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間章 皇都アジェの鳴動・2

皇宮カルメルの、第一皇子宮――


「皇子殿下」

皇子宮、第一皇子アリオス・エル・リクスルの私室に、ためらいがちに声がかかった。第一皇子の数少ない召使のひとり――ラウ・リーベルの声だ。

「…皇子殿下」

私室に入ったラウは、長椅子に腰掛けて、恐ろしく分厚い本を読んでいる主に再び声をかけた。

「…なんだ」

ラウの呼びかけに答えた主――第一皇子アリオスは父譲りの、リクスル皇家の紫の瞳をラウに向けた。

今年十四歳になるアリオスの顔にその年頃の子どもが浮かべる無邪気な表情は微塵もなく無表情に近い顔つきだ。父ユリシス皇王譲りの紫の瞳を持つアリオスだが、顔立ちやまなざしはむしろ生母ユリア似と言われていた。


アリオス・エル・リクスルは皇王と皇妃アヴィーナとの間に産まれた御子ではない。皇王と今は亡き側妃、ユリア・エル・リクスルとの間に産まれた御子だ。皇子として認知はされたが皇室規範に従い、アリオスは十歳までルヴァンにあるクルテア離宮で十歳まで母と離されて養育されていた。十歳の誕生日に皇都アジェに帰還して初めてリクスル皇家の家族――父ユリシス皇王、義母アヴィーナ皇妃、腹違いの姉ルイシア皇女、同じく腹違いの弟アスエル皇子、そして生母ユリア側妃に引き合わされた。

そのあたりの経緯やアリオスの母、ユリアのことは後々語るとして――

「殿下…姉君、ルイシア皇女殿下がお見えでございます」

ラウの言葉にアリオスは眉を上げた。

「姉上が?…なぜ」

「理由は存じませんが…皇女殿下はお一人で参られたようで…」

「…分かった。お通ししろ」

「はい、皇子殿下」


しばらくして第一皇女、ルイシア・オズ・リクスルは皇族の礼をして入出した。

ルイシア皇女はユリシスとアヴィーナとの間に産まれたれっきとした正統血統の皇女、リクスル皇家の長子である。アリオスの二つ上の腹違いの姉に当たる。この年頃の少女なら母の違う腹違いの弟をこの年の少女なら疎むだろうに、ルイシアはアリオスをもう一人の弟、ユリシスとアヴィーナの御子である第二皇子アスエルと同じように心から大事にしていた。


アリオスもまた、この心優しい姉を彼なりに愛そうと努めていたからか、

「姉上」

アリオスは入出した姉に礼を返すと椅子を勧めた。無表情だがその仕草には親しみがこもっていた。

「アリオス…あなた、お母さまが付けてくださった侍女たちをすべて拒否したのは本当なの?」

勧められた椅子に座ったルイシアは困惑した顔つきで弟皇子に問いかけた。アリオスはラウにお茶の用意を命じると、姉の問いに頷いた。

「あなたももう十四歳、しきたりは理解できるでしょう?わたしたち皇族は侍女たちが付けられるのが慣例なのよ?」

「はい、姉上。ですが…俺は侍女は要りません。ラウや下男、下女たちがいるだけで充分過ぎるくらいです」


アリオスはルイシアに淡々とした口調で答えた。べつだん、あたたかみのない冷ややかな口調ではなかったがアリオスはきっぱりと姉に言って姉の、自分と同じ紫の瞳をひたと見据えた。



鳴動の二話目です。次もルイシアとアリオスの会話です。

次話予定タイトル「皇都アジェの鳴動・3」で、鳴動は次か、その次で終わりになる予定です。

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