間章 皇都アジェの鳴動・1
アリオス:リクスル皇国第一皇子
ルイシア:リクスル皇国第一皇女
アスエル:リクスル皇国第二皇子
アヴィーナ:リクスル皇妃、ルイシアとアスエルの生母
ユリア:アリオスの生母、側妃
アディス:カストール公爵、皇室補佐官
リクスル皇国、皇都アジェ―――
皇宮カルメルの皇王ユリシス・タル・リクスルとその家族たちの住まう内宮のひとつ、皇妃宮――
「…おまえにまかせた例の件は大丈夫なのね?」
「はい、皇妃殿下。お任せください。この足でわたしはカストールに戻ります」
「そう――おまえは二年ぶりに領地に戻るのね。」
皇妃宮の主、アヴィーナ・タル・リクスル皇妃は疲れた顔で相手――皇王、皇妃の相談役にして一番の友人でもある皇室補佐官、カストール公爵アディス・レイ・ヴィランを見た。
「はい、殿下。これを機に、息子も連れてくるつもりでいます」
「そういえばおまえの息子は今年から学院に入学する年だった――かしら?」
「来月、十三歳になります。月日が経つのは早いものです」
アディスの言葉にアヴィーナは深く頷いた。
「ルイシアも、アスエルも、……アリオスも本当に大きくなったわ。ルイシアは、病気がちだった身体が近頃はすっかりよくなり、アスエルは身体は弱いけれど、心優しい、兄弟思いの子になってくれた。アリオスは…」
アヴィーナ皇妃はふと遠い目をした。
「アリオスは、日に日にユリアさまに似てきている…あの方に生き写しの面差しになった…。アディス、わたくしはね、子どもの頃ユリアさまのことが本当に好きだった。あの方のようになりたい、そう思っていた。そんなあの方の御子であるアリオスの瞳は、陛下譲りの紫の瞳―リクスル皇家の色。けれど――あの子は、ユリアさまのまなざしを頂いたようね。あの子の目をのぞくと、時々あの子がユリアさまに見えるときがある…」
「………」
「アリオスは、ユリアさまがお隠れになられてから変わってしまった。無口だけれどユリアさまに似て心根の優しい子に育っていた。…それが今は…」
暗い目つきになった皇妃に、アディスは何か言おうと口を開きかけたが、今のアヴィーナに慰めの言葉は通じないことに気づき、黙って控えた。
「…ごめんなさい、感傷にひたっているときではないわね。…アディス、そう、その娘の名前は何と言うの?」
しばらくしてアヴィーナは我に返ったのか、控えていたアディスに無理に明るく笑いながら話し掛けた。アディスはゆっくりとその名を口にした。
「リンダ――リンダ・ベルデです、皇妃殿下」
読み直したら意味不明だったので大幅改稿しました。ごめんなさいヒルダさん…あなたの出番はまだあります。
次話予定タイトルは「皇都アジェの鳴動・2」です。
ルイシア皇女、アリオス皇子の話になる…はずです。