜ、美味いらしいじゃん。」


と見え透いた嘘で無理やり抑え込んでメニューの注文を促す。


「へえー…もともと私とデートする気だったのかと期待しちゃったよおー。まあいいやサンドイッチどれにしようかな!」


明らかなからかいには乗らず黙ってメニューを見て注文する。

 

 しばらくしてサンドイッチが届いた。具材がカラフルでとてもおいしそうだ。おなかが減っていたのですぐにかぶりついた。こはるも写真を撮って、見た目を十分に堪能してからパクリとかぶりついた。とても幸せそうで、おいしい!とはしゃぐ様子は本当に可愛らしい。

食べ終わって外に出るとこはるが少し申し訳なさそうに


「結構高かったけどお金大丈夫?」


と聞いてきた。今日のために手伝いやら何やらでお金を貯めていたので、自信をもって大丈夫だと伝えると、彼女はすごくいい笑顔でお礼を言ってくれた。この笑顔のために俺は今日まで頑張ってきたんだ!


 


 少し歩いて次は遊園地を目指す。今日はクリスマスイブだから混んでいるだろうけど、チケットはとっているし今日のメインはクリスマスショーだし楽しめないなんてことはない、と思う。

 

 遊園地についてから俺たちは比較的空いているところにとりあえず並びまくった。もちろん人気のアトラクションじゃないからすごく面白いってのも少なかったけど、終わった後に笑いながら感想を言い合うのはどんなつまらないものの後でもすごく楽しかった。

 

 18時を過ぎ、辺りも暗くなってきた頃合いに、俺はこはるを、イルミネーションを見ようと誘った。

煉に勧められた時も思ったんだけど、やっぱり俺がこはるにそんな洒落たところで告白するのってなんだからしくないような気がしていた。あいつは幼馴染で親友同士だからこそまず異性として意識させなきゃいけないとか言ってたけど、やっぱりなんか照れ臭いな。イルミネーションがある区画へ向かいながら、楽しみだねとはしゃぐこはるを横目にそんなことを考えていた。

 

 その区画へたどり着くと、やはりそこは人であふれかえっていた。こはるは俺の腕を遠慮なくぐいとつかみ、陽太が迷子にならないように掴んどいてあげるねと笑う。俺はそんな彼女にへいへいと答えながら、目当てのイルミネーションの方へ行く。 

 

 実は、彼女は人にはあまり言わないが結構なオカルト好きで、ここ十数年ほどずっとオカルト界で話題になっている『扉』にお熱だった。まあ『扉』って都市伝説はオカルトにあまり興味がない俺でも聞いたことがあるほど有名なものなんだけど。世界のどこかの誰にも予測できない地点、時間に数か月に一回出現する謎の扉。それ自体の存在は既に明らかになっているそうで、その先には何があるのか、という問題に注目が集まっているらしい。

 

 今回この遊園地に来たのは、ここのイルミネーションのメインの大きなお城の扉がそんな『扉』をモチーフにしていると言う噂を聞いたからで、そんなわけで俺はその作品のほうへあるいた。

 

 人が多いところから少し離れてお城の全体が見えるところまで行くと、彼女はすぐにその扉の秘密に気づいたのか、感極まったようにわあ…!と声をあげた。

 

 「あれって『扉』だよねえ!すごい!すごくきれいだよ!陽太!私のアレ好きなこと覚えててくれたんだ!!」


彼女は掴んでいた俺の腕をギュッと抱きしめてくる。


「オカルトに興味持ってから『扉』の話をしない日のほうが少ないぐらいだっただろお前」


照れを隠しながらいうと、


「あれ?そうだったっけ?…………でもさ、ほんとにありがとうね。今日はいつもとは違ったけど最高の一日だったよ!」


彼女はえへへとはにかんで笑った。


 なんかいい雰囲気になってきた気がしたので彼女に想いを伝えるなら今しかないと思い口を開く。


「なあ、こはる。ちょっと伝えたいことがあるんだけどさ」


「どしたの?改まって」


「こう…さ、ちょっと俺らって付き合い長すぎて逆に整った綺麗な言葉とか伝えるのって照れ臭いからさ、単刀直入に言わせてもらうけど…」


「……うん」


深呼吸してできるだけ心を落ち着けて続ける。


「俺の彼女になってくれませんか?」


自分の顔がものすごく赤くなっていくのを感じる。少し人込みを外れたとはいえまだ喧騒の中ではあるはずなんだけど、俺とこはるだけ世界から遮断されてるみたいに彼らの声がどこか遠くに聞こえる。

 

 静寂に耐え切れず、彼女の顔も見られないまま俺は言葉を続ける。


「あっあと、これ。クリスマスプレゼント」


彼女は黙って受け取る。手渡したプレゼントを目で追ってそのまま彼女の顔をチラリとみると、彼女も真っ赤になっていた。


「…開けていい?」


と彼女が聞くので無言で頷く。彼女は先に開けてほしいと思っていたほうのプレゼントから開けてくれた。そっちのほうに入れたのは煉にもらったアドバイスとこはるの発言をもとに選んだ堅実なプレゼントだ。


「…あっ。ハンドクリーム?ありがとね、こんなことまで覚えててくれたんだ。」


少し落ち着いてきたので返事をする。


「これに関しては覚えてた俺も偉いと思う。もっと褒めてくれてもいいんだぞ。」


というと彼女は顔を赤らめながらガシガシと俺の頭を撫でた。

一呼吸おいて、


「こっちもあけるね?」


と彼女はもう一つの箱に手をかけた。


「そっちはかなりネタに走ったから期待するなよ?」


と一応保険をかけておく。

箱の中身を見ると彼女は顔を少し顰めて


「なにこれ?古より伝わる何とかのカギとか?」


と言いながら俺に目の前に錆びたカギを突き出した。

俺は笑いながらそのカギを手に入れた経緯を説明した。

 

 実は以前に一度今日のデートの下見にこのあたりに来ていて、そこでボロボロの骨董品屋のような店を見つけたこと。なんとなく雰囲気に惹かれて店に入ると、フードを被った顔の見えないいかにもな店員がなぜか無言で俺にこのカギを売りつけてきたこと。そこまで高価でもなかったからこはるへのプレゼントにちょうどいいかと何とはなしに買ったこと。


 そんなことを話していると、彼女はハンドクリームをもらった時よりも遥かに興奮した様子で


「なにそれ!!超おもしろそう!これもらっちゃっていいの!?」


とはしゃぐので、また今度一緒に行ってみようというと、彼女は嬉しそうにブンブンと首を縦に振った。


「次は私のプレゼントもあげる!」


こはるは俺に、「んっ!」とプレゼント袋を差し出した。返事が特になかったから、あれ?俺の告白ダメだったのか?と思ったけど、彼女の勢いに呑まれて袋を受け取る。開けてみると、手編みの手袋と手紙が入っていた。それを見た彼女は虚を突かれた様子で慌てて付け加えた。


「あっ、手紙は帰ってから読んでね!恥ずかしいから!」


 頷いて手袋をカバンの中に入れてから改めてこはるの顔を見ると、彼女は意を決したように話し出した。


「あのね、今日の…デートはさ、とっても楽しかった。ドキドキしたし、告白もとっても嬉しかった。でもさ、これは私のワガママだけど、私たちは私たちらしい場所でスタートしたい、かも…」


俺はその言葉を聞いて安堵した、やっぱり俺はこの女の子と付き合いたいと心から思った。


「こはるもそう思ったのか。敵わないなぁ。」


と、降参したように笑った。


「どうせ今日のデートは煉に相談したんでしょ。私にはお見通しなんだから!今度は私と一緒にデートプラン考えてよね!」


彼女が勝ち誇ったようにいうのにつられてもっともだと笑う。


「じゃあさ、ここで出たら早速駅前のイルミネーションをハシゴしよ!」


と今度はこはるが俺の手を引いて歩いていく。きっと明日からは今までよりももっと楽しい日々が続くんだろうと信じて。



 手を引かれて歩く。行きでは呑まれたその雰囲気も、今の俺たちは意に介さずに歩くことができた。長い道のりではなかったけど、たくさん話をした。煉が驚くような報告の方法あるかなとか、あの骨董品屋の正体はなんだとか、『扉』の向こう側はどうなってるとか、今度はどこにデートに行くかとか、ほんとにたくさん、たくさん。

 

 そして駅前のイルミネーションまで来た時、彼女は待ちきれなかったかのようにスルリと俺の手を放して駆けていく。そして10メートルも離れないところで、俺に向けておーい!と手を振ったその瞬間だった。彼女の背後に2メートルほどのそう大きくない、イルミネーションで見たのとよく似た扉が『在って』、彼女の意志とは裏腹に、扉自体に引き寄せられるようにして、最後に俺のほうに手を伸ばして…………











こはるは扉の中へ消えた。

俺は扉へ駆け寄ることすらできなかった。


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